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妹々は追いつけない  作者: 戴勝
第2章 承
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第6話 勝敗

ミメシスは光の速さで動いている。


間違いなくコーリーはそう言葉にしていた。

先程の戦いでは、ミメシスは確実にレイラの目の前にいたはずが、気配は背後から感じた。

レイラはおそらくミメシスが移動した後の残像を見ていたのだと推測する。

あれほど実物と見間違えるほどの残像を生み出す速さを目の前で体験したはずなのに、未だ信じる事が出来なかった。

あんな動きを常にされたら確かにレイラたちに勝ち目はない。


だが、レイラの中では何かが引っ掛かっていた。

あの速さで動けるならどうして最初から使って倒しに来なかったのか。

初動で圧倒すれば、もしかしたら降参していたかもしれない。

ふと、レイラは小さい頃に兄から聞いた話を思い出す。


『どんな生物であれ、皆魔力を消費して生きている。身体を動かす場合、動かさない時より多くの魔力を消費しているんだ。激しい動きをすればするほどそれだけ魔力を消費する。だから魔術には使用回数が限られていて、消費し続ければ生物は動けなくなってしまうんだ』


オリジナルであるベスティアは「身体強化」という魔法で自身の移動速度を底上げしていた。もちろん、使用すれば魔力を消費するため、多用はしていなかった。

ミメシスがベスティアの複製ならば、魔力貯蔵量はほぼ同じであるため、「光の速さ」とやらが魔法であれ何であれ、膨大な魔力を消費していることには間違いない。

つまり、テトが戦闘不能にならない限り、レイラたちにはまだ勝機があった。


「テト、やるわよ! 私たちはまだ負けてない!」

「……っ!! はいなのです!」


気合いの入った返事をしたテトは大きく跳び、レイラの隣に力強く着地した。


「へぇ、まだやる気なの? さっきので力の差は分かってくれたと思ったのだけれど」


そう言ったコーリーの言葉には明らかに苛立ちが含まれているのを感じた。


「ふん、そもそもこの学園で最強の使い魔を誇示するくせにどうしてテトを欲しがるわけ?」

「それは、さっきも言ったとおり、妹であるテトを取り込めばさらに強く……」

「つまり、ミメシスには欠点があってまだ未完成って事よね。なら、まだ最強じゃない」

「黙りなさい! ミメシスの力が理解できないようならもう一度叩きのめすまでよ!!」


レイラは内心で小さく笑う。

今の挑発に乗ってしまったコーリーは間違いなく再度あの速さで戦うようにミメシスに指示を出すはず。


「テト、作戦があるの」

「……? はいです」


レイラはテトにだけ聞こえる声で作戦を伝える。

上手くいけば、ミメシスの魔力を大幅に削る事ができる。


「そっちは任せたわよ。私はコーリーを倒す」


援護をするのは最初だけ。その後はコーリーに邪魔をさせないように立ち回るだけでいい。


「一瞬で終わらせなさいミメシス!!」


コーリーの指示により、ミメシスが姿勢を低くしたそのタイミングでレイラも杖剣を構えて魔術を唱える。


「行くわよテト。『水壁(ティコス・ネロウ)』!!」


テトとミメシスの間に水で生成された壁を何重にも出現させる。

しかし、出現したそばから壁が水飛沫を上げて次々と破壊されていく。


「馬鹿ね。確かにミメシスは物体を通り抜けられないけれど、水では話にならないのよ!」


そう言葉を終えたコーリーは次の光景に目を丸くした。

一秒と経たない間に水壁を全て破壊したミメシスだが、破壊した最後の一枚だけなぜか水が弾けると同時にミメシスの顔へと巻き付いたのだ。


「……っ!?」


突然、視界が塞がれ、呼吸ができなくなったミメシスはその場で止まり、顔に張り付いた水を剥がそうと必死に踠く。

しかし、剥がしても剥がしてもまるで意志を持っているかのように水が顔へとまとわりつき、ミメシスの体力が徐々に奪われていく。


「何が……どうなって──」

「何よそ見してんのよ!」


放心するコーリーへと近づいていたレイラは炎の塊を彼女の腹部へとぶつける。


「かはっ!?」


防ぐ余裕すらなかったコーリーはぶつけられた勢いで地面へと強く倒れるが、接近されている以上、寝そべっている時間はない。

すぐに立ち上がり、杖剣を振りかざす。


「やぁあ!!」


杖剣は文字通り杖と短剣が一体化したような形であるため、魔術だけでなく、剣としても活用ができる。

この至近距離なら魔術より剣として戦った方が得策なのは理解できるが、コーリーの振るう剣筋は見るに堪えないもので、ただただ振り回しているだけと言っても過言ではなかった。

レイラはコーリーの横振りを半歩下がる事で躱し、振り抜いた剣が戻ってきた瞬間を蹴り上げた。


「あっ……!?」


反動で仰け反るコーリーに対し、素早く屈んだレイラはバランスがとれない軸足を蹴り払うことで地面へと仰向けで倒し、杖剣を持っている手を膝で抑える。


「……私の、勝ちよ」


最後に杖剣の先をコーリーに向ければ、もはやどっちが勝ったなど言葉にするまでもなかったが、変な抵抗をされないためにもここは相手にも言い聞かせるように言葉にしておく。


「くっ……負けたわ。だから早くミメシスに取り付いている液体を消して」

「分かった」


レイラはコーリーから杖剣を奪い、剣先を向けながら戦いの終幕を告げる。


「テトー、こっちは終わったからもう良いわよ」


その言葉により、ミメシスに取り付いていた液体が瞬時に剥がれ、レイラの肩へと降り立った。


「えっ……? スライム?」

「そうね、スライムね」

「待って、どういうこと? テトは? あなたの使い魔はどこにいったのよ」

「この子がテトよ。言ってなかったっけ? テトの能力は『変身』。あらゆる生命体に姿を変える事ができるの」


レイラは学園に入ってから一度もテトが他の生物に変身するところを見せていなかったなと思い出した。

ベスティアの姿に変える時はあるが、元がベスティアの姿に寄せているせいで相手には姿が変わったかどうかなど判別が付かないのだろう。


「聞いてないわ、そんなの」

「ふん、お互い様よ」


そう言うと、コーリーは完全に戦意を失ったのか、力なく空を見上げた。

そのため、レイラはテトに元の姿へと戻るように指示する。


「レイラ! 勝ちましたです!」

「良くやったわ。さすがね。とりあえず、あそこで脱いだ服を取ってきなさい。いくら夏でも裸じゃ風邪引くわよ」

「はいなのです!」


素っ裸のテトはとてとてと小走りで服を取りに向かった。


「聞いても良いかしら」

「なに?」

「どうしてスライムならミメシスを止められると思ったの?」

「別に、止められるとは思ってなかったわ。だから私はあなたを倒す方を選んだわけだし。テトには時間稼ぎをしてもらうだけでよかった」

「でもそれなら他の魔物でもよかったはず……」

「そうね。私がスライムを選んだ理由は2つ。まず1つ。物体は水の中を通ると速度が低下するの。それはたとえ光の速さで動いていても同じ。だから私は水の壁を大量に作った。少しでもテトの変身を邪魔されないため、そしてスライムに水の壁と同化してもらうため」


土壁を作った場合、ミメシスは自身へのダメージを抑えるために左右に回られる可能性があった。


「そして2つ目の理由、これは単純に……」


兄からベスティアとの出会い話を聞いておいて良かったとレイラは内心で安堵する。


「ベスティアさんはスライムが大の苦手だから、ね」

「ふざけた理由ね。オリジナルはそうでも、複製体の苦手なものが同じとは限らないのに」

「でも実際に、自称最強のミメシスは低級魔物のスライムに翻弄されたのは事実よ」


むしろ負けていた可能性だってある。あのまま行けば確実に窒息していた。

それでも、テトが明確な敵でない者を殺すはずがないため、死ぬことはなかっただろう。

何はともあれ、レイラは無事、ミメシスに勝つ事ができた。


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