表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
無能スキル【石】と追放された俺~宝石の力で成り上がる~  作者: 海老沢大地
第3章 鉱山ギルドと魔石狩り

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
33/37

第33話 ゴブリンメイジの鉄呪

 ゴブリンメイジは、資材置き場の奥に立っていた。


 細い体。


 曲がった背中。


 だが、その目だけは異様に濁っていなかった。


 普通の鉄鋼ゴブリンのような獣じみた飢えではなく、こちらを見て測っているような知性があった。


 手にしているのは、杖というより、黒錬鉱の細い棒だった。


 先端には鉄鋼魔石の欠片が埋め込まれている。


 ロガが小槌を構える。


「厄介だぞ。ゴブリンメイジは数が少ないけど、坑道の魔物にしては頭を使う」


「魔法を使うんですか」


「ああ。低級だけどな。鉄粉を固めたり、爪を硬くしたり、足止めしたりする」


 ナノは息を整えた。


 魔石はすでにいくつか回収した。


 ここで無理をして壊してはいけない。


 だが、ゴブリンメイジが逃げれば、また群れを作るかもしれない。


 ナノは石眼を使うべきか迷った。


 相手は未知だ。


 危険。


 一瞬だけなら。


「石眼、使います」


 ナノはロガに告げてから、石眼を開いた。


 視界が白く滲む。


 ゴブリンメイジの体に、情報が浮かぶ。


 ――ゴブリンメイジ。


 ――鉄鋼ゴブリン群れ内、魔術個体。


 ――使用術式、鉄呪。


 ――魔石位置、喉下。


 ――杖先端、低級鉄鋼魔石加工片。


 ――杖破壊時、術式不安定化。


 ナノはすぐに閉じた。


 頭が少し痛む。


「喉の下に魔石。杖の先端にも鉄鋼魔石があります。あれを壊すと魔法が乱れるかも」


「なら、杖からだな」


 ロガが一歩前へ出た。


 その瞬間、ゴブリンメイジが杖を床へ打ちつけた。


 かん。


 高い音。


 床に散らばっていた鉄粉が浮き上がる。


 ナノの目が見開かれた。


 鉄粉が細い針のように集まり、2人の足元へ走る。


「足!」


 ナノは叫んだ。


 ロガが跳ぶ。


 ナノも横へ避ける。


 直後、鉄粉が床で固まり、黒い棘のように突き出した。


 避けなければ、足首を貫かれていた。


「これが鉄呪……!」


 ゴブリンメイジが喉を鳴らすように笑った。


 ぎ、ぎぎ。


 嫌な笑い声。


 ロガが小槌を握り直す。


「近づきにくいな」


「遠くから石を投げますか」


「杖を狙えるか?」


 ナノは床の小石を見た。


 黒錬鉱の小片。


 重さはある。


 だが、普通に投げてもゴブリンメイジに避けられるかもしれない。


 黒鉄炉で石を叩いた感覚。


 錆鳴鼠の鳴き役を石で止めた時の感覚。


 百錬成鋼を使えば、威力は出る。


 でも、使いすぎれば体に響く。


 ナノは胸元の護符を握った。


 少しだけ。


 必要な分だけ。


「ロガ、音を出して注意を引いてください」


「分かった」


 ロガは左の鉱石箱を小槌で叩いた。


 かん!


 ゴブリンメイジの目がそちらへ動く。


 同時に、ナノは黒錬鉱の小片を投げた。


 狙いは体ではない。


 杖の先端。


「百錬成鋼……微」


 小さく呟く。


 体の芯が一瞬だけ硬くなる。


 小石が真っ直ぐ飛んだ。


 ゴブリンメイジが気づく。


 杖を上げる。


 だが、遅い。


 小石が杖の先端に当たった。


 かん、と高い音が響く。


 埋め込まれていた鉄鋼魔石の欠片にひびが入った。


 ゴブリンメイジが悲鳴を上げる。


「今!」


 ロガが走る。


 ゴブリンメイジは慌てて杖を床へ打ちつけた。


 鉄粉が集まる。


 だが、形が乱れている。


 棘になりきらず、床に黒い塊として散った。


「乱れた!」


 ナノが叫ぶ。


 ロガが踏み込み、小槌で杖を弾いた。


 杖が飛ぶ。


 ゴブリンメイジが細い爪で抵抗する。


 ナノは横へ回った。


 喉下。


 そこに魔石がある。


 だが、ここも強く叩けば壊れる。


 ナノは槌ではなく、柄を使った。


 ゴブリンメイジの肩を押さえ、体勢を崩す。


 ロガが膝を打つ。


 ゴブリンメイジが倒れる。


 ナノは喉下へナイフを当てた。


 その瞬間、ゴブリンメイジの目がナノを見た。


 濁った知性。


 恐怖。


 怒り。


 そして、何かを訴えるような光。


 ナノの手が一瞬止まった。


 魔物だ。


 分かっている。


 倒さなければ、また誰かが傷つく。


 でも、今の一瞬、相手にも恐怖があると分かってしまった。


「ナノ!」


 ロガの声で我に返る。


 ゴブリンメイジの手が、床の鉄粉へ伸びかけていた。


 迷えば危険だ。


 ナノは歯を食いしばり、喉下の魔石周辺へ刃を入れた。


 魔石を傷つけないよう、しかし確実に。


 ゴブリンメイジの体から力が抜けた。


 ナノは息を吐いた。


 喉下から取り出した魔石は、通常の鉄鋼魔石より小さいが、内部に細い黒い紋様があった。


 鉄呪魔石。


 そう呼びたくなる石だった。


 ロガが杖を拾う。


 先端の鉄鋼魔石加工片は、ひびが入っているが残っていた。


「こいつも素材になるな」


「はい……」


 ナノの声は少し沈んでいた。


 ロガが横を見る。


「どうした」


「一瞬、止まりました。あのゴブリンメイジが、怖がってるように見えて」


 ロガは少し黙った。


 それから、床に座り込んだナノの隣へしゃがむ。


「魔物でも、怖がるやつはいる」


「……はい」


「でも、放っておいたら坑道の誰かがやられる。だから倒す」


「分かってます」


「分かってるならいい。止まるなとは言わねぇよ。止まりそうになったら、俺が声かける」


 ナノはロガを見た。


「ありがとう」


「礼を言うな。相棒が固まったら、俺も危ねぇだけだ」


 相棒。


 その言葉に、ナノは少し驚いた。


 ロガは言ってから気づいたのか、顔をそむける。


「今のは、その……言葉の流れだ」


「うん」


「深く受け取るなよ」


「うん。でも、嬉しい」


「だから素直に言うなって」


 ロガは耳まで赤くして立ち上がった。


 ナノは小さく笑った。


 資材置き場には、鉄粉の匂いと魔石の熱が残っていた。


 ゴブリンメイジ。


 鉄呪魔石。


 魔物にも恐怖があること。


 それでも倒さなければならないこと。


 魔石狩りは、ただ素材を集めるだけではなかった。


 ナノは回収した魔石瓶を握り、静かに立ち上がった。

ここまで読んでくださってありがとうございます。

続きが気になったら、ブックマークや評価で応援していただけると励みになります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ