第46話:激闘に潜む凶刃
トライクさんが走り出し、引かれた腕の方へと突っ込む。ガン!と岩にでもぶつかったのかと思うような大きな音が、広間に響く。
「フェルンくん……!今のうちにイージスを……!」
トライクさんは双剣を交差させて防ぐが、その力は凄まじいようで、ジリジリと後ろに下がっている。早く移動させた方が良さそうだ。
「イージスさん、こっちに!」
イージスさんに肩を貸し、大急ぎで移動する。ノルンのおかげで少し回復できたとはいえ、イージスさんの足どりはふらついていた。
「フェルン、俺よりもトライクの助けに行ってやってくれ……!」
「トライクさんなら、大丈夫です!バルカスを相手に翻弄してます!」
トライクさんの方を見ると、バルカスの攻撃を避けつつも、注意を引きつけるように攻撃を繰り返している。
「違う、そうじゃない!あいつではバルカスを倒せない。優しすぎるあいつは、どれだけの悪党でも、『人』であるなら、殺せないんだ」
イージスさんの言葉が信じられず、息を呑む。モヤンド炭鉱でゴブリン相手に無双していたトライクさんが?
「あいつは誰よりも優しい。それはいいとこでもあるんだが、同時に弱点でもある。だから、あいつを助けてやってくれ。今はフェルンしか頼れるやつがいないんだ」
イージスさんが真っ直ぐにこちらを見る。その視線に目を逸らすことなく、俺は頷き返した。
「わかりました。やってみます」
俺の言葉にイージスさんが頷く。イージスさんと同じように合わせられるかわからないが、動けないイージスさんの代わりをするしかない。
イージスさんを下ろし、一緒についてきていたノルンとアニーさんに託すと、トライクさんの元へと向かう。
「トライクさん!」
「フェルンくん、合わせて!」
注意を引くだけだったトライクさんがバルカスに向かって走り出す。そして畳み掛けるように双剣を振るう。トライクさんの邪魔にならないように、俺も隙をみてバルカスに斬り込む。
バルカスも黙っていない。腕を振り回そうと引くのを見るや、体当たりや斬り込みで体勢を崩す。仮に崩せなくても、単調な動きであれば避けることも容易だ。
と、バルカスが口を開く。マズイ……!あの攻撃だ!
トライクさんと共にバルカスから離れる。そして次の瞬間、バルカスから火球が飛び出す。床に着弾し爆発が起こる。しかしすぐにバルカスの口元が光り、次の火球が飛び出す。
「ちっ……!連続かよ!」
無差別に次から次へとバルカスの口から火球が飛び出す。床は焼け、辺りに焦げ臭い臭いが漂う。
「これじゃあ近付けない……!」
バルカスの炎の狙いは無差別で、床や壁はもちろん、周囲の兵士にも飛び火している。
「こらー!バルカス!こっちに飛ばすんじゃないっ!」
近くに飛んできたのか、モルルド王が叫ぶ。もっとも、バルカスにその声が届いているか怪しそうだが。
「動きを止めるわ!渦巻き流るる捕縛の糸!!」
アニーさんがバルカスに向けて詠唱する。水の縄がバルカス目掛けて伸びるが、運悪く、バルカスの火球が当たってしまう。ウォーター・ロックは瞬時に蒸発し、当たった火球は方向を変え、こちらに飛んできた
「ちょっ……!」
横へと飛ぶと、火球はすぐ後ろを通過し、周囲の兵士たちに飛んでいく。兵士たちも焦って避けるが、何人かに当たったのだろう。爆発を起こし、兵士たちの背後にあった入口の扉が吹っ飛ぶ。
「フェルンさん!大丈夫ですかっ!」
アニーさんが申し訳なさそうに叫ぶ。俺は無事であることを、手を挙げて答える。
そしてふと思う。今、火球が方向転換を……いや、ウォーター・ロックが当たって……。!!……もしかしたら!
「アニーさん、ウォーター・ロックを!ウォーター・ロックをバルカスに向かって撃ってくださいっ!」
それだけ言うと、バルカスに向かって走り出す。アニーさんから疑問の声が聞こえるが、バルカスがこちらに気付いて口を開けている。説明の暇はない。
「アニーさん!」
「わ、わかったわ!渦巻き流るる捕縛の糸!!」
アニーさんから水の縄がバルカスに伸びる。それと同時にバルカスの火球が放たれ、こちらに飛んでくるのが見えた。
勝負は一瞬。伸びてきたウォーター・ロックをバルカスに届く直前、剣をその軌道に滑り込ませる。そして剣に水の縄を巻つかせると、正面に来た火球に思いっきりぶつける。
「うおおおおおお!!」
渾身の力を振り絞り、勢いのある火球を押し出す。剣にぶつかった火球は、爆発することなく、バルカスの方へと戻る。そして見事にバルカスに命中し、爆発を起こす。
「――成功っ!」
「まだ!仕留めるよ!」
トライクさんの声に、喜んだのも束の間、すぐにバルカスに向かって走り出す。バルカスも火球を喰らい、動きが止まる。今のうちに倒さなければ!
トライクさんの目つきが鋭く、険しいものに変わる。そして双剣を構えると、迷うことなくバルカスに向かって駆け出し、その勢いのまま剣を突き出し――
「おいっ!そいつは人間だぞ!」
「……っ!」
どこからか響いたその声に、トライクさんの動きがピタッと止まる。険しかった目は開き、その顔には戸惑いが浮かんでいた。しかしそれを待っていたかのように、バルカスが急に動き出すと、大きく口を開け、至近距離で火球が放たれる。
トライクさんは避ける間もなく直撃し、爆発が巻き起こると、一瞬のうちに煙に包まれた。
今の声はなんだ!?どこから聞こえてきたんだ!?
「凍て突き貫く白き閃槍!!」
俺は動きを止め、周囲を見回そうとしたが、ノルンの詠唱が響く。アイシクル・ランスはノルンからバルカスに向かって飛んでいた。どうやらバルカスが俺に狙いを定めていたようで、口を開けたまま凍っている。
そうだ、今はバルカスに集中しなければ……!
バルカスの喉元に狙いを定め、剣を引く。駆け出した勢いそのままに、バルカスの開いた口に向かって剣を突き出す。
「これで……終わりだっ!!」
バルカスの口の中にある、硬い何かを砕く感触を感じつつ、刃を奥深くへと突き立てた。
ウガガガガ……ガアアアアアァァァァァ……!!
バルカスは上を向き叫び声を一通り上げると、ゆっくりとそのまま後ろへと倒れ込む。不気味に赤く光っていた瞳は光を徐々に失い、最後には通常の目へと戻る。もっとも、そこに生気は感じられないが。
「……勝った」
「……な、ななな、なんとぉ!!」
モルルド王が椅子から立ち上がり、驚愕の表情を見せながら地団駄を踏む。
「まさかまさかまさかっ!わっしの最高傑作じゃったのにっ!」
「……これで終わりよ、叔父様」
アニーさんがモルルド王に向き直ると、再度、剣先を向ける。
「――そうだな。これで終わりだ」
唐突に聞こえたその声は、モルルド王の言葉ではなかった。聞こえた先に視線を向けると、アニーさんの後ろにいつの間にかチャオが立っていた。
そして何が起こったのか理解する前に、肉を突き刺す鈍い音とともに、赤い血の飛沫が俺の視界を染めた。




