↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
絶望と希望の英雄譚  作者: いなり
第一章:交錯編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

9/62

第7話:ノルン・カデンツァ

ガタン!


 大きな音と揺れと同時に目が覚める。いつの間にか寝ていたようで、たくさんの荷物に囲まれていた。手を伸ばし、荷物を支えに身体を起こす

。

「おう、起きたかい。英雄さんよ」


 声のする方に向くと、ホッセルの手綱を引いたまま、こちらを振り向くセロドアさんが見える。


「もう着く頃じゃよ。ほら」


 セロドアさんが前を向くのにつられて、視線を前にやる。道の先にはいくつも家が立ち並んだ街が見えていた。


「オルドレアンじゃ」


「オルドレアン…」


 セロドアさんの言葉に、フェルンも呟く。


 思えば期間は長いが、初めてのことばかりで、あっという間の7日間だった。


 ある程度の食料はあるものの、基本は狩りじゃ!とセロドアさんに言われ、食料調達の狩りやら、野宿の基本の火起こし、夜の過ごし方など。この先の旅で必要なことを色々と教えてもらった。


 おかげ様で、この7日間で旅の基本は身につき、だいぶ鍛えられた気がする。


* * *


 街に近づくにつれて、家が増え始め、気が付けば、多くの家が立ち並ぶ通りに入っていた。


 建物の高さは村とさほど変わらないものの、家同士が割と近い。また村とは違い、木造ではなく、レンガのようなもので建てられている。壁の色は白が多く、通り全体が明るい。


 人も多く、家の前で談笑する人、どこかへに向かう人、急いでいるのか走る人、騒がしく荷台の横を走り抜けていく子どもたち。


「人も建物も多いですね…」


 初めての光景に、つい首と目が動いてしまい、大忙しだ。


「ほっほっほ。まあ最果ての村と比べたら、どこも多いじゃろう」


 確かに、と思いつつも、また周囲を見回す。


 セロドアさんの言う最果ての村が、これまで暮らしていた村の名前だと、道中に教えてもらった。いつも『村』と呼んでいたから、名前を気にしたことがなかった。


 なんでも王国に属する村で、王都からもっとも遠いために、そう呼ばれているそうだ。


 しばらく通りを進むと、大きな広場が見え、広場の入り口でセロドアさんと別れた。荷台の向きを変え、セロドアさんは来た道を戻る。


「ありがとうございました!」


 セロドアさんに向けて大きく手を振る。姿が見なくなるまで確認をすると、広場に足を踏み入れた。


「よし!それじゃあ、まずは宿だな」


* * *


 広場からすぐのところで、案外簡単に見つかった。寝泊まりができれば、と値段も安い小さな宿に決める。


 受付を済ますと、少しの荷物を持って、さっそく宿を出る。


「さて。じゃあ情報集めるかな」


 村を出る前にグラッツさんからの助言で、情報集めは酒場がいいと教えて貰った。多くの人が酒場に来て、酒のネタに店主や従業員に話をするから、情報集めにうってつけとのこと。


 酒場の場所は宿の受付の人に聞いたため、歩き…出したところで、通りから伸びる細い道の入口に視線が向かう。


 視線の先には、やたら背の高い人と、やたら横に大きい人が並んでいるが、その奥にもう1人いるみたいだ。


「…ないです!」


 いやさらにもう1人。女の人の叫ぶような声が聞こえる。どう見ても絡まれているようだ。


 そう思うと、自然と足が4人の方へと向かう。


「な、何度も言わせないでください!」


「そう言うなよ。俺らはお嬢ちゃんを手助けしようと思ってだな」


 近づくにつれ、だんだんと声が大きくなり、話す内容が聞こえてきた。


「し、信用できないです!」


「おいおい。見た目で判断かよ。俺ら泣いちまうぜ」


 手前の二人の後ろに立つと、少し大きめに声を出す。


「なあ、その人困ってるじゃん。やめなよ」


「あぁん?」


 その言葉に、手前の2人がこちらを振り向く。1人は眉間に皺を寄せ、睨みつけながら見下ろし、もう1人は…もぐもぐと口を動かしていた。手元にはイモを薄くきって揚げたチップスを持っており、一掴みしてバリバリ食べていた。半分くらいが口に入らず、零しているが。


「なんだ兄ちゃん。何か言ったか?あぁん?」


バリバリバリバリ…


「ちょっと周りがうるさくてよく聞こえんかったわ。あぁん?」


バリバリバリバリ…


「もう1度はっきり言ってくるか?あぁん?」


バリバリバリバリ…


 食べる音がうるさく響くが、背の高い男の声がやたらと高い声で凄んできたので、よく聞こえた。もっとも全然凄みは無かったが。


「その女の人が困っているだろって言ったんだ」


バリバリバリバリ…


 なるべく大きめの声で話したが、相手に聞こえているのかわからない。実際、背の高い男は何も言わない。


 少しの沈黙(バリバリ音はしている)のあと、奥にいたボサボサの長い髪の男が、背の高い男の前に出る。


「ま…ま…、セッタ。そう…ご…ら、に…ちゃ…び…ってかい…でき…だろ」


バリバリバリバリ…


何て言っているのかわからない…。また少しの沈黙(バリバリ音はしている)のあと、ボサボサ男が横にいた大きい男の頭をゲンコツで殴った。


「うるせぇよ!ブット!自分の声すら聞き取りづれぇーじゃねーか!!」


 殴ったことでブットと呼ばれた男が、顔面から地面に倒れる。バリバリ音が止まった。


「ったく。で、何だっけか。…ああ、あんちゃんが絡んできたんか」


 頭をボリボリ書きながら、こちらに視線を向ける。


「俺たちゃ、この嬢ちゃんが旅してるって言うんで、護衛をしてやるって言ってるだけだよ」


 後ろを親指で示す。示した先にはボブ髪の女性が、身体を小刻みに震わせながらも、ボサボサ男を睨みつけていた。


「わ、私は、あなた方に、お、お願いするつもりはないです!だ、大体、なんで、私が、旅しているって、知っているんですか…」


 女性は最初勢いよく話始めたが、最後の方は声が小さくなっていった。


 ボサボサ男は、また頭をボリボリ書きながら、小さく何かを呟いたかと思えば、こちらに向き直る。


「まあともかく、英雄気取りのあんちゃんには、関係ねー話ってことだ」


 こちらに向けて手を払い、あっちいけと合図をする。が、女性が怯えている時点で、この男のやり方は間違っている。そのまま去るなんてできない。


 女性の方を振り向こうとしたボサボサ男の腕を思わず掴む。


「…っつ。いい加減にしろや」


「てめー、何勝手におボスに触ってんじゃあ!あぁん!?」


「んがーーーーーーーーーー!」


 ここから先は一瞬の出来事だった…と思う。


 ボサボサ男の一言の後、下からの拳が飛んでくるのが見えた。


 が、同時に、後ろにいたセッタに肩を捕まれ身体を引かれる。


 引かれた結果、ボサボサ男の拳が胸元をかすめる。


 と、それとまた同時に、顔面から倒れていたブットが勢いよく拳を上げながら立ち上がる。


 避けられたボサボサ男は立ち上がった状態となる。


 ブットの勢いよくあがった拳が、ボサボサ男の顔面に裏拳のように入る。


 ボサボサ男の顔にブットの拳がめり込む。


 ボサボサ男がそのまま鼻から血を舞わして後ろに倒れ込む。


「…」


 数秒の沈黙の後、、、


「おボスーーーーーー!」


 セッタが甲高い大声を上げる。しかし倒れたおボスとやらは、起き上がらない。


「お?おボス、どうしたんだ?」


 ブットは野太い声だった。


「おボスがこいつにやられた!」


 ビシっとこちらに指を向ける。いや、俺じゃないから。


「お、おボスがやられた!」


「ひ、ひとまず、た、退散だ!こ、こいつ、覚えてやがれ!あぁん?」


 こちらに顔を向け凄む。人に言うときだけ凄むのかな?


 おボスと呼ばれた男をブットが背負うと、のそのそと歩き(?)ながら、去っていった。


 小さくなるのを見ていたが、女性のことを思い出して振り返る。女性も去っていく3人組を見ていたので声をかける。


「えっと…大丈夫だった?」


 声をかけると、女性ハッとしてこちら視線を移し、凄い勢いで頭を下げた。


「た、助けていただき、ありがとうございました」


「あ、いえ。と言うか、自分は何もしてないけど…」


 声はかけたものの、相手がドタバタして勝手に倒れただけだし。


「いえ。声をかけていただけて、助かりました」


 顔を上げ、ホッとしたのか胸に手を当てる。


「もし良ければ、泊まるとこまで送るよ。また絡まれるといけないし」


「ありがとうございます。でも、大丈夫です。これから教会に向かおうと思っていましたので」


「教会?」


「はい。いま手持ちも少なくいので、お金を稼ごうかと…」


「???」


 教会とお金を稼ぐが紐ついておらず、それを察したのか、女性はくすっと笑うと話してくれた。


「教会では街の人々からの依頼を集めているんです。依頼にはそれぞれ報酬を用意しているので、達成できれば報酬としてお金がいただけるんです」


 そう言えば、金銭に困ったときの話を、父さんが言ってた気がするな。最悪のときは教会で恵んでもらうんだぞ、ってことと思っていたが、依頼の話だったんだな。


「今日はご飯もまだなので、、、」


 と、狙ったかのように、お腹の虫が鳴る。と同時に女性はみるみる顔を真っ赤にしていく。


「あはは。もし良ければご飯くらい奢るよ」


「い、いえ!そんな助けてもらったのに、ご飯まで…どうしました?」


 女性の言葉を聞きながら、胸元に手をやるが…お目当てのものに触れられず、動作が止まる。


「…財布が無い」


「えっ!もしかして、さっきの騒ぎで落としたとか…?」


 女性と一緒に周りをキョロキョロするが、それらしいものは落ちていない。


 勘違いかも、と思い、全身のポケットに手を突っ込んだり、服の上をあちこち叩くが、それらしいものに触れる気配がない。バッと振り返るが、近くにも落ちていなさそうだ。


 最初の街でまさかの非常事態。せめてもの救いは宿が前払いで済んでいることくらいだ。


「まさかの金無し…」


 情報収集ついでに買い物もする予定だったので、結構な額を失ってしまった。


「あの…一緒に教会行きます?」


 女性が申し訳無さそうに提案してくれた。もしかしたら、さっきの騒動のせいと感じ、気にしているのかも。ただ確かに自分も依頼をこなさないと旅立てなくなってしまった。


「そう、だな。俺もお金が無くなったから、一緒に行くよ。ええっと…」


 よろしく、と言おうとして、まだ名前を聞いていなかったことに気付いた。女性もそれに気付いたのか、軽い咳払いをすると、背筋を伸ばして自己紹介をしてくれた。


「私は、ノルン・カデンツァと申します。これからどうぞ、よろしくお願いしますね」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。