表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
無能スキル【石】と追放された俺~宝石の力で成り上がる~  作者: 海老沢大地
第3章 鉱山ギルドと魔石狩り

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
32/35

第32話 壊さずに倒す

 ナノとロガは、資材箱の影から同時に飛び出した。


 最初に動いたのはロガだった。


 小柄な体を低く沈め、手前の鉄鋼ゴブリンの足元へ一気に踏み込む。手にした小槌が、ゴブリンの膝裏を正確に打った。


 ごき、と鈍い音。


 鉄鋼ゴブリンが前のめりに崩れる。


 だが、ロガは頭も胸も叩かなかった。


 魔石を壊さないためだ。


「ナノ!」


「はい!」


 ナノはもう1匹へ向かった。


 鉄鋼ゴブリンが気づき、黒い爪を振る。


 横薙ぎ。


 速い。


 ナノは反射的に受けようとしたが、正面から受ければ腕が持っていかれる。


 グレンの言葉を思い出す。


 押し潰し、ずらし、関節を止める。


 ナノは槌を斜めに当て、爪の軌道を横へ逸らした。


 火花が散る。


 腕に衝撃が走る。


「っ……!」


 だが、受け止めきらない。


 流す。


 鉄鋼ゴブリンの体がわずかに開いた。


 ナノは膝を狙った。


 振り下ろすのではなく、横から押し込むように打つ。


 鉄鋼ゴブリンの足が崩れる。


 転倒。


 ロガがすぐ横から飛び込み、背中を踏みつけた。


「魔石を抜くぞ!」


「はい!」


 ナノは息を整えた。


 腹部中央やや左。


 そこに魔石がある。


 だが、強く叩けば壊れる。


 ナノは短いナイフを抜き、ロガに押さえられた鉄鋼ゴブリンの腹部へ慎重に刃を入れた。


 嫌な感触がした。


 肉と鉱石が混ざったような硬さ。


 胃が少し揺れる。


 でも、手を止めない。


 これは魔石狩りだ。


 倒すだけでは終わらない。


 魔石を壊さずに取り出すまでが仕事。


 ナノは呼吸を細くし、魔石の周囲を少しずつ切り分けた。


 小さな鉄色の魔石が出てくる。


 低級鉄鋼魔石。


 表面に黒い粒が混じり、内部には鈍い金属光沢がある。


 ナノの掌が少し熱くなった。


 だが、黒錆魔石のような激しい誘惑ではない。


 受け止められそうな熱。


 それでも、吸収はしない。


 ナノは魔石を小瓶に入れた。


「1つ目、回収」


 ロガが頷く。


「いい状態だ」


 その時、奥の鉄鋼ゴブリンたちがこちらに気づいた。


「ギィィッ!」


 甲高い叫び。


 奥の2匹が一斉に動く。


 右腕の大きい個体が、鉱石箱を蹴り飛ばした。


 箱が転がり、鉄鉱の欠片が床へ散らばる。


「来るぞ!」


 ロガが叫ぶ。


 ナノは魔石瓶を腰袋へしまい、槌を構えた。


 通常個体が先に飛び込んでくる。


 その後ろから、右腕の大きい個体がゆっくり歩いてくる。


 ただの鉄鋼ゴブリンではない。


 鉄鋼腕ゴブリン。


 この坑道内での呼び方なら、そう呼ぶのが近い気がした。


 ナノは石眼を使いたくなった。


 だが、まずは目で見る。


 通常個体の腕は細い。


 硬化は爪だけ。


 鉄鋼腕ゴブリンは右腕全体が硬い。


 動きは遅いが、一撃が重い。


「ロガ、手前は俺が止めます!」


「無理すんな!」


「止めるだけです!」


 ナノは通常個体の前へ出た。


 怖い。


 鉄鋼ゴブリンの歯が見える。


 唾と鉄粉が飛ぶ。


 だが、動きは見える。


 爪が上から来る。


 ナノは横へ入る。


 槌の柄で手首を押さえ、足元へ体をずらす。


 鉄鋼ゴブリンが体勢を崩す。


 ナノは膝を打つ。


 倒れた。


 倒したのではない。


 止めた。


 それでいい。


「ロガ!」


「任せろ!」


 ロガが飛び込み、腹部を避けて肩を打つ。


 鉄鋼ゴブリンは完全に動きを止めた。


 だが、その瞬間、鉄鋼腕ゴブリンが迫っていた。


 右腕が振り上げられる。


 ナノの背筋が冷えた。


 これは受けられない。


 避けるしかない。


「下がれ!」


 ロガの声。


 ナノは横へ跳ぶ。


 鉄鋼腕ゴブリンの右腕が床を叩いた。


 石床が砕ける。


 破片が飛び、ナノの頬を切った。


「っ!」


 血が滲む。


 鉄鋼腕ゴブリンが唸る。


 右腕の鉱石瘤が黒く光っていた。


 ナノは一瞬だけ石眼を開いた。


 ――鉄鋼腕ゴブリン。


 ――鉄鋼ゴブリン変異小個体。


 ――右腕硬化、中。


 ――魔石位置、胸部中央。


 ――右腕瘤と魔石が半連結。


 ――右肘内側、硬化薄。


 閉じる。


 頭が少し熱い。


 だが、見えた。


「右肘の内側が薄い! そこを止めれば腕が落ちます!」


 ナノが叫ぶ。


 ロガが目を細める。


「肘の内側だな!」


 鉄鋼腕ゴブリンが再び右腕を振る。


 ロガが正面から小槌を構えた。


 だが、受けるつもりではない。


 振り下ろされる瞬間、ロガは横へ転がり、右肘内側へ小槌を叩き込んだ。


 鈍い音。


 硬い層にひびが入る。


 ナノはその隙に踏み込んだ。


 魔石狩り用の槌を両手で握る。


 百錬成鋼を使いたくなる。


 だが、使いすぎれば魔石を壊すかもしれない。


 使わない。


 体重を乗せる。


 石の薄い場所へ、正しく入れる。


「はぁっ!」


 ナノの一打が、右肘のひびへ重なった。


 鉄鋼腕ゴブリンの右腕がだらりと下がる。


「今!」


 ロガが体当たりでゴブリンを倒した。


 ナノは胸部中央を見た。


 魔石がある。


 でも、ここで叩けば壊れる。


 ナノはナイフを抜いた。


 息を整え、胸部の硬化していない隙間へ刃を入れる。


 鉄鋼腕ゴブリンが暴れる。


 ロガが必死に押さえる。


「早くしろ!」


「分かってる……!」


 指先が震える。


 焦れば魔石を傷つける。


 落ち着け。


 黒脈石の護符が冷たい。


 中心を折るな。


 ナノは刃を少しずつ進めた。


 胸部の奥から、鉄色に黒を混ぜた魔石が現れる。


 通常個体より大きい。


 低級鉄鋼魔石の上位欠片。


 ナノはそれを慎重に取り出し、小瓶へ入れた。


 鉄鋼腕ゴブリンの体から力が抜けた。


 資材置き場に静寂が戻る。


 ナノは床に座り込み、荒く息を吐いた。


「壊さずに……取れた」


 ロガも肩で息をしていた。


「やるじゃねぇか」


「ロガが押さえてくれたから」


「まぁな」


 ロガは照れ隠しのように鼻を鳴らす。


 ナノは小瓶を見た。


 中には、鉄鋼魔石が3つ。


 そして、少し大きい上位欠片が1つ。


 黒錆魔石へ進むための段階。


 それを、自分たちの手で壊さずに回収できた。


 その時だった。


 資材置き場の奥、崩れた鉱石箱の陰から、小さな音がした。


 かつん。


 かつん。


 杖が石床を叩くような音。


 ロガの顔が変わる。


「まだいる」


 ナノは槌を握り直した。


 奥の影から、もう1匹のゴブリンが姿を現した。


 他の鉄鋼ゴブリンより細い。


 腕の硬化は弱い。


 だが、手には黒い杖のような鉱石片を持っていた。


 頭には、鉄粉で描かれたような奇妙な模様。


 ロガが低く呟く。


「ゴブリンメイジ……」


 ナノの掌が、嫌な熱を持った。


 ただの鉄鋼ゴブリンではない。


 魔法を使う個体。


 戦いは、まだ終わっていなかった。

ここまで読んでくださってありがとうございます。

続きが気になったら、ブックマークや評価で応援していただけると励みになります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ