第50話:祈る望みを持って……
暗い通路の先に日の光が見える。その光を見ると自然と歩く足が早くなる。そして通路を抜けると、眩しさに思わず手を掲げ、光を遮る。
「……炭鉱を抜けた」
日は既に屋根より上にあり、朝日が炭鉱の村へと降り注いでいた。ただし砂賊たちもいなくなり、もぬけとなった家々から音はなく、ただ鳥のさえずりだけが響く。
「拠点に急ぎましょう。来たときに使った砂上船があるから、それで戻りましょう」
アニーさんが一歩前に出ると先頭を歩き出す。その後を追うように、俺たちも歩き出す。
静かな村を早足で進むと、すぐに村の入口が見えてきた。村を出てすぐ左に曲がれば、来るときに使った砂上船があるはずだ。
と、入口に誰かが座り込んでいるのが見える。警戒のためアニーさんの前に出て静止をする。
「……!アーキンスさんっ!」
アニーさんはそう叫ぶと、入口に向かって走り出す。アーキンスさん――拠点にいた神父さんだ。
アニーさんを追うように俺たちも入口に向かう。
「アーキンスさん、しっかりして!どうしてこんなところに……!」
ぐったりとしているアーキンスさんを、アニーさんが肩を揺らす。身なりを見ると、服全体は砂で茶色く汚れているが、一部、服の端が黒くなり、焼けたような痕が見える。
「……んん。……おぉ、アニー様。ご無事でしたか」
アーキンスさんは目をゆっくりと開ける。アニーさんはホッとしたのか、小さく息を吐く。
「それはこちらのセリフです、アーキンスさん。どうしてこちらに?拠点で待っているはずでは?」
「……大変申し上げにくいのですが、拠点は襲撃をされました」
アーキンスさんの言葉に息を呑む。
「アニー様やルシウス様が出立し、夜を迎えたころ、彼らはやってきました。戦える者の多くがいない拠点では、為すすべもなく、家も物資も焼かれてしまいました」
「そんな……拠点さえもバレていたってこと……?」
アーキンスさんの言葉に、アニーさんが呟く。
「……っ!それじゃあ、みんなは?拠点にいたみんなはどうしたの……!?」
「安心してください。みな無事です。幸い、フリッツさんが襲撃に気付き、迅速な避難で誰も死なずにすみました」
アニーさんはホッと胸をなでおろす。
「アーキンスさんはそれを伝えにここに?」
「ええ。拠点襲撃されたと言うことは、アニーさんたちも危ない、とフリッツさんから言われ、私はこちらに足を運んだ次第です。夜通し歩きましたので、少々疲れて寝てしまいましたが」
面目ない、と言うように、アーキンスさんが疲れた顔で無理矢理笑って見せる。それはアーキンスさんなりの冗談なのだろう。襲撃をされたのだ。周囲の避難や自分も逃げるために必死だったはずだ。それにアニーさんも気づいたのだろう。首を横に振って否定する。
「そんなことありませんっ……!よく生きてくださいましたっ……!」
アニーさんはアーキンスさんの手を握る。
「それで、そのフリッツさんはどこに?」
周囲を見渡すが、フリッツさんの姿は当然、見えない。まあいるなら、ここでアーキンスさんは倒れていないだろうけど。
「彼は森の拠点に、他の方々を連れて行かれました。ルシウス様たちにも何かあるかもしれない、と。あちらであれば物資も多少ありますから。私もそちらに向かおうかと」
俺が森で倒れたときに休んでいた拠点か。確かにあそこなら大丈夫だな。
「そうね。あそこなら何日かは持ちこたえられるでしょう。私たちもそこに行きましょう」
アニーさんは立ち上がり、座り込んでいたアーキンスさんに手を貸す。アーキンスさんもゆっくりと立ち上がる。
「いや、ダメじゃない?」
それまで静かに聞いていたタルテが急に声を出す。
「どういうことだよ?」
「いや、だって、拠点も襲撃されちゃったんでしょ?その人たちはまだいいかもだけど、僕たちはお尋ね者だよ。そこにいたら、また拠点ごと潰されちゃうよ」
「それは、確かに……」
「その方の言うとおりです。フリッツさんも同じく、アニー様は来ないほうがよいとおっしゃってました」
タルテの言葉にアーキンスさんも同意する。
「となると……どうする?どこに逃げればいいんだよ?」
「あ、エデニア教国に行くのは?あそこなら教皇倪下もいらっしゃるし。匿ってくれるかもよ」
「……いえ、難しいわね」
タルテの活き活きとした提案を、アニーさんが即座に却下する。
「エデニア教国に行くには、王都の真横を通らないといけないわ。王都周辺はまだ見つかる可能性もあるから……。遠回りする方法もあるかもだけど、それでは国境を封鎖されるのが先ね」
アニーさんの言葉に反論ができず、タルテはがっくりする。
「では、行くならネイツァーレ公国でしょうか……?」
ネイツァーレ公国……。イージスさんやトライクさんの家族がいる国だ。確か海を挟んだ隣の国だったと思うが……。
「それこそどうやって行くんだ?海の向こうなら船だろうけど、船なんてないぜ」
「……ネイツァーレ行きの船に潜り込むしかないわね。そうなると、港を封鎖される前に行かないと、ネイツァーレ公国の船も出なくなってしまうわ」
そうだ。手遅れになれば、この国から抜け出すこともできない。
「……アニー様」
アーキンスさんがアニーさんの両手を持ち、強く握る。
「まだ希望を捨ててはなりません。貴方さえいれば、希望が潰えることはありません。どうか、どうかこの国を救ってください」
アーキンスさんは何度も何度もアニーさんに頭を下げる。
「ありがとうございます、アーキンスさん。そう……ですね。ええ必ず、また戻ってきます」
アニーさんがそう答えると、アーキンスさんが笑顔を見せる。アニーさんも彼に笑顔を見せてはいるが、一瞬、曇った顔をしたのを見てしまった。
「それでは行きましょう。まずは港町アンセオに向かい、ネイツァーレ公国行きの船を探しましょう」
アニーさんがこちらを振り向き、みんなの顔を見て頷く。その顔付きからは、曇った表情は見えない。
そして村の入口を抜け、砂漠へと足を運ぶ。目指すはネイツァーレ公国。多くの想いを背負い、不安と疲れの入り混じった足を、前へと踏み出した。
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