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絶望と希望の英雄譚  作者: いなり
第三章:公国編

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第53話:逃亡の間の休息

 目の前の火がパチパチと音を鳴らす。浜辺に流れ着いていた木だったが、湿気っていなかったようで、焦げた匂いが周囲に漂う。


 綺麗な夕焼けの時間はすぐに終わり、空はあっという間に暗くなっていた。暗くなる前に、と、薪を急いで集め、火を点けたところだ。そして自ずと、みんな火を囲むように座っていた。


「……えっと、泊まれそうなところが見つかって、良かったよね。あんなボロボロで最初は大丈夫?と思ったけど、屋根があるだけでも安心だよね」


 沈黙がいたたまれなくなったのか、タルテが明るい声で話す。しかしアニーさんとノルンさんは、火を見つめたまま黙っていた。


「…………。まあ、寝るのはノルンとアニーさんだけどな」


 沈黙が続き、何も反応がないのも不憫に思い、俺が言葉を返す。


「それは、仕方ないよね。さすがに女性を外に寝かせるわけにも……ね」


「まあ、そうだよな」


「だよねー」


 ……会話が終わってしまった。また沈黙の時間が流れる。


「……フェルン」


「え、お、おう。どうした?」


 沈黙の中、急にノルンに声をかけられて、つい驚いてしまった。


「お城で司祭様は見た?」


「司祭様……いや、見てないな。ノルンの知り合いと言っていた方だよな?」


「うん。移動中、周りを気にしていたんだけど、それらしい人はいなくて……」


 ノルンは膝を抱えて下を向く。確かにあの時、それらしい人はいなかった。いや、そもそも城内には、あの部屋以外で人を見かけていない。


「司祭様って、君たちが来たときにホッセル車に乗ってた人?私兵に連れられた?」


「はい。その私兵がエクリプスってわかって……」


「エクリプス!?あの過激派組織で有名な陽陰に潜む者(エクリプス)!?」


 タルテが驚きのあまり、背中をのけぞらせ、大声を上げる。タルテはあの場にいなかったから、知らないのも当然か。


「ああ。王様となんでつながっていたかわからなかったけどな」


「そんな過激派組織と同じ城で過ごしていたなんて……。今思うとゾッとするな」


 タルテは両手で肩を抱くと、ブルっとひとつ震える。


「でも司祭様だったら、その日中に帰っていったよ。また南東門を通ったけど、今思えば、教皇倪下が来る予定だったから、正面から帰れなかったんだな」


 うんうん、と頷くタルテを、ノルンが目を見開いて凝視する。


「……本当ですか?帰られたんですか……?」


 ノルンは気持ちが急いているのか、地面に手をつき、身を乗り出すようにタルテに寄った。


「うん、本当だよ。僕、見送ったし」


 その言葉にノルンは深く長くため息を吐く。目は伏せているが、その顔には安堵の表情を浮かべていた。本当に良かった。


「でも、そうか。それなら子爵が殺されたのは、あいつらの仕業だったんだな」


「殺された?」


 タルテの口から不穏な言葉が出てきて、思わず繰り返す。アニーさんも気になったのか、ピクッと反応した。


「うん、君たちが乗り込んでくる、5日くらい前かな。テオラン子爵が殺されたんだ。それも城内でね。あの時は、なんでわざわざ城内で狙ったんだろう?って思ったけど、あいつらならやりそうだな」


「テオラン子爵っていうのは、どういう人なんだ?」


 タルテが、うんうん、と頷くのを見て思うが、5日前となると、殺されたのが無関係とは思えないが……。


「バラシー・テオラン子爵。彼は、私たちの協力者だった人よ。……そう、彼も殺されていたのね」


 アニーさんはそう呟きながら、顔を伏せる。


「じゃあ殺された理由は……」


「ええ。おそらく私たちとの関係がバレてしまったのね」


 アニーさんが強く目を閉じ、口をキュッと結んでいる。哀悼の意なのか、また巻き込んでしまったと思ったのかはわからないが。


「もしかして作戦は、その方がバラしたのでしょうか……?」


 ノルンが呟く。それにタルテが手を合わせて反応する。


「そっか、それだ!裏切り者ってバレて、殺されたんだ」


「いえ、それはないと思うわ。彼は誠実な方だったから、叔父上の施策にも不満を感じていたそうよ。それにイージスが長年接して選んだ方でもあるから」


「え、じゃあそのイージスって人も怪しい……」


「ありえないわ」


 アニーさんがキッと鋭く睨むと、タルテはその圧に押されたのか、すぐ口を噤む。


 まあ俺もアニーさんの思いに賛成だ。お城であれだけアニーさんの為に身体張ったんだ。そんなイージスさんが企むわけがない。


「それにバラしたなら、逆に生きてそうだけどな。大金を受け取って、逃げてそうだ」


 そうでなければ、わざわざ密告をする理由もない。大金でなくとも、命の保証は見返りに要求しそうだ。


「なるほど。それもそうか」


 俺の意見にタルテはあっさりと納得する。


「タルテはもう少し、色々と考えた方がいいと思うわ」


 さっきのイージスさんの発言もあってなのだろう。睨むとまでは行かないものの、目を細めてタルテに向かって言う。


「僕、考えるの苦手なんだよね。それに、大体のことは何とかなるもんだし」


 しかしタルテはアニーさんの表情に気付いていないのか、軽い反応を返す。


「……そう」


 アニーさんも深く追求するつもりもないのか、素っ気なく返す。その表情には、苛立ちと落胆が浮かんでいるように見えた。ノルンもそれを感じ取ったのか、俺と視線が合うと、わずかに首を横に振った。


 少しの沈黙の中、風がみんなの間に入り込む。風が原因かわからないが、火の中の薪が折れ、カタンと音を鳴らす。


 その音に反応してか、アニーさんはすっと立ち上がった。


「先に寝かせて貰うわね」


 それだけ言うとアニーさんはスタスタと歩き始めた。ノルンも急いで立ち上がると、アニーさんの後を追って行った。


「……みんな、眠くなったのかな?」


 去っていく二人の姿を見ながら、タルテが呑気に言う。その言葉に、俺は盛大にため息をついてみせた。タルテが不思議そうにこちらを見ていたが、説明するのも面倒だったので、流すことにした。


 これから先、大丈夫か不安になりつつも、イージスさんにアニーさんを頼まれた以上、俺がしっかりしないとだな、と改めて心に誓った。

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