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無能スキル【石】と追放された俺~宝石の力で成り上がる~  作者: 海老沢大地
第3章 鉱山ギルドと魔石狩り

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第47話 粉を撒く小鬼

 黒錆共鳴の訓練を終えた翌日、坑道ギルドに新しい依頼が貼り出された。

 依頼札の端には、赤い布が結ばれていた。完全な危険依頼ではないが、通常の見習い依頼より注意が必要な印だ。

 北鉱道補助路。黒錆粉を撒く小鬼の駆除。

 危険度E上位。推奨人数3名以上。対象、黒錆粉小鬼。

 ナノはその名前を見た瞬間、眉を寄せた。

「黒錆粉小鬼……?」

 隣でロガも依頼札を覗き込む。

「ゴブリンじゃないのか」

 ラウネがカウンターから答えた。

「分類上はゴブリン系よ。でも通常の鉄鋼ゴブリンほど体は大きくない。黒錆化した鉱石粉を食べて、背中の袋に溜め込む個体。坑道夫たちは昔から黒錆粉小鬼って呼んでるわ」

 ナノは札の文字を見つめた。

 一般的な名前ではない。この坑道で、働く者たちが危険を覚えるためにつけた呼び名。魔物名というより、坑道の記憶そのものに近かった。

「粉を撒くんですか」

「ええ。追い詰めると背中の袋を破って黒錆粉を撒く。吸うと痺れと硬直。ナノ、あなたは特に近づきすぎないこと」

 ラウネの声は事務的だったが、目は真剣だった。

 ナノは頷いた。

「分かっています。……でも、この依頼は俺に関係がありますよね」

「あるわ。黒錆共鳴を実戦で保つ前に、黒錆粉への反応を知る必要がある。ただし、今回はグレンとダルガ班が同行。あなたは後方の見極め役」

 ロガがすぐに言った。

「俺も行く」

「もちろん。止め役として」

「完全に役目が固定されてるな」

「重要な役目よ」

 ロガは何か言い返そうとして、諦めたように肩を落とした。

     *

 北鉱道補助路は、以前の資材置き場より狭かった。

 天井が低く、壁には古い鉄板の補強がいくつも打ちつけられている。ところどころ錆び、剥がれた鉄板の裏から黒い粉がこぼれていた。空気は乾いているのに、鼻の奥に湿った鉄の匂いがまとわりつく。

 ナノは口元の布を強く結んだ。

 息が少し苦しい。けれど、黒錆粉を吸うよりはいい。

 先頭はダルガ。右にセリカ。後方にナノとロガ。そのさらに後ろにミラがいる。

 グレンは今回は直接前に出ず、ナノの近くを歩いていた。

「近くで見るな」

 グレンが低く言った。

「見極め役なのに、見すぎるなって難しいですね」

「石眼に頼るなという意味だ。粉の流れ、足跡、袋の膨らみを見る。全部を石眼で読もうとするな」

「はい」

 ナノは足元を見た。

 小さな足跡がある。ゴブリンより小さい。爪の跡が浅く、歩幅も短い。ただ、その周囲に赤黒い粉が散っていた。

「近いです。足跡が新しい」

 セリカが頷く。

「粉も湿っていない。さっき通ったね」

 奥から、きしきしという音が聞こえた。

 袋が擦れるような音。

 ナノの右腕がわずかに熱を持つ。

 岩陰から、小さな影が出てきた。

 黒錆粉小鬼。

 背丈はナノの腰ほどしかない。細い腕、曲がった背中、灰黒い皮膚。だが背中には異様に膨らんだ袋のような器官があり、その表面に赤黒い粉がこびりついている。目は黄色く濁り、口元からは鉄粉混じりの涎が垂れていた。

 1匹だけではない。

 岩陰の奥に、さらに2匹。

「3匹」

 ナノが小声で言う。

 ダルガが頷いた。

「袋を破るな。足を落として、腹を取る」

 セリカが左へ回る。

 その瞬間、1匹が甲高く鳴いた。

 きぃ、と耳の奥を刺すような声。

 黒錆粉小鬼が背中を膨らませる。

「撒くぞ!」

 ダルガが叫んだ。

 ナノは反射的に石眼を開きかけた。

 だが、寸前で止めた。

 粉の動きは見える。石眼を使わなくても、背中の袋の裂け目から粉が噴き出す方向は分かる。

「右へ流れます! 左壁側なら薄い!」

 ナノが叫ぶ。

 ダルガ班が即座に左へ動く。

 粉が右側の通路へ舞った。灯石の光が赤黒く濁る。吸い込めば危険な粉が、霧のようにゆっくり広がっていく。

 ロガがナノの腕を掴んだ。

「下がるぞ」

「でも、まだ」

「見るのは仕事だ。でも粉の中に突っ込むのは仕事じゃねぇ」

 ナノは息を呑んだ。

「……分かった」

 ロガに引かれ、半歩下がる。

 ダルガが前に出る。盾で小鬼の動きを封じ、セリカが足を切る。袋には触れない。腹部の魔石を狙うため、慎重に倒す。

 1匹目。

 2匹目。

 だが、3匹目が壁をよじ登った。

「上!」

 ナノが叫ぶ。

 小鬼は天井の古い鉄板に爪を立て、背中の袋を震わせている。上から粉を撒くつもりだ。

 このままでは全員に降る。

 ナノの右腕が熱を持つ。

 黒錆共鳴を使えば、投げた石を強くできるかもしれない。

 でも危ない。

 昨日の訓練でも、欲が出た。

「ナノ、使うなら言え」

 グレンの声。

 ナノは護符を握った。

「……使います。短く。石を投げるだけです」

 鉄鋼魔石、鱗硬化、黒錆化前魔石。

 共鳴を一瞬だけ通す。

 右腕に赤黒い熱が来る。怖い。けれど、熱は肩へ散る。指は動く。

 ナノは足元の小石を拾った。

「百錬成鋼……微」

 投げる。

 小石は一直線に飛び、天井の鉄板ではなく、小鬼の足元の留め具を弾いた。鉄板が揺れ、小鬼が体勢を崩す。

 袋は破れない。

 セリカの投げ刃が小鬼の足を切り、ダルガが下で受けた。

 ナノはすぐに共鳴を切った。

 右腕が重い。

 だが、戻れた。

 ロガが肩を掴んだまま言う。

「今のは……悪くなかった」

「怖かった」

「だろうな。俺も怖かった」

 ロガがそう言ったことに、ナノは少し驚いた。

「ロガも?」

「当たり前だろ。お前が黒錆に持ってかれたら、俺が困る」

 その声は乱暴だったが、震えが少し混じっていた。

 黒錆粉小鬼は倒れた。

 粉は舞っている。

 けれど、袋を破らずに3匹とも制圧できた。

 ナノは右腕を押さえながら、荒い息を吐いた。

 実戦の中で、黒錆共鳴を使い、戻ってこられた。

 小さな一瞬。

 だが、それは確かに次の段階だった。

ここまで読んでくださってありがとうございます。

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