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妹々は追いつけない  作者: 戴勝
第1章 起
8/14

第7話 謎の男

シェディムとの会話が楽しかったというのもあり、レイラはいつもよりゆっくりと時間を掛けて昼飯を食べた。

仲間外れを嫌うテトは早々に弁当を空にし会話に参加するものの、シェディムに煽り弄られ、怒りで顔を真っ赤にしながら言い返す展開をひたすら繰り返していた。それが見ていてとても可笑しく、レイラを飽きさせることがなかった。

気が付けば途中からはレイラも加わりシェディムと一緒になってテトを弄んでいた。

すると、テトは半泣き状態になり、それでも負けじとあれやこれやと言い返している姿がとても可愛らしかった。

こんなに楽しいと思ったのは、いつぶりだろう。上京してからも一人で過ごす時間が多く、こうして食事の時間に笑い合う事などしばらくなかった気がした。


自分の弁当を食べ終わる頃くらいにテトを弄ることをやめ、テトとは寄り戻しの証として頭を撫でながらシェディムへと質問する。


「で? これからどうするつもり?」


正直言って、今から学園へ戻ったところで授業を受ける気にはなれないし、他の生徒の視線が痛い。

どうせなら日が沈む時間までシェディムと一緒にいたい。短い時間だったが、彼女は悪事を企んでいるようには感じられなかった。

何を目的にこの国にやって来たのかは未だ不明なままだが、シェディムの近くで行動を共にしていればいずれ自ずと分かるとレイラは思っていた。


「んー、特に決めてないかなー」

「はぁ? あんた何も考えずにここまで来てたの? 自由気ままにも程があるでしょ」

「あはは、よく言われるぅ。あ、それならそれなら! なんか面白い場所ってなーい?」

「面白い場所? 遊園地とかそういう系?」

「そうそう、そんな感じー」


そんなこと言われても、とレイラは首を傾げる。

ここは商店街のど真ん中。遊園地などはここから更に北へ進んだ場所にあり、歩いて行くには遠く、今からでは大して遊べない。


他に何か、大きなレジャースポットではなく、今日だけの催し物とかはなかっただろうかとレイラは頭を悩ませる。

商店街なら店の扉や窓、掲示板に今日行うイベントが張り出されてるはずだと思い至り、周囲を見渡してみる。

すると案の定、でかでかと張り出されているものが一つあった。

だがそれは……


「あー……あんたの目にかなうかどうか分からないけど、今日この近くの施設内で……時間的にはこの後すぐかな。なんか曲芸(サーカス)があるみたい」


この曲芸(サーカス)とやらは、近年流行り出した催し物で、学園を卒業後、兵士にならなかった者や戦争後に兵士を引退した使役士が自身の使い魔や捕獲した魔物に芸を仕込ませて見世物にしている団体らしい。


レイラからすればあまり良い気持ちはしないが、魔族との戦争が終結し和平を結んで安全性が高くなったことの反動なのかもしれなかった。


「サーカス! なにそれなにそれ!?」


それでも、魔界に住んでいたシェディムからしたら耳寄りな話なようで、期待するように目を輝かせてレイラへと一気に顔を近づけた。


「え、えっと……私もよく知らないんだけど、なんか魔物が芸を見せるみたい」

「えぇ!! すごく面白そうなんだけど! 芸って何するの!? 踊ったりする? 3回回ってワンとか言ったりする!?」

「ま、魔物によってはできるかも、ね?」

「すっごい楽しみ!」

「そ、それは良かった」

「レイラちゃんは楽しみじゃないのー?」

「シェディムが楽しみなら私も楽しみかな」

「だよねだよね! だってあの低知能の魔物があたしらを楽しませるために馬鹿みたいな事するんでしょ? 面白くないわけないじゃない!」

「そ、そうね」


あまりにも近い顔面にレイラの頬が引き攣る。

顔が近すぎてシェディムの興奮した鼻息が顔に当たる。

それに加え、甘い香りがレイラの思考を鈍らせ、心拍数を上げさせる。

顔がどんどん熱くなっていくのを感じ、これ以上近くに顔を置かれ続けられるとそろそろ鼻から赤い液体がジェット噴射されそうだとレイラは目を渦巻かせる。


「むぅ、聞き捨てならないのです。魔物はそこまで知能は低くないのです」

「あらあらぁ? そう言えば雛鳥ちゃんも魔物だったねー。あ、もしかしてレイラちゃんにいつも怒られるのはおバカさんだったからなのねー」

「違うのです! 戦いとかはまだテトが要領をつかめていないだけで……」

「それを世間ではおバカさんって言うのだぞー」

「だから!──」


テトが会話に入り込んだ事でようやくシェディムの顔がレイラから離れる。

今のうちに火照った顔を元に戻しておかないと、今度は自分にからかいの火種が飛んで来るかもしれない。

そう思い、こっそり両手で自分の頬を叩いて冷静になるよう深呼吸を行う。


「ん? あれ、シェディムじゃん。何おまえ、女の子引っ掛けてんの。そういう趣味とかあったっけ?」


突如、通りすがった男性がシェディムを見てそう言葉にした。

それにより、レイラは怪訝な表情をする。

シェディムは魔族のはずであり、人間の知り合いなどいるのは自分を除いておかしいはず。

男性の言葉的に最近知り合ったような口ぶりではない。ならこの男性はいったい何者なのだろうか。


「げ、アキヒ、様……そっちこそ、何でこんな所にいるの?」

「俺は食材を買いに来たんだよ。ほら、あっちではろくなもの採れないじゃん? 俺たちは構わないけど、フィーはそうもいかないじゃん」


アキヒと呼ばれた男性は半身で背中におぶっている小さな子どもを見せて来た。

一見して二、三歳児と言ったところだろうか。くりくりっとした大きな目が愛らしさを伝えてくる。


「イフィジェニー様もいらしたのですね。ごきげんよう」

「あい! しぇでぃ、きゃはは」


シェディムの挨拶に、小さな子どもはその短い両手をいっぱいに伸ばしてシェディムに触れようとしている。

そのため、アキヒはおんぶ紐を解いてシェディムへとそっと手渡す。


「あの方のご様子は、如何なもので?」

「あー、それがやっぱ例の件でかなり魔力もってかれてるみたいでよ。子育てどころじゃないみたいなんだわ」

「しばらくは連絡はとれそうにない、か……」


その会話にレイラはいったい二人は何の話をしているのだろうかと眉根を寄せる。

あの方というのが魔王のことなのは分かるが、そもそもこのアキヒという男性はシェディムのような魔族とどういう関係なのだろうか。シェディムはアキヒとその子どもに対して敬称付けで名前を呼んでいた。つまり、シェディムより身分が上の存在という事になる。

だが、子どもには敬語なのにアキヒに対してはタメ口だったような気がする。

レイラはわけが分からないといった表情で額に手を添える。

いきなりの情報量で頭がパンクしそうだった。


「それよりまじでこんなところで何してんだ? 横の2人は……ってあれ? おまえもしかしてアヒトの嫁の妹じゃ?」

「……っ!?」


アキヒが向ける視線の先はテト。その言葉にレイラは無意識にベンチから立ち上がっていた。


「はい? テトのこと知ってるです??」

「え、もしかして忘れちまった? あーまぁしょうがねぇかな。出会ったのってあの日だけだもんな」

「ま、待って下さい! どういう事ですか? アキヒ? さんはテトと会った事があるんですか? 兄さ……アヒトのこと知ってるんですか?」


いつ、どこでテトと会っているのだろうか。

また、魔族の関係者であるにもかかわらずなぜテトは無事で、その事を忘れているのだろうか。

頭の中がどんどん混乱して行く。この場に魔族と魔族関係者が一人ずついる。この状況をこの国は認知しているのだろうかとレイラは二人を警戒したように睨みつける。


「ん? まぁそうだけど、そういうおまえはどちらさんよ」

「妹のレイラです」

「妹!? あいつに妹なんていたのか! あいつどんだけ主人公してんだよ。くっそぉ! な、なぁレイラちゃん? 今から俺とお茶しない? アヒトの話でもしようよ」

「は、はぁ……? 私は構いませんけど」

「よっしゃ! んじゃ早速行こう!」


予想外の言葉に度肝を抜かれ、思わず了承してしまったが、よくよく考えてこれは罠なのではないかとレイラは思い至る。

魔族が何もしてこないなど普通はおかしいのだ。

つまりこの誘いはレイラを誘拐または人質などにし、(アヒト)を陥れるための罠に違いない。

そう思った時、隣に座っていたシェディムが焦ったように立ち上がるのをレイラは視界の端に捉えた。


「っ……!」


それにより確信を得たレイラは腰に下げた杖剣を抜くべく、鞘に手を添えた時だった。

先に歩き出していたアキヒの体を突如上空から青白い閃光を迸らせた雷撃が一気に貫いた。


「がぁっ!」


鼓膜を突き破るのではないかというほどの破壊音が周囲に鳴り響く。

店の人や観光客たちが、何事かと集まり始める。

貫かれたアキヒは体から煙を昇らせ、その場で停止していた。

だがそれも束の間、アキヒは時間が動き出したかのようにその場で飛び跳ね始めた。


「うおっいってぇええ!! 全身がビリビリって! ビリビリって!! 流石にやりすぎじゃんよサラさん!! 言っとくけどやましい気持ちなんて何もないからな!?」


誰に向かって話しているのかレイラには理解ができなかったが、どうやら無事なようだった。

こんな雲ひとつない空から、いきなり雷なんて落ちてくるものなのだろうか。

というより雷に撃たれて生きてるとは、やはりこの男も見た目は人間であるだけで中身は魔族なのだろうか。


「落ち着いてレイラちゃん。彼はただの人間だから」


シェディムが鞘を握るレイラの左手にそっと触れてくる。


「で、でも雷に撃たれて……」

「彼は常に防御結界みたいなのを体にまとっているの。だからちょっとのことでは死なない」

「……そう、なんだ」

「そうだよそうだよ」


シェディムは抱えている子どもと一緒にレイラに抱きつき、片手で頭を優しく撫でる。


「深呼吸して。ほーら、ゆっくり、大丈夫大丈夫」


シェディムから甘い香りが漂ってくる。

この香りを嗅ぐとなぜかとても安心できてしまう。

まるで頭の奥に染み込むように、声が響く。


── 深呼吸しなきゃ。シェディムがそう言ってるから……


何度か繰り返すと、頭の中のモヤモヤが徐々に薄れていく。

少し考えすぎてしまっていたのかもしれない。アキヒが人間ならテトがどこかのタイミングで人助けみたいな形で出会っていたのかもしれない。

そう思うとなぜかすんなりと受け入れてしまう自分がいる事にレイラは内心で驚く。

だが一度そう思えばそう思えて仕方がなかった。

それにシェディムとアキヒの会話も、勝手に魔族関連だと思い込んでいただけであり、実際はもっと別のことかもしれない。

完全に自分の早とちりで、何も証拠がない事にレイラは気づいてしまう。


「レイラ? 大丈夫なのです?」

「うん、大丈夫。ちょっとびっくりしただけだから」


一度座って落ち着こうと思い、ベンチへと座り直す。

もしかしたら朝倒れた時の症状が残ってるのかもしれなかった。


「あれ、そういえば何で私、朝倒れたんだっけ」

「あれあれぇ? レイラちゃん忘れちゃったのー? 貧血だよー? 養護教諭の人も言ってたし。もう忘れちゃだめだぞー?」

「そう、だっけ。そっか、貧血か」


どおりで上手く頭が働かないわけだ。

そう思うと、シェディムには感謝の気持ちしか浮かばない。

初めて会ったはずなのに、どうしてここまで優しくしてくれるのだろう。

今も落ち着くまでずっと頭を撫でてくれている。

それにより、レイラの胸にはこれまでにない感情が芽生えていた。

シェディムと友達になって良かった、気がつけばそう思うようになっていた。

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