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無能スキル【石】と追放された俺~宝石の力で成り上がる~  作者: 海老沢大地
第3章 鉱山ギルドと魔石狩り

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第27話 魔石仕分けと黒錆の欠片

 旧鉱山ギルド倉庫は、坑道ギルドの裏手にあった。


 今はほとんど使われていない古い倉庫らしく、入口の鉄扉には細かな錆が浮いていた。扉を開けると、冷えた空気と一緒に、乾いた土と魔石粉の匂いが流れ出してくる。


 中は広かった。


 天井は低いが、奥行きがある。壁には石棚が並び、木箱や革袋、小瓶が整然と置かれていた。灯石の明かりは薄く、倉庫全体が青灰色の影に沈んでいる。


 ナノは思わず息を呑んだ。


 魔石が、こんなにある。


 小さな欠片。

 丸い粒。

 ひびの入った石。

 濁った石。

 黒く固まったもの。

 赤茶色の筋を持つもの。

 水色に淡く光るもの。


 どれも魔物の体内から得られたものだ。


 命の名残であり、力の塊でもある。


 ナノの掌の石紋が、じん、と熱を持った。


「吸うなよ」


 ロガが横から言った。


 ナノはびくっとする。


「吸わないよ」


「顔が吸いたそうだった」


「そんな顔してた?」


「してた。石を見る時のお前、腹減った獣みたいな顔をする」


「……そんなに?」


「そんなに」


 ナノは少し落ち込んだ。


 だが、否定はできなかった。


 魔石を見ると、胸の奥が引き寄せられる。


 特に黒錆魔石や灰鋼魔石のように、自分の百錬成鋼と相性が良さそうな石は、見ただけで掌が熱くなる。


 それは力への欲求だ。


 強くなりたい。


 誰かを守れるようになりたい。


 もう逃げるだけの自分ではいたくない。


 けれど、その欲求に飲まれれば、体が壊れる。


 グレンにも、ミラにも、何度も言われた。


 ナノは胸元の黒脈石の護符を握った。


 冷たい感触が、衝動を少し抑えてくれる。


「今日は吸収じゃない。仕分け」


 自分に言い聞かせるように呟く。


「分かってるならいい」


 ロガは木箱の前に立った。


 そこへラウネが入ってきた。


 手には記録板と、色の違う小さな札を持っている。


「今日の仕事は、低級魔石の分類。基準は4つ」


 ラウネは石机の上に札を並べた。


「安定魔石。加工可能魔石。劣化魔石。危険魔石」


 ナノは札を見る。


「危険魔石……」


「黒錆魔石や灰鋼魔石の欠片も、この分類に入るわ。吸収適性があっても、肉体が耐えられなければ危険魔石。加工前に触れすぎるのもよくない」


 ラウネの視線がナノに向く。


「特にあなた」


「はっ、はい」


「返事だけじゃなく、手も勝手に伸ばさない」


「伸ばしません」


 ロガが小さく笑う。


 ナノは少しだけ睨んだ。


 ロガは肩をすくめた。


「まずはこれ」


 ラウネが小箱を開けた。


 中には、錆鳴鼠の魔石がいくつか入っている。


 小さく、赤茶色で、ところどころに灰色の濁りがある。ナノが初依頼で倒した錆鳴鼠のものと同じだ。


「これは?」


 ラウネが聞く。


 ナノは石眼を使わずに、魔石を見た。


 表面の濁り。

 ひびの深さ。

 色の偏り。

 魔石の中心が残っているかどうか。


「これは……安定していると思います。小さいけど、ひびが浅い。錆嚢素材と一緒に加工すれば、薬か錆止めに使える」


 ラウネは頷いた。


「正解。では、これは?」


 次に出された魔石は、同じ赤茶色でも、内部に黒い筋が走っていた。


 ナノの掌が熱を持つ。


 黒錆。


 それに近い反応。


 ナノは息を整えた。


 石眼を使わない。


 まず見て考える。


「これは、危険魔石……だと思います。錆鳴鼠にしては黒い筋が強い。鉄鋼ゴブリンか黒錆ゴブリンの魔石粉が混じった場所で育った個体かもしれません」


 ラウネの目が細くなる。


「よく見たわね」


 ロガが横から覗き込む。


「そんなの、見た目で分かるか?」


「黒い筋が、中心から外へ伸びてる。錆だけなら、もっと表面に寄る気がする」


「ふーん……」


 ロガは悔しそうにしながらも、少し感心した顔をした。


 ナノは小さく息を吐いた。


 石眼を使わずに当てられた。


 それが少し嬉しかった。


 だが、次にラウネが出した石を見た瞬間、その落ち着きは揺らいだ。


 黒錆魔石の欠片。


 旧採掘路で倒した錆腕ゴブリンのものより小さい。だが、赤黒い光は同じだった。内部で黒錬鉱と赤錆鉱の力が絡み合い、歪んだ熱を閉じ込めている。


 ナノの石紋が強く反応した。


 じり、と掌が熱くなる。


 胸の奥から、欲しい、という感情が湧き上がる。


 ナノは思わず手を伸ばしかけた。


「ナノ」


 ラウネの声が鋭く飛んだ。


 ナノは手を止めた。


「……すみません」


「今のは、ちゃんと謝っていい場面ね」


「はい。すみません」


 ナノは手を引っ込め、深く息を吐いた。


 ロガは笑わなかった。


 ただ、少し心配そうにナノの手を見ていた。


 ラウネは黒錆魔石の欠片を金属のピンセットでつまむ。


「これは危険魔石。理由は?」


 ナノは喉を鳴らした。


「……力が歪んでいるから。硬化の力と、血や錆に反応する性質が混ざっている。今の俺が吸収したら、腕か血流に負荷が出る」


「そう」


「でも、精錬すれば……百錬成鋼に使えるかもしれない」


 その言葉を聞いた瞬間、倉庫の奥から低い声がした。


「その通りだ」


 グレンだった。


 いつの間に来ていたのか、入口の近くに立っている。手には黒い小瓶を持っていた。


 ナノが見覚えのある瓶。


 黒錆魔石の保管瓶だった。


「グレンさん」


「今日は仕分けだけではない」


 グレンは石机の上に小瓶を置いた。


「黒錆魔石の精錬を見せる」


 ナノの胸が大きく跳ねた。


「精錬……」


「ああ」


 グレンはナノを見た。


「ただし、見るだけだ。吸うな。触れるな。欲に飲まれるな」


 ナノは黒脈石の護符を握った。


 冷たい。


 でも、掌の熱は完全には消えない。


「……はい。見ます」


 声は少し震えていた。


 それでもナノは、魔石から目を逸らさなかった。


 力を得るために必要なのは、飛びつくことではない。


 まず、知ること。


 分類し、危険を見極め、扱える形へ整えること。


 魔石狩りの章は、ナノの欲望と向き合うところから始まっていた。

ここまで読んでくださってありがとうございます。

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