第4話:異常な森の中で
グラッツさんを先頭に、三角形を維持するように、森の中を静かに3人で歩く。まだ昼前のため森は明るく、木の間から暖かい日差しを届けてくれる。
だが、いつもと異なり、大きな違和感が1つだけある。
「静かすぎる…」
トルクが呟く。どうやら同じことを思っていたようだ。
「鳥の鳴く声も聞こえないな」
「うん。いつもならよく見かける、ラビッツやボアンも見当たらない」
ラビッツは耳が長く、ぴょんぴょん跳ねている臆病な小動物。ボアンは興奮するとまっすぐ突進してくるが、普段はおとなしく木の根本のキノコを探して歩く動物だ。
どちらも森に入ればすぐ見かけるが、今日はまだ1度も見ていない。
森の中は明るいのに夜のように静かすぎるこの差は、いつもとは違った不気味さを感じる。
「巨大ベアのせいだろう。小さな鳥や小動物は臆病だからな。どこかに逃げているのだろう」
グラッツさんが二人の会話を聞きながら、周囲を見渡す。
しばらく歩くとグラッツさんが止まり、腕で静止の合図をする。
そして何も話さず、耳に手を当て、周囲の音を拾っている。
グラッツさんを真似るように、周囲に耳を傾ける。
ガサガサ…
ドーン…
少し遠くだろうか、何かが倒れる音がする。
3人は目を合わせると頷き合い、音のする方に静かに移動を始める。
近くなるにつれ、音は徐々に大きくなり、また地響きのように地面が揺れる。
ほどなくして、少し開けたところが見える。
3人各々、木に背を当て、静かに開けた箇所に視線を向ける。
「!!」
視線の先には、真っ赤な毛並みの巨躯の魔獣が、体当たりで木をなぎ倒していた。立ち上がった姿は確かに3mはあり、身体を支える足や腕は、子供並みの太さもある。
当然太いだけあって先にある爪は、遠くから見ても、長く鋭さを感じられる。
「ジャイアントベア、、、と言いたいが、確かにあの巨大さはジャイアントベアではないな」
グラッツさんの顔がこわばり、顔の横を汗が垂れていく。
「な、なな、何してるの…」
トルクが木々をなぎ倒す様子を見て、声を震わせながら言う。
無理もないだろう。巨体が木々をなぎ倒していくこの光景は、現実感が無く、ただただ畏怖を感じる。
「わからんが、エサを探しているのかもな。小動物はもちろん、何かしらの実を食べたようだし」
グラッツさんの言うとおり、開けた場所のあちこちに、食べ漁ったと思われる食べ物が散乱していた。
「ともかく、あいつを討伐するぞ」
グラッツさんの声に3人は頷く。
「俺が盾でヤツを引きつけ、あいつの攻撃を何とかガードする。そしたらお前たちであいつに攻撃を加えろ。二人とも、魔導石は持ってきているか?」
普段は持たないため首を振るが、逆にトルクは頷く。
「はい、少しだけですか」
トルクが持っていた魔導石を見せる。
「十分だ。よし。フェルンは前に出て、トルクはフェルンの援護で構わないから、魔導石を使え」
グラッツさんは背中から盾を外し左手に持ち、右手で長剣を鞘から出す。俺も鞘から剣を抜き、トルクも同じように剣を抜く。
「まずは俺から出る。隙を見て攻撃に加われ」
その言葉が終わると同時に、グラッツさんは飛び出し、足元に落ちている手頃な石を拾うと、巨大ベアに投げつける。
巨大ベアはグラッツさんに目を向けると、
グオオオオオオオオオオオォォォォ…!!!!!
大きな雄叫びを上げて、グラッツさん目掛けて走り出す。
グラッツさんは盾を前面に出し巨大ベアの攻撃を受け止めようとしたが、盾に当たる直前で横に飛び出し、攻撃を避ける。
巨大ベアは当てるつもりだったのか、空振り、転倒する。
「まだだ!」
出ようとした俺たちをグラッツさんが静止する。巨大ベアはすぐに起き上がると、グラッツさんに向き直り、左手を高々と上げて振り下ろした。
ガンっ!と鈍い音を鳴らし、グラッツさんが今度は盾で受け止めた。
「今だ!」
その声より前に飛び出し、巨大ベアの左手に向かって剣を振り下ろす。しかし毛皮と分厚い肉が邪魔なのか、まるで岩を剣で切ろうとしたかのような感触だけが残った。
すぐさま距離を取ると同時に、何事も無かったように、巨大ベアが左手を払う。
「二人とも離れて!」
トルクの声が響き、さらに距離を取る。グラッツさんも巨大ベアの左手から解放されたため、同じく距離を離す。
「撃ち抜け、穿ち燃え盛る赫き弾!!」
トルクが両手を前に掲げて叫ぶと、頭大くらいの炎の塊が現れ、勢いよく巨大ベアに向かって飛んでいく。炎の塊は頭部に命中し、巨大ベアを怯ませる。
それを確認し巨大ベアに飛びかかる。先の感触から、皮膚を狙っては傷がつかないため、首元を狙い斬りつけた。だが巨大ベアが腕を振り回すように薙ぎ払ったため、浅い傷しかつけることができなかった。
思った以上にダメージを与えられず、つい舌打ちが漏れる。
「フェルン、焦るな!まずはチャンスを作ればいい!」
トルクの攻撃に怒ったのか、
グオオオオオオオオオオオォォォォ…!!!!!
再度大きな雄叫びを上げ、狂ったように両手を振り回し、巨躯を大きく動かす。倒れた木や地面に大きな爪痕や踏みつけた足跡が残る。
大振りを避けるため左右に動くが、鼻先を巨木のような腕が通り、服に爪痕が残り、腕を爪がかすめ、鮮血が舞う。
かすり傷程度だが、激しい動きで息が上がる。
グラッツさんも避けつつ、盾でガードもするが、巨大ベアの猛攻に耐えるのが精一杯だ。
「これじゃあ、全然攻撃できない…!」
巨大ベアの周りを動く俺たちがいるためか、トルクも魔導石を使うタイミング掴めないでいた。
このままだと、こちらが体力切れになってしまう…!
と考えた矢先、周囲が散漫になり、背中に倒れた木々の硬さを感じた。
「しまった…!」
野生の本能なのか、そこを見逃さず、巨大ベアが大きな口を開けて両手を振り上げる。
グラッツさんが巨大ベアの向こうから、叫びながら走ってくるのが見える。
巨大ベアの太い腕がゆっくりと自分に下ろされてくるのが見える。咄嗟に持っていた剣を構えが、突如、巨大ベアの口が燃え上がる。
「フェルン、今のうちに…!」
トルクの声に気付き、その場から離れる。トルクが放ったフレイム・バレットが命中し、巨大ベアが悶絶する。
「ありがとう!助かった!」
トルクに礼を言いつつ、フェルンはある作戦を思いつき、グラッツさんに近寄る。
「グラッツさん、お願いが。俺があいつの口を開かせるので、そしたらあいつを足止めして欲しいです」
「開かせるって…」
グラッツさんの視線を巨大ベアへと誘導する。巨大ベアは口元を押さえ、まだ悶絶していた。
「なるほど、そういう事か」
グラッツさんは盾を構え、巨大ベアに突っ込んでいく。
「トルク!俺が合図をするから、いつでもフレイム・バレットを撃てるようにしといてくれ!」
トルクはよくわかってなさそうだったが、何度か頷く。
悶絶から解放された巨大ベアは、痛みがあるのか動きが少し散漫となっていた。散漫となった動きは捉えやすいのか、グラッツさんは難なくガードをしていた。
ある程度受けていると、グラッツさんが距離を取り、追いかけるように巨大ベアが吠えながら突っ込む。
ガンっ!と鈍い音を響かせるが、グラッツさんは受け止めると同時にフェルンに声をかける。
「今だ!」
落ちていた太く丈夫そうな木を走りながら掴むと、そのまま巨大ベアの口の奥に差し込んだ。巨大ベアは突然の異物に立ち上がり、暴れる巨大ベアをの攻撃を盾でガードする。
「トルク!あいつの口めがけてフレイム・バレットを撃つんだ!」
「ええぇ!」
フェルンの言葉にトルクが照準を合わせようとするが、巨大ベアが暴れるため定まらないのか、なかなか撃たない。
「こんなに動いてたら、当てられないよ…!」
追うようにトルクの腕が動く。
「この、おとなしくしやがれ…!」
グラッツさんが盾を巨大ベアにぶつけ、巨大ベアの動きが止まる。
「いま!!穿ち燃え盛る赫き弾!」
放たれたフレイム・バレットは巨大ベアに向かって飛ぶが、グラッツさんの勢いが強かったのか、巨大ベアが後ろに倒れ込む。
「まずい…!」
そう思った時には駆け出し、巨大ベアの上に飛び出す。
剣を大きく振りかぶり、飛んでくるフレイム・バレットに向かって剣を振る。
「んぐぐぐ…!」
剣とフレイム・バレットが衝突すると、剣がミシミシと悲鳴をあげる。勢いに弾き飛ばされそうになるが、歯を食いしばりながら、転倒し大口を開けた巨大ベアを確認する。
「ここだあぁぁ!」
大口めがけて剣を振り抜く。キンッ!と甲高い音が鳴ると同時に、フレイム・バレットは巨大ベアに向かって起動が変わる。吸い込まれるかのように、炎の塊は巨大ベアの大口に入り、次の瞬間には、大きな爆発音を轟かした。
「うお…!」
体制を崩しながらもなんとか着陸する。
巨大ベアの方を見ると、口から煙を上げ、白目を向いている。そしてそのまま、後方へとゆっくり倒れていった。




