↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
絶望と希望の英雄譚  作者: いなり
第三章:公国編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

57/62

第55話:活気満ちる異国の都

「うわぁ……!」


 ノルンが感嘆の声を上げる。シーサーペントの討伐後、広間を抜けた先には長い坂が続いていたが、洞窟の入口をくぐり抜けた先は、草木の生い茂る地上だった。後方からは潮の香りが吹き抜ける。視線を向けると、広大な海が崖の下から広がっていた。


「ここが、ネイツァーレ公国?」


「そう。この天然の崖に囲われた島国こそ、ネイツァーレ公国。自然との調和を大切にした国だね」


 隣に立ったリアファルさんが真面目な顔で応える。潮風でリアファルさんの髪がたなびく。


「……カッコつけているところ悪いですが、どうしてリアファルさんがここに?」


「いやぁ、奇遇だね、フェルンくん、ノルンさん。実はちょっと探究心に負けてしまってね。そしたら、魔獣に追われる羽目になってしまったんだよ」


「探究心って、また巣を突っついたのでは?」


「うむ。正解だ!それこそ探究の道をくすぐる行為そのものだろ?」


 ハッハッハ、と笑うリアファルさんの回答に、頭を抱えたくなる。そうだ。この人はこういう人だ。ノルンも空笑いをしている。


「……そろそろ私たちにも紹介してくれる?」


 アニーさんに後ろから声をかけられる。そうだ。長い坂でお互いに話す余裕もなく、後回しにしてたんだった。アニーさんとタルテに向けてリアファルさんを紹介する。


「えっと、こちらリアファルさん。ひくうきかい?の研究で、世界中を旅している人なんだ」


「うむ。よろしく頼む」


「で、こちらがアニーさんとタルテ。タルテは王国の兵士でアニーさんは……」


 と、ここで何と紹介すべきか、迷ってしまう。王女?と紹介するわけにもいかないだろうし。


「アニエス・リ・レジャスルトです。レジャスルト王国の、元王女よ。今は白羊の隊商(アリエス・キャラバン)の副隊長を……いえ、それももう無くなったわね」


「アニーさん……」


「ここでは隠す意味も無いでしょう。それに……いえ、何でもないわ」


 アニーさんは悲しげな表情を浮かべる。


「……いやはや失礼。もしかしたら、とは思っていましたが。複雑な事情があるのでしょう」


 そしてリアファルさんはアニーさんに向かって手を差し出す。アニーさんもそれを見て、悲し気な目ではあるものの、静かに笑みを浮かべてリアファルさんの手を握る。


「と、みなさんはこれからどちらに?コウトですかな?」


 リアファルさんが歩き始めたので、俺たちも歩き出す。


「え、ええ、まずはそちらに。色々と情報も欲しいですから」


「ふむ、それがいいですな。ただ今はタイコウセンキョが近いですから、情報統制であまり情報は得られないかもですな」


「コウト?タイコウセンキョ?」


 アニーさんとリアファルさんの間で、聞き慣れない言葉が飛び交う。全く会話がわからない。


「公都はネイツァーレ公国の首都ですよ。レジャスルト王国の王都と同じです。この国では一番大きな街ですよ」


 横を歩くノルンが補足してくれる。


「で、大混戦場ってのは、どこのこと?」


「大公選挙ですよ!簡単に言えば、国のみんなで次の国の代表を決めるんです」


「大公……選挙……?代表って王様のことだろ?子供が継ぐんじゃないのか?」


 村であれば子が親の家業を継ぐことがほとんどだ。子がいないと親類縁者だったり、それすらいないなら、やりたい人がなるが、そうでなければ廃業だ。そもそも王国の世継ぎも同じだ。まあ今はアニーさんじゃなく、その叔父のモルルド王がやっているわけだが。


「この国では国のみなさんで決めているのよ。みなさんで決めるから、きっとこの国の代表は、良い方なんでしょうね」


 とノルンが哀しい顔をして呟く。きっとモルルド王のことを思い浮かべているのだろう。王都の惨状を見ると、あの王の執政がどれだけ良くないかがわかる。


「まあ公都に行ってみたらわかるだろう」


 そして王国から逃げている身ではあるが、初めての公国に内心は気持ちが昂ぶっている。その証拠に俺の足は、足早になっていた。


* * *


「わかった。今取り次ぐから、ここで待っていてくれ」


 途中から街道に合流することができ、街道沿いに歩くと、公都にはすぐ着くことができた。そして街の橋にある詰め所にいた兵士に、アニーさんが何やら話すと、兵士はそれだけ言い、詰め所の中に戻る。


 ここが公都?と言うくらい殺風景だった。詰め所の手前は街道だから家がないのはわかるが、詰め所の向う側も、つながった平たい家屋が並ぶだけで高い建物はない。ただ街の中心と思われるところに、大きな建物が見える。


 家屋の前は道になっており、多くはないが人が行き交っていた。ただ王都と違い、みな沈んだような空気ではなかった。


「公国で1番大きいって聞いてたから、もっと賑やかかと思ったけど」


「そうだよね。王都の城前通り、とは言えないけど、もう少し活気があっても良さそうだよね」


 俺の言葉に、タルテも周囲を見ながら頷く。ノルンも物珍しそうに、見回している。


「ここは公都の端だからね。中心はもっと凄いわよ」


 アニーさんは来たことがあるのか、俺とタルテの反応に、ふふっと笑う。リアファルさんもニヤニヤしている。そしてしばらく待っていると、オレたちの前にホッセル車が止まる。そしてさっきの兵士が詰め所から出てくる。


「今から会ってくれるそうだ。ただ今は選挙前だ。あまり時間を取らないでくれよ」


「わかったわ。ありがとう」


 アニーさんはそう兵士に告げると、ホッセル車に乗り込む。俺たちもアニーさんに続きホッセル車に乗り込む。


「それで誰に会うんだ?アニーさん」


 車内に全員が座ると、ホッセル車が動き出す。


「現大公のガウエン公よ。今のネイツァーレ公国の代表ね」


「どうしてそちらの方に?」


 ノルンの言葉に、アニーさんが悲しげな表情で答える。


「昔、お父様が懇意にしていた方なの。今は彼に頼る以外に方法が無いから……」


 アニーさんが目を伏せる。少し空気が重くなるのを感じる。俺は話を変えることにした。


「ところでリアファルさんはどこまで来るんです?」


「ん?せっかくだから、君たちについて行こうかと」


 リアファルさんが軽い感じで答える。


「街には入らない方が良かったのでは?大丈夫なんです?」


 そう言えば、以前そんなことを言ってた気がする。


「ネイツァーレ公国は教国の影響が強くないからね。仮に見つかっても、捕まえられないさ」


 ハッハッハ、とリアファルさんが答える。


「え?リアファルさんは、エデニア教国に追われているの?」


「うむ。教国から重要な書籍を借りパクしてるからね」


 そしてまたハッハッハと笑い声をあげる。


「え、いやいや、ダメじゃん!」


 タルテがリアファルさんに突っ込む。俺たちも同じように思ったよ。


「お、そんなことよりも、見えてきたよ。公都の中心部が」


 リアファルさんが話を逸らすように、外を見る。釣られて俺も外を見るが、さっきとの違いに驚く。


 木造のつながった平たい家屋は変わらないが、お店なのか、家屋の屋根からは大きな旗が垂れ下がる店が多い。家屋の前には店員だろうか、あちこちで大きな声で呼びかけをしている。


 人の行き来も多い。見慣れない服装だが、色鮮やかなものから、質素な色合いのものと、多様な色が通り過ぎていく。お年寄りから子供まで多くの人が歩き、みなの顔は活気に溢れていた。


「凄い……。さっきと全然違う」


 ノルンが外の様子を見て呟く。


「ここが公都の中心よ。ここはあのお城を中心に広がっていて、中心に近い程、賑やかになるのよ」


 その言葉通り人が多くなったためか、ホッセル車の動きが緩やかになった。そしてしばらくすると、ある大きな家屋の前にホッセル車が止まる。そこは先程見たつながった平たい家屋ではなく、大きな一軒家だった。


 俺たちが降りると、家の前に案内役だろうか?女性が立っており、中に案内される。


「てっきりあの城に行くのかと思ってたよ」


 国王がお城にいるなら、代表もあの大きなお城にいるのかと思ってた。


「諸事情がありまして。本日はこちらにお越しいただいた次第です」


 前を歩く案内役の女性がはっきりとした声で答える。凛と背筋の伸びた女性だ。


「こちらでお待ちください」


 案内役の女性が引き戸を開けた場所は、広い空間だった。だが壁際には大きな花が活けてあり、壁には変わった絵が垂れ下がっていた。


 そしてすぐに引き戸の向こうで足音がすると、すっと引き戸が開く。そこには白髪混じりの壮年の男性が立っていた。


「ガウエン公、ご無沙汰しております」


 アニーさんは男性の姿を見ると恭しくお辞儀をする。この人がガウエン公か。確かに貫禄を感じる。


「うむ、久しぶりだな」


 ガウエン公の言葉に、アニーさんがホッとしたのか、短く息を吐くのが聞こえた。


「だが来て早々申し訳ないが……」


 だがガウエン公の言葉に、緊張の空気が走る。ガウエン公は言葉を一度区切り、目を伏せる。何か言いにくそうだが、すぐに目を開くと口を開く。


「すぐさまこの街から立ち去っていただきたい」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。