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無能スキル【石】と追放された俺~宝石の力で成り上がる~  作者: 海老沢大地
第3章 鉱山ギルドと魔石狩り

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第30話 硬殻モグラの小依頼

 翌朝、ナノは坑道ギルドの依頼板の前に立っていた。


 昨日の適合試験の影響で、掌にはまだ少し熱が残っている。右腕も重い。だが、ミラの薬草水と一晩の休息のおかげで、視界の白濁はほとんど消えていた。


 胸元の黒脈石の護符は、いつもより冷たく感じる。


 黒錆魔石の熱を抑えるように、静かにそこにあった。


 ロガが隣で依頼札を眺めている。


「硬殻モグラ、鉄鋼ゴブリン、小型鉱石蛇……低級硬化系って、地味に面倒なやつばっかりだな」


「硬化系魔石を集めるなら、仕方ないんだと思う」


「お前、昨日から急に真面目だな」


「真面目じゃないと、黒錆魔石に負ける気がする」


 ロガは少し黙った。


 それから、依頼板から1枚の札を剥がした。


「なら、まずこれだな」


 ナノは札を読む。


 旧西坑道、硬殻モグラの駆除。


 危険度F上位。


 推奨人数2名。


 報酬、小銀貨4枚。


 追加報酬、硬殻モグラの殻片および低級硬化魔石。


「硬殻モグラ……」


「地面を掘って、支柱の下を崩す魔物だ。強くはないけど、放っておくと坑道が歪む」


「硬化魔石は取れる?」


「取れる。小さいけどな」


 ロガは依頼札を持ってカウンターへ向かった。


 ラウネが受け取り、2人を見た。


「昨日の今日で依頼?」


 ナノは少し背筋を伸ばした。


「ミラさんには、軽いものならと言われました」


「硬殻モグラは軽いけど、油断すると足元を持っていかれるわ」


「分かっています」


「石眼の使用は?」


「必要な時だけ。一度使ったら、戻って報告します」


 ラウネはじっとナノを見た。


「返事はよくなったわね」


「……少しずつです」


「いいことよ」


 ラウネは依頼受領の印を押した。


「無理はしない。魔石を欲張らない。ロガ、止め役をお願い」


 ロガが親指で自分を指す。


「俺が止め役?」


「あなた、意外と見てるでしょう」


「意外ってなんだよ……」


 文句を言いながらも、ロガは拒まなかった。


     *


 旧西坑道は、灰鳴き坑道よりも湿っていた。


 壁には黒い苔が張りつき、足元には粘り気のある土が溜まっている。天井は低く、ところどころ木の支柱で補強されていた。その支柱の下に、細い穴がいくつも空いている。


 硬殻モグラの掘った跡だ。


 ナノはしゃがみ込み、穴の縁を指で触れた。


 土は新しい。


 湿っていて、まだ崩れきっていない。


「最近掘った穴です」


 ナノが言うと、ロガが頷く。


「近いな」


「石眼、使わずに分かりました」


「いちいち報告しなくていい」


「いや、ちょっと嬉しくて」


 ロガは呆れたように笑った。


「変なところで素直だな」


 坑道の奥から、土を削る音が聞こえた。


 ざり。


 ざり。


 ざり。


 ナノは鉄槌を構える。


 今日は戦闘用の鉄槌を持っている。ただし、グレンからは「無理に叩き潰すな。魔石を壊す」と言われていた。


 硬殻モグラが姿を現した。


 体長は人の膝ほど。


 モグラに似ているが、背中には茶黒い硬い殻があり、前脚は小さな鋼の爪のように光っている。鼻先で土を押し、支柱の根元を掘ろうとしていた。


「いた」


 ロガが小声で言う。


 ナノは一瞬だけ石眼を使った。


 ――硬殻モグラ。


 ――摂食鉱物、黒土鉱、低級鉄鉱。


 ――硬化魔石、小型。


 ――魔石位置、胸部下。


 ――背殻破壊時、魔石損傷の可能性。


 ナノは石眼を閉じた。


「背中を叩くと魔石が壊れるかも。胸の下にあります」


「じゃあ、転がす」


 ロガは小石を投げた。


 硬殻モグラが反応し、顔を上げる。


 その瞬間、ロガが横から支柱の下の土を踏み固めた。


 ナノは逆側へ回る。


 硬殻モグラは逃げようとして穴へ戻ろうとした。


「戻すな!」


「はい!」


 ナノは鉄槌の柄で穴の前を塞ぐ。


 硬殻モグラが前脚で引っ掻いてくる。


 金属音が鳴る。


 思ったより力が強い。


「っ……!」


 腕が痺れる。


 だが、黒錆魔石の時のような熱ではない。


 これは、単純な衝撃。


 受け流せる。


 ナノは鉄槌を斜めに構え、硬殻モグラの突進を横へ逃がした。


 ロガが足元から小槌を入れる。


 硬殻モグラの体が転がる。


 腹側が見えた。


「今!」


 ロガの声。


 ナノは鉄槌を短く握り、胸部下へ打ち込んだ。


 強すぎない。


 魔石を砕かない。


 だが、動きを止めるだけの一撃。


 鈍い音がした。


 硬殻モグラが痙攣し、動かなくなる。


 ナノは息を吐いた。


「……倒せた」


「1匹目な」


 ロガが言う。


 その言葉通り、奥からまた土を削る音がした。


 ざり。


 ざり。


 今度は2つ。


 ナノは緊張した。


 だが、不思議と前ほど怖くなかった。


 相手を見る。

 穴を見る。

 支柱を見る。

 魔石を壊さない位置を考える。


 倒すだけではない。


 採るために戦う。


 それが魔石狩りなのだと、少し分かった。


 2匹目はロガが転がし、ナノが止めた。


 3匹目はナノが穴の位置を先読みし、逃げ道を塞いだ。


 戦いは派手ではなかった。


 血が飛び散るような大技もない。


 だが、坑道を守り、魔石を壊さず回収するためには、こういう地味な戦いが必要だった。


     *


 硬殻モグラを3匹駆除したあと、2人は魔石を取り出した。


 小さな茶黒い魔石。


 表面は硬く、内部に鈍い黒い芯がある。


 黒錆魔石ほど強くはない。


 灰鋼魔石ほど重くもない。


 だが、確かに硬化系の力を持っていた。


 ナノの掌が、わずかに反応する。


 強すぎない熱。


 受け止められそうな熱。


「これが、段階を作る魔石……」


 ナノは呟いた。


 ロガが魔石を小瓶に入れる。


「吸うなよ」


「分かってる。これはギルドに報告して、グレンさんに見てもらう」


「よし」


 ナノは少し笑った。


「ロガ、最近そればっかり言ってる」


「お前がすぐ吸いそうな顔するからだろ」


「今日はしてないと思う」


「少ししてた」


「……少しなら」


「少しでも駄目だ」


 2人は硬殻モグラの殻片と魔石を回収し、支柱の下の穴を簡単に埋めた。


 帰り道、ナノは旧西坑道を振り返った。


 灰鋼オークのような大きな戦いではない。


 黒錆魔石のような強い誘惑でもない。


 けれど、今日の依頼は確かに前へ進む一歩だった。


 低級硬化魔石。


 黒錆魔石に至るための、小さな段階。


 ギルドへ戻ると、ラウネが報告を聞き、魔石を確認した。


「状態はいいわね。背殻を壊さずに取れている」


 ナノは胸を撫で下ろした。


「よかったです」


「これなら、適合前訓練に使えるわ。グレンに回しておく」


 その言葉に、ナノの胸が静かに熱くなった。


 いきなり強くはなれない。


 でも、小さな魔石を積み重ねれば、いつか黒錆魔石に届くかもしれない。


 ナノは胸元の黒脈石の護符を握った。


 硬殻モグラの小依頼。


 地味で、泥臭くて、誰も大きく褒めない仕事。


 それでも、ナノにとっては確かな一歩だった。

ここまで読んでくださってありがとうございます。

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