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無能スキル【石】と追放された俺~宝石の力で成り上がる~  作者: 海老沢大地
第3章 鉱山ギルドと魔石狩り

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第49話 黒錆粉小鬼の魔石

 坑道ギルドの危険魔石記録室で、黒錆粉小鬼の魔石が石台に並べられた。

 小瓶は3つ。どれも赤黒い砂を固めたような魔石で、表面がざらついている。完全な黒錆魔石ほど強くはない。黒錆化前鉄鋼魔石ほど硬さの芯もない。だが、粉として広がる性質があるせいか、瓶越しでも空気に細かなざらつきを感じた。

 ナノは小瓶から少し離れて立っていた。

 近づきたい気持ちはある。だが、さっき坑道で何度も足が前に出かけたことを思い出すと、簡単には近づけなかった。

 ラウネが記録板を手に言う。

「黒錆粉小鬼の魔石、3つ。状態はいずれも中程度。袋を破らずに回収できたため、粉の散逸は少ない」

 ダルガが頷いた。

「ナノの読みが効いた。粉の流れを先に読めたのは大きい」

 ナノは首を横に振った。

「でも、何度も近づきかけました。ロガが止めてくれなかったら、たぶん危なかったです」

 ラウネは記録の手を止めた。

「それを報告できるなら、良い報告よ」

「失敗じゃないんですか」

「失敗しかけたことを隠す方が失敗。特に危険魔石ではね」

 ナノは小さく頷いた。

 ミラが右腕を確認する。

「赤みは昨日より薄い。でも、黒錆粉への反応は出ているわ。今日は共鳴試験はなし」

「はい」

 即答できた自分に、ナノ自身が少し驚いた。

 昨日までなら、少し残念そうな顔をしたかもしれない。いや、今も残念ではある。けれど、それ以上に休む必要が分かっていた。

 グレンが記録室へ入ってきた。

 彼は黒錆粉小鬼の魔石を見て、しばらく何も言わなかった。

「これは黒錆魔石への適合に直接使う石ではない」

 ナノは少し意外だった。

「使えないんですか」

「使えないわけではない。だが、硬化ではなく拡散の性質が強い。お前が今必要としているのは、硬さを保ちながら偏らせないことだ。粉の性質を先に入れると、石紋が散りすぎる」

「散りすぎる……」

「力がまとまらなくなる。黒錆を制御する前に、黒錆粉の拡散を入れるのは危険だ」

 ナノは小瓶を見つめた。

 必要な石と、今は必要ではない石。

 力になりそうなものでも、順番を間違えれば危険になる。

「じゃあ、この魔石は」

「研究と粉対策に使う。お前の適合用ではなく、坑道の安全用だ」

 その言葉に、ナノは少しだけ胸が軽くなった。

 全部を自分の力にしなくていい。

 魔石は自分が強くなるためだけにあるのではない。坑道を守るため、誰かを治すため、危険を防ぐためにも使われる。

 ダルガが言った。

「魔石狩りで大事なのは、持ち帰った石をどう使うかだ。自分に合わない石を無理に飲み込む者は、魔石狩りではなく魔石喰いだ」

 魔石喰い。

 その言葉は嫌な響きを持っていた。

 ナノは黒錆に引かれた自分を思い出す。もしロガが止めてくれなかったら。もし欲しいという衝動に従っていたら。自分も、魔石狩りではなく魔石喰いになっていたかもしれない。

「俺は……魔石喰いにはなりたくないです」

 声に力が入った。

 グレンが静かに頷く。

「なら、選べ。欲しい石ではなく、今必要な石を選ぶ。それができるようになれ」

「はい」

 ロガが横から言う。

「じゃあ、今日の黒錆粉小鬼の魔石は見送りだな」

「うん。……少し欲しいけど、今じゃない」

「言えるなら大丈夫だ」

 ロガの声は、前より少し柔らかかった。

     *

 その夜、ナノは黒鉄炉の隅で黒脈石の護符を磨いていた。

 戦闘でついた細かな汚れを布で落とす。黒脈石の表面には、最初に作った時の歪みがまだ残っている。完全な形ではない。けれど、その歪みすら今は自分らしいと思えた。

 ロガが隣に座る。

「まだ磨いてんのか」

「うん。今日はこれを磨きたかった」

「なんで」

「黒錆粉小鬼の魔石を見て、全部を欲しがらなくていいって思ったから。だから、自分の石をちゃんと見直したくなった」

 ロガは少し黙った。

「変なこと言うけど、分からなくはない」

「ロガも変なこと言うんだね」

「うるさい」

 ナノは笑った。

 黒脈石の護符が、灯石の光を受けてわずかに光る。

 強くなることは、何でも取り込むことではない。

 選ぶこと。

 止まること。

 戻ること。

 今日の依頼は、それを教えてくれた。

ここまで読んでくださってありがとうございます。

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