第8話:教会でお金稼ぎ
ノルンと共に大通りをしばらく歩くと、石造りの教会が見えてきた。
「普段は教会に行かれるんですか?」
「いや、初めてだね」
ノルンが静かに目を見開く。
「故郷の街でも通われたことなかったんです?」
「うん。そもそも村には教会も無かったしな…」
「え!?」
想定外の回答だったのか、ノルンは立ち止まってしまった。
「そんなに驚くこと…?」
「驚きますよ。教会がない街があるなんて、初めて聞きました」
小走りで追いついてくると、また二人で歩き出す。
「もしかして、アペイロン教のこともご存知ないです…?」
「それはさすがに知っているよ。ここから北に行った、エデニア教国の宗教でしょ?」
教会は無かったが、アペイロン教を信仰している人は、村にも何人かいた。確かグラッツさんもそうだったはずだ。
「はい、そうです。エデニア教国を建国なされた、アペイロン様のお名前を冠した宗教になります」
「アペイロン…様が作った宗教なの?」
どう呼ぶか迷ったが、ノルンに合わせて様をつけることにした。
「いえ、違いますよ。一説には、アペイロン様が熱心に神様に祈りを捧げたことで、願いを叶えることができ、また助けられたこともあった、と言われてます。それに倣って、私達も神様に祈りを捧げることで、願いや助けを得られるでしょう、と後世の方が広めたそうです」
まるで信徒の人のような、言い聞かせる口調で話してくれた。
「へぇ…。ノルンはアペイロン教に詳しいみたいだけど、信仰しているの?」
「あ、えっと、そういうわけではないですが…。あ、着きましたよ」
それまで得意げだったのに、急に視線を外すと、はぐらかすように教会の扉に向かっていった。
何かまずいことでも聞いたかな…。
* * *
大きな扉の前に立ち、教会を見上げる。他の教会を見たことないが、街中のレンガ造りの家よりはずっと大きく、重厚感を感じる。
「お邪魔します」
ノルンが大きな扉を身体で押し開くので、扉を開けるのを手伝いながら後に続く。
教会内部に入ると、外から見るよりも広く感じられ、思わず周りを見回してしまう。大きな窓からは光が差し込み、石壁に反射し、広い空間を光の絨毯で覆っていた。高い天井にも光が満たされ、村にあった家よりも数倍高く伸び、解放感のある空間となっていた。その高い天井からは長い紐で器が吊るされており、見たことない魔導石が置かれていた。
「こっちだよ!」
ノルンの声がする方を向くと、いつの間にか教会の奥にいた。奥に向かうと、机を挟んだ奥に、初老くらいの神父が立っていた。
「こんにちは」
神父が柔らかな笑顔をこちらに向けて挨拶してくれたため、こんにちは、と返事をする。
「今日は何かお手伝いができないか、と思って、こちらに来ました」
「それはそれは。みなさんのためにありがとうございます。では、こちらにどうぞ」
神父が横の壁に手を向ける。そこは大きな掲示板があり、いくつかの紙が貼り出されていた。
神父がそちらに歩き出したため、ノルンと共に付いて行く。
「ここは流通の拠点でもあり、手に入らないものがそう無いので、あまり依頼は多くないですが…」
掲示板の書かれた紙をノルンと一緒に眺める。
内容は何かの採取がほとんどで、たまに買い物や失せ物探しなどがある。とはいえ、どれも簡単なものしかない。
「討伐とかは無いんですね…」
「ほっほっほ。そのような危ない依頼は、兵士や教会の騎士にお願いしていますから。教会でお出ししている依頼は、街のみなさんのお手を少し借りることで、対処できるものに限らせていただいてます」
「なるほど。本当にお手伝いなんですね」
その言葉に神父は頷く。
「ええ。みなさんで助け合う、その心でみなさんの困り事を集め、依頼のできる場を教会は用意したまでです」
村でやっていた『英雄』のお手伝いそのままだ。もっとも、自分に来た依頼は両親からだが。
「あ、これが良さそうです」
掲示板を見ていたノルンが、1枚の紙を掲示板から外す。
「街の外にある薬草の採取です」
外した紙を神父さんに渡す。
「ありがとうございます。それではこちらでお受けしますね。お二人でよろしかったですか?」
言われてノルンが、あ、っとした顔をすると、勢いよくこちらに振り向く。
「あ、えと、すみません。私てっきり一緒に行くものだと思ってましたが、依頼を受けるために、教会にご一緒したんでしたね…」
申し訳無く思ったのか、最後の方は声が小さめになっていた。
「あ、いや、大丈夫だよ。俺も今はお金ないし、こちらこそノルンが良ければ、一緒に行きたいくらいだよ」
酒場へ行く前に、お金がない状況は先に解決をしておきたい。そして何より街の外に行くノルンも少し心配だ。依頼にあるくらいだから、危なくないと判断された依頼とは思うけど。
ノルンは一瞬だけ目を見開くと、すぐに頭を下げる。
「ありがとうございます!」
顔を上げ、ふわっとした笑顔を見せると、すぐに神父の方を向く。
「二人でお願いします!」
ノルンの言葉に神父は頷く。
「はい。わかりました。頑張ってきてくださいね」
見守る暖かな笑顔ってこう言うのなんだな、と神父のにこやかな顔を見て、思った。
ノルンがこちらに向き直る。
「それじゃあ、さっそく街で準備して出かけましょう!」
そう声を上げると、ノルンは教会の入り口に向かって歩き出した。




