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妹々は追いつけない  作者: 戴勝
第2章 承
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第5話 ミメシス

「たああああああ!!」

「………っ!!」


テトの力強い声と共に繰り出される拳をミメシスは躱すことなく、華麗に受け流し、カウンターの拳を繰り出す。

それをテトも同じように受け流し、再び拳が繰り出される。

二人の戦いは互角だった。

動体視力、反射神経、攻撃速度、どれもが同じで、まるで鏡を相手に戦っているようだった。

そうした場合、主人の力量が戦いの決め手となる事は間違いない。

レイラはミメシスが視界に入るように少し横へと広がり、杖剣を構える。


「テト! 躱して! 『炎弾(スフェイラ・フローガス)』!!」


杖剣の先端に手のひらサイズの炎が生まれる。

それは次の瞬間、弾丸のような速度でミメシスへと撃ち出された。

それも一つや二つではない。確実に仕留めるためにレイラはミメシスへ向けて炎の塊を連続で放った。


テトはそれを横目で確認すると、ミメシスとの近接戦をやめ、彼女の体を踏み台に前蹴りをする事で大きく後方に跳んだ。

直後、先程までミメシスがいた場所が激しい爆発音と共に地面が抉れ、土埃が大きく舞い上がった。


「やったですか!?」

「いや……」


ミメシスが本当にあのベスティアの複製なら、これくらいで倒れるとは思えない。

でも手加減はしていない。たとえ倒せていなかったとしても、せめて動きを鈍らせるくらいのダメージが与えられていればいい。


土埃がゆっくりと晴れていく。

そこに立っていたのは──

傷一つ、汚れ一つないミメシスの姿だった。


「うそ!? 無傷っていうの!?」


あのタイミングなら間違いなく一発は当たっていたはずだとレイラが驚愕したその時、


「ぅあっ……!!」


突如、左肩が大きく抉れ、鮮血が舞い散る。

一瞬、突風みたいなものが顔の横を通り過ぎていった事で、この攻撃がコーリーによる風魔術だと即座に理解したレイラは左肩を押さえながらコーリーを睨みつける。


「よそ見は良くないわね。相手が魔族ならあなた、もう死んでるわよ?」


警戒を解いたつもりはない。動揺が隙を生んでしまったのだろうか。

何であれ攻撃を受けたのは自分の落ち度。これでまた一つ、自分の弱いところに気がつけた事を内心でレイラは喜んだ。


「ふん、さっきので私を戦闘不能にできなかったあんたも同類よ!」

「くっ、威勢だけは達者なようね。お望み通り、もう容赦はしないわ。本気で行きなさいミメシス」


コーリーの指示に従い、ミメシスは静かに駆け出す。

先程と変わらない動き、だが──今回のミメシスは何かが違った。

何が違うのかは分からない。それでも、確実に先程とは違うと感じてしまう。


「おーりゃあああ!」


レイラが感じた違和感にテトは気がついていない。

レイラは一度テトを退かせるべきかに悩んでしまった。

この違和感がもし自分の勘違いだったら、下がったことで相手に攻めのきっかけを与えてしまう可能性もある。


「よそ見の次は呆け? あきれた……『風刃(レピーダ・エラ)』!」


コーリーの杖剣から再び風の刃が多数生成され、レイラに向けて飛来する。


「……っ!」


魔術を行使している時間がない。

レイラは両脚にあらん限りの力を入れ、地面を蹴って横に跳んだ。

その瞬間、先程までいた場所を空気の刃が耳障りな風切り音を鳴らして通り過ぎて行く。

少しでも判断が遅れていたら今頃五体満足とはいかなかっただろう。


「殺す気!?」

「あなたがトロいのよ。それに、私たちはそのつもりで規則を破った戦いをしてるんでしょ?」


さも当然のようにコーリーは言葉にしているが、「即死不可」の魔術はお互いに魔術を掛け合わないと成り立たない。

最初にこの魔術を否定して、勝手に戦闘を始めたコーリーと同類にされるのはレイラの癪に障った。


「頭いかれてんじゃないの……」


レイラはコーリーを警戒しながらテトの戦いへと目線を移動させ、そして目を丸くする。


「えっ……」


テトとミメシスの戦い、先程まで互角の戦いをしていたはずが、なぜか今はテトの攻撃がひとつも当たっていなかった。


「どういうこと……?」


ミメシスはテトの目の前に立っている。しかし、テトが攻撃を仕掛けると霞のように実態がズレて消え、拳がすり抜ける。

次の瞬間、別の場所から拳が飛んできていた。

幻覚の類かとも考えたが、そんな魔法をベスティアが使えたという記憶はない。

また、コーリーにあっても、杖剣が使える魔術は初級魔術のみ。幻覚を見せるような上位な魔術が使えるはずがなかった。


「きっと何か仕掛けがあるはず! 『炎壁(ティコス・フローガス)』!!」


その詠唱により、ミメシスを取り囲むように周囲に炎の壁が立ち上がる。


「逃げ場をなくせば私でも戦闘不能にできるわ! 『炎──」

「レイラ!!」

「……っ!?」


テトが必死になって叫び、レイラの方へ高速で移動してくる。


── なに? どういうこと?


レイラの視界にはコーリーがいる。囲まれた炎の中にはテトを追って駆け出そうと構えるミメシスの姿も見える。

だとしたらいったいテトは何に対して焦っているのだろうか。

しかし、コーリーの口元がゆっくりと持ち上げられたのを見たその瞬間──

レイラの背筋に氷のような悪寒が走った。


「な、なんで……」


── 嘘でしょ……!? 確かにミメシスは目の前にいる。目の前にいるのが見えているのに、なんで背後から気配を感じるの!?


内心の驚きとともにすぐに振り返り杖剣を構えるが、既に遅かった。

ミメシスの拳が目の前に迫ってきており、レイラは咄嗟に瞼を閉じた。

 


しかし、想像していた衝撃はやってくる事はなく、代わりに横から肩を強く押され、レイラは地面へと倒れ込んだ。


「がはっ……」

「テト!!」


レイラを庇って割り込んだテトがミメシスの攻撃を防ぎきれずに大きく吹き飛ばされる。

何が起きたのか理解できない。

思考が追いつかない。

ミメシスはベスティアとは何かが違う。

テトも同じ能力を使っているのに、ここまで圧倒されるのはおかしな話だった。


「ふふ、どう驚いた? ミメシスは既にオリジナルの速さを超えているのよ。総合的に見れば私の知っている彼女とはまだまだ遠いけれど、妹であるテトを手にすれば、完成に近づくはず!」

「……何を企んでるの?」

「別に? ただ私は彼女(べスティア)を超える使い魔を手に入れたいだけ。そうすれば、この国最強の使役士になれる」

「ばっかじゃないの。何が最強の使役士よ。そんなものあんたにできっこない。強すぎる力は、扱えなければただ喰われるだけ」

「喰われる? ミメシスが私に逆らうとでも思っているの? お生憎様、対策はばっちりしてあるわ。口がきけなくなったのは残念だけど、反抗的な言葉を掛けてくるよりかはマシね」


ミメシスの頭部には、見慣れない金属の装置が取り付けられていた。

おそらくこれがコーリーが言う対策というものなのだろう。


「この、人でなし……!」

「そう思うなら私を止めてみれば? あなたには無理でしょうけど。オリジナルが到達できなかった『光の速さ』には誰にも追いつけない。この学園でミメシスを倒せる使い魔は存在しない!! あははは!」


コーリーは両腕を大きく広げ、高らかに笑っていた。

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