第七幕 1人の時間
ウナギとの不和ははっきりと解決したわけではなかった。
どことなく気まずさが残るまま旅行を終え、大学の方も期末テストへと入った。
正式な友人関係継続の申し出をすることもできないままである。
しかし、私は期末テストという大きなタスクに追われ、数少ない親友であるウナギを蔑ろにしてしまった。
そうして一度もウナギと会話することなく夏休みに入ってしまった。
あぁ、夏休みというものは残酷である。
時間だけが与えられ、何をすべきかは誰も教えてくれない。
大学のキャンパスは人が減り、そこに残った者たちは各々の目的を持って動いている。
私はキャンパスを歩きながら、すれ違う人々を観察した。
電車の中でも、食堂でも、図書館でも、人々は例外なく人生を持つ人間であるはずだ。
しかし、誰もが他者と繋がりを持たず、記号的存在としてその場にいる。
ウナギもどこかでそういう記号の一つとして存在しているのだろうか。
否、あいつはそんな男ではない。
しかし私は本当にウナギの親友なのか。
そんなくだらないことに思考を巡らす夜も時折あった。
今の私は一人である。
今までの学校教育は私に“仲直りの方法”なんて教えてくれはしなかった。
私にできることは彼との思い出を辿るばかりである。
私は気づけば河川敷へと向かっていた。
レジャーシートはなかった。
ウナギはただ土手の草の上に腰かけ、ぼんやりと水面を眺めていた。
「やはりここにいたか」
「来ると思ってたよ」
ウナギは川を眺めながら言った。
「嘘をつくな」
「嘘じゃない。
お前は人の言ったことから学べる男だ」
私はウナギの隣に腰を下ろした。
川の流れる音だけがしばらく続いた。
「旅行サークル、どうするんだ」
「まぁ、辞めるか。
次の候補もある。
前から勧誘されてたんだ」
「また危ないサークルじゃないだろうな?」
「そりゃあもちろん。
今度はお前にも私にも向いているサークルだ」
「なら、聞こうか。
なんてサークルだ?
まさか天文部じゃないよな?」
「駄弁論部だよ」
「駄弁論部?」
「そうだ。議論が好きなお前には向いているだろう」
「弁論部じゃなくて駄弁なのか?」
「そこが良さだろう。
弁論の中に駄弁があるいかにもお前に合っている」
川の水面が夏の光を反射していた。
私はウナギの横顔を見た。
こいつは本当によくわからない男だ。
しかし、それで良いのかもしれない。
「わかった、行ってみよう。
仲直りということでいいか?」
「仲直りも何も喧嘩していたわけじゃない。
ただお互いが一人の時間を過ごしていた。
それだけだ。」
「そういうことにしておこう」




