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妹々は追いつけない  作者: 戴勝
第1章 起
9/14

第8話 シェディム

「んで、結局こんなところで何してたんだ?」


シェディムから子どもを受け取りながらアキヒは質問してくる。

そんなにもシェディムがここにいる事が不思議なのだろうかとレイラはわずかに眉をひそめた。


「……あの方から何も聞いていないの?」

「そりゃ聞いてるけどよ。今は学園で授業受けてる時間じゃん? こんな場所にいるのはおかしいだろ」


その言葉を聞いてレイラは内心で納得する。

確かに今は授業を受けている時間である。事実、レイラたちは授業をサボってここまで来ているため、アキヒが疑問に思うのは当然と言えた。


「あたしはあんなつまらない授業を受けるよりぃ、レイラちゃんとの友好関係を深める方を優先しただーけ」

「へぇ、てことはこの後にも予定が立て込んでるってことか」

「そうだよそうだよぉ。もうすぐサーカスっていうのが始まるみたいだから楽しみに待ってたとこー」

「サーカスってあのサーカスのこと? 俺もテレビとかでしか見た事ないからなぁ」

「ん? テレ……なんですか?」

「あぁいや! 何でもない。まぁ通話石が普及し始めたんなら、俺がレイラさんに教えなくてもそのうち出てくるじゃんよ」


あっさりと誤魔化された事に少しだけもやっとしたが、特段アキヒに興味がなかったレイラは静かに引き下がる。


「んじゃ、俺は帰るかね。嫁の機嫌も取る必要がありそうだし」

「そんなに怖い奥さんなんですか?」

「おうそうだな。もうこれぞ完璧な鬼嫁ってやつ。身の毛がよだつほどの般若の形相には敵わん。そりゃみんな平伏するってもんよな。はっはっは」


アキヒは軽快に笑い声を上げる。

するとなぜかアキヒの頭上にだけ暗雲が立ち込め始める。

レイラは上を見上げて首を傾げる。


「……アキヒさん」

「ん? なんよ」

「上、なんでアキヒさんの上にだけあんな真っ黒い雲が浮かんでるんですか?」

「へ?」


その言葉によってアキヒは自身の上空に視線を向け、そして目を見開いた。


「ちょっ!? 待った待った!! 今はフィーもいるじゃん! 流石にフィーは守れないから! 頼むサラさん落ち着いてぇ!!」


地面に頭を擦り付けて叫び続けるアキヒにわずかに引きながら、何となくシェディムへと視線を向ける。

すると、彼女もレイラを見ていたのかバッチリと視線が重なり、それに驚いたシェディムは大きく目を開いた。

同様に、レイラも目を丸くする。

もしアキヒの行動に対して感じていた気持ちがシェディムも同じならと思った時、そこが妙に可笑しく感じ、無意識に笑いが込み上げてきてしまった。


「え! な、なになに!? 何で笑うのー!」

「クスクス……いや、何でもない。ただちょっとシェディムの驚いた顔が面白かっただけ」

「はぁー!? あたしの顔をバカにしないでよねー? これでもあたしは超美少女なんだから!」


── 知ってるし、自分で言う事じゃないでしょそれ。


そう思うとまた可笑しくて、笑いが止まらなかった。

だがその時、突如どこかの建物が破壊される音が鳴り響き、地面が揺れる。同時に、誰かの悲鳴が聞こえて来た。


「な、なに!?」


一瞬にして街の和やかな雰囲気が恐怖と動揺が錯綜した空間に変化する。


「なんだぁ!? 雷でも落ちたのか!?」

「それはアキヒ様の頭上だけにしてねー」


 まったくの同意見だとレイラは内心で呟く。


「レイラ……」


テトがレイラの手をそっと握ってくる。


「どうしたのテト。もしかして、何か感じた?」


テトは静かに首を縦に振る。

テトは他の魔物が放つ微細な魔力を感じる事ができる。テトがそれを感じたという事は、この騒動の原因には魔物が関わっている可能性が高い。


すると、レイラたちの目の前にある洋服店の壁が破壊され、中から巨大な牛型の魔物が姿を現した。

異常に興奮しているようで、何度も鼻から息を吹き出している。

そして、牛型の魔物はレイラたちを見るなり一度動きを止める。

だが興奮しているため、牛がいつ突進してくるか分からない。

そのためレイラは杖剣を取り出し牛型の魔物へと構える。


「いくよテト!」

「はいなのです!」


どこから迷い込んだ魔物かは分からないが、魔物である以上テトの声が届く。

テトに同族へと変身させれば、上手くいくはず。

そう思っていたその時だった。


「はいはぁい。ちょっと下がっててねー」

「えっ、シェディム!?」


突然、レイラとテトの前に出て来たシェディムは声のトーンが低く、背中越しでもかなり不機嫌であることが伺えた。


「せっかくレイラちゃんと楽しくお話ししてたのに、なに勝手に邪魔してくれちゃってるの?」


シェディムはおもむろに両手を地面に付ける。その瞬間、そこから黒い影が這い出てくる。


「ウザいんで死んでくれないかな。てか今すぐ死ね。雑魚が」

「ま、待ってシェディム! あれは魔獣じゃない! だから殺しちゃだめ!」

「はぁ? 似たようなもんでしょー?」

「違うから。確かに魔物にも私たちに害を為す魔物もいるけれど、牛型の魔物は無害な魔物だから!」


ごくりとレイラは唾を飲み込んだ。

シェディムの瞳が今日初めて見せる冷たい目をしていたからだった。

必死にシェディムに訴えたレイラだったが、内心ではシェディムに恐怖を抱いていた。

膝に力が入らない。だが、何故か視線はシェディムから逸らしてはいけない気がして、自分の両脚がどんな状況か確認する余裕はなかった。


「…………お願い、シェディム」

「……はぁ。しょうがないなー。友達の頼みだから聞いてあげる。レイラちゃん風に言うとぉ、今回だけだからね♡」


そう言ってシェディムはレイラに向けてウィンクをすると、牛型の魔物に再び向き合う。


「さてさて、戦うのはいいんだけどぉ、他の人たちにあたしの正体がバレないようにしなきゃだよねー」


シェディムは地面から生み出した影を別の形へと変化させる。

その影は徐々に大きくなっていき、大きな人型へと姿を変える。

だがそれは人型であって人ではない。頭部は見当たらず、代わりにそこから太い幹と枯れた枝が生え出ており、腕と思われる場所からは幾本もの触手のようなものが生えている。

その姿をレイラは知っていた。


「……『樹人(トレント)』?」


トレント、人型をした樹木で、森の中で生息する魔物。弱い魔物や動物、迷い込んだ女子どもを狙うと言われている、これが俗に言う人に害を為す魔物だ。

そう認識した時、それまで影のように黒かった姿に色が付け足され、いつの間にか誰もが知る完璧なトレントがそこにはいた。

刹那、興奮状態である牛型の魔物が何の前触れもなく、シェディムへと突撃した。


「捕えなさい」


そう言ったシェディムに従い、トレントはうねる両腕を前に突き出す。

瞬間、腕に生える枝葉が捩れながら一つにまとまり、牛型の魔物に向かって伸びていく。

しかし、牛型の魔物の頭部に生える強靭な二本の角が光ったかと思うと、突如二本の角が肥大化し、トレントの鞭のような両腕をいとも容易く切断した。

そして牛型の魔物はトレントを突き破ろうとそのまま速度を落とさずに突進してくる。


「危ない! シェディム!」


咄嗟にそう叫んだが、レイラの前に立っているシェディムの顔が僅かに微笑んだのが見えた気がした。

牛型の魔物がトレントに直撃する直前、突如地面から大量の木が生え出し、牛型の魔物を絡め込んでいく。


「はい。捕獲完了」


完全に身動きが取れなくなった牛型の魔物を少しだけ見つめたシェディムは、興味がなくなったかのように髪を払いながら踵を返す。


「どぉどぉ? あたし強いでしょ」

「う、うん。まさかトレントを使役してるなんて思わなかった」

「使役? んーちょっと違うけどまぁ似たようなもんだからそんな感じで解釈してもらえば大丈夫大丈夫!」


そう言ってシェディムは疲れたとでも言うかのようにだらしなくベンチに座り、背もたれに身を任せていた。


「むぅ、テトもあんな風に立ち回りたいのです」

「そのためにはもっと勉強しないとね」

「はいなのです!」


テトは自身の胸の前で両手の拳を握り、やる気に満ちた表情をしていた。

レイラもテトと同じ気持ちで、先程のシェディムの戦いを見て、何のために学園に入ったのかを再認識させられた。

苦しんでる人を助けるため、兄のように誰かを守れるようになるために、学園に入ったのだ。

今のままではダメだ。一人でも戦えるように、もっともっと強くなりたい。

そう心に強く思うのだった。

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