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妹々は追いつけない  作者: 戴勝
第1章 起
7/14

第6話 お昼ご飯

学校を抜け出してどこへ行くのかと思いきや、レイラもテトも行き慣れた商店街だった。

学園に入る前まではこの辺りでよくバイトをしていたため、建ち並ぶ店には結構詳しかったりする。

ここならたとえ逸れたとしても見つけることは容易い。

だがどうしてこんなところに来たのかは不明だった。


「すごいすごぉい! 美味しそうなお店がこんなにたくさん!!」

「は? あんたここに来た目的ってもしかして……」

「そんなの美味しいご飯を食べに来たに決まってるじゃん☆ どこにしようかなぁ、屋台料理でもいいなぁ」


そう言ったシェディムはとある屋台に駆け寄って行き、何かを注文する。

まさか本当に食べるためにここに来たのかとレイラは驚きで目を丸くする。

シェディムが言ったようにこの国に危害を加えるつもりがないのだとしたら、目的はただの観光。だが、いくら魔界と和平を結んでいたとしても、魔族を安易に入国させるなんて今の国王がするとは思えない。まだ戦争が終わって三年しか経っていないというのに、警戒が薄れるには早すぎる。


「レイラ。テトも少しお腹が空いたのです」

「そういえば、まだお昼食べてなかったわね。どこかのベンチにでも座ってお弁当食べよっか?」

「はいなのです!」

「ちょっとちょっとぉ! 何ぼーっと立ってるのー? 早くこっちに来てー!」


シェディムはそう言って楽しそうにこちらへと手を振ってくる。

こうして見ているだけでは、そこいらにいるただの人間の少女にしか見えないのが不思議だった。だが彼女から直接流された魔力は確かに魔族独特の絡みつくような重いものだった。だから間違いなく彼女は魔族なのだろう。


「何? 私が近くまで来る必要ってある?」


シェディムがいる屋台は、見たところクレープを売っているようだった。

てっきりお昼ご飯を買うと思っていたがためにレイラは少しだけ拍子抜けする。


「あるある! だってあたしお金持ってないし」

「…………は?」

「ん? あたしこの国出身じゃないから持ってなくて当然でしょ?」


何を言ってるんだこいつはとレイラは内心で頭を抱える。

もしかしてこの女は私を財布にするために連れて来たのだろうか。

そんなことを思っていると、シェディムはクレープを受け取るなり、当たり前のようにその場で食べようと口を大きく開けていた。


「って、ちょっと待ちなさいよ! 私まだ払うなんて言ってないんだからね!?」

「えー? もうお金出してるんだから良いじゃん」

「え、いつの間に……」


考えながら動かしてたせいか、レイラは気づかないうちにシェディムのクレープ代を払ってしまっていた。

心の片隅にお金を払ってあげないといけないという気持ちが生まれたのがいけなかった。


「それともそれともぉ、自分の分を買うつもりだったのぉ? まだ頼んでもいないのにー?」

「う、うっさいわね。これはあれよ、その……て、テトの分よ!」

「え、良いですかレイラ!?」


テトの瞳がキラキラと輝く。さっきから物欲しそうな視線が飛んできていたため言えば絶対喜ぶと思っていた。


「こ、今回は特別なんだから」

「えー? あたしの分は払ってくれないのー? 友達なのに冷たいなぁ」

「っ……」


すると先程まで拒絶していた気持ちが不思議なことに薄れていく。

既にテトの分を払ってあげたため、クレープの一つや二つ関係ないかという気分になってくる。


「……もちろんよ。今回だけだからね! 次はちゃんとお金持ってくるのよ?」

「はーい♡」


 レイラは怪しさ満天の返事をするシェディムにジト目を送りながらテトの分のクレープを受け取る。


「立って食べるのは行儀悪いし、あそこのベンチにでも行かない?」

「良いよ良いよぉ。レイラ隊長にどこまでもついて行きまぁす!」

「……煽てても何も出ないわよ」


ベンチに座ったレイラはバッグから自分用とテトの弁当を取り出す。


「あれ、そういえばあんた、お昼ご飯はないの?」

「んー? これがあたしのお昼ご飯だよー。ふぁあ!! 何これ美味しすぎるよぉ! もちもちふわふわで甘々〜。もうこれからあたしのお昼これに決まり!!」

「いやいや、それだけじゃ体に悪いに決まってるでしょ?」

「えーそうなの? こんなに美味しいのにぃ?」

「美味しさと健康は別物よ。てか、そういうの食べたことないわけ?」


シェディムは口元についたクリームをペロリと舌で拭い取りながら、どこか遠くを見つめる。


「うん、まーね。魔界には美味しいご飯なんてないからさ。今は魔王様のおかげでそこそこ美味しいご飯を食べることができてるけど、やっぱりそれにも限界があるっていうか……」

「シェディム……」


魔界の空気はここと比べ物にならないくらい汚く、水がほとんど存在していないと教わっている。そのせいで良質な食材が手に入らないのだろう。


「そう思ってる魔族ってあんた以外にもいるの?」

「いないいない。いるわけないじゃん。他はなんていうか、味音痴っていうの? そういうのしかいないし、いつも魔獣の肉食べてるようなのばっかだからさー」


そう言いながらシェディムは自身の腹部へと手を添える。


「……あたしは特に人間に近い見た目をしてるから味とかにも敏感でさ。前みたいに子どもが作れるなら、少しは魔族寄りに立てたのかも……」

「ふーん……ん?? 今子どもって言った? 同い年よね? え? どう言うこと?」

「あっ、違う違う! あたしはママみたいに大人になっても子どもは作れないなぁってそんな話!!」

「そうなんだ。体質的な感じ?」

「そ、そーそー!」


あからさまな嘘だったが、わざわざシェディムの過去を掘り下げようとはレイラはしなかった。

その辛そうな瞳が、レイラを追及させる事をはばからせてしまった。

だがそうすると、シェディムに兄弟がいない限り、シェディムの種族は途絶えてしまうのではないだろうか。

そう考えると少し寂しい気がしてならなかった。


せっかく知り合ったのなら、何か楽しいことをしてあげるべきなのではないかとも思ったが、よくよく考えればシェディムは魔族である事を思い出す。

魔族に同情してどうするのだと、内心の自分に叱咤する。


「それよりそれよりぃ。あたしのクレープ食べてみるー?」

「は? 何でよ」

「ほんっとうに美味しいから! ね? ひと口だけで良いからさぁ」


シェディムはレイラの口元に食べかけのクレープを近づけてくる。


「いや、ちょ、待って。まだ弁当残ってるから」


今甘いものを食べると口の中が甘さで埋まって弁当の味が変になってしまう。


「そんなの後ででも良いじゃん。今は友達の頼みを聞いて欲しいな♡」

「…………」


シェディムのクレープがレイラの唇に触れただけで甘い香りとほんのりとした味が伝わってくる。

食べなくてもわかる。絶対に美味しい。

香りが鼻から口内へと満たしてしまった以上、食べても変わりはないかという思考に至ってしまう。

ゆっくりと開けた口の中にシェディムが差し出したクレープが入っていく。


「はむ…………あ、美味しい」

「だよねだよね! じゃあさ、次来た時はレイラちゃんのおすすめの食べ物を食べさせてね?」

「うん……そうだね」


友達と何かを食べるって案外悪くないかもしれない。

レイラは口についたクリームを指で拭い、それを口に運びながら空を見上げる。

自分の生活にも、これくらいの甘さがあっても良いのかもしれない、そう思うのだった。

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