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絶望と希望の英雄譚  作者: いなり
第二章:王国編

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第45話:『王』という名の持つ意味

 アニーさんの声に、心の中でもちろん、と頷くと、切っ先をバルカスに向けて構える。そしてバルカス目掛けて駆け出した。


 ウガアアアアアアァァァァァァァァ……!!!


 避けられて腹が立ったのか、大口を開けて吠える。そしてこちらが接近するのに合わせるかのように、両腕を上げる。


「させない……!」


 右からトライクさん、左からはイージスさんが走り込み俺を追い越すと、バルカスの両足を斬りつける。バルカスが体勢を崩すのに合わせ、正面から斬りつける……つもりだったが、バルカスの赤い目と視線が合い、瞬時に横っ飛びへと切り替える。


 先程よりも大きなドゴオォンッ!!と大きな音が響き渡り、地面の破片が皮膚に突き刺さる。両腕による威力のためか、衝撃波で身体の体勢を失い、地面に転がり込む。


「……っ!くそっ!何なんだよっ!」


「相当な頑丈さだね。転倒するくらいには切りつけたつもりだけど、まるで岩を斬ったみたいだったよ」


 隣にいつの間にかトライクさんが立っていた。同じように衝撃波を受けたのか、皮膚には細かい傷がついていた。


「それでビクともしなかったんですね……。なら関節を狙うしかないですね」


 ナイトアンタと戦った時を思い出す。硬い外殻では剣が弾かれたので、狙うなら関節しかない。


「そうしたいのはやまやまだけど……あの筋肉」


 トライクさんに言われてバルカスの関節、肘や膝を見る。そこは筋肉と筋肉の境ではあるが、関節ギリギリまで筋肉に覆われていた。


「あの動きの中、あの関節を狙うのは厳しい。……あんな筋肉じゃ曲げ辛いだろうに」


「確かに。振り下ろすだけの単調な動きですもんね」


「そうなると……うん。イージスも考えは同じみたいだね」


 トライクさんの視線の先で、イージスさんが頷く。それを見ていたトライクさんも頷く。


「行くよ、フェルンくん。彼の注意をこちらに向けるよ」


 そう言うとトライクさんが駆け出す。え、どういうこと?と思ったが、駆け出したトライクさんの後を追うように俺も走り出す。


 トライクさんの動きに合わせてか、反対側にいたイージスさんも走り出す。イージスさんがバルカスの横を走ると同時に、トライクさんが反対側からバルカスに斬りつける。当然、さっきと同様に傷を与えることはないが、バルカスの注意がトライクさんの方へと向く。


「フェルンくん、少しお願い!」


 トライクさんがそう叫ぶと後ろに飛ぶので、入れ替わりにバルカスの前に立つ。


 バルカスの前に立った瞬間、唐突に、背筋に悪寒が通るのがわかった。正面に立つバルカスはこちらを睨むように真っ赤な目を向ける。呼吸だろうか、口からはフシューっと音が出ており、人が呼吸をするような音をしていなかった。離れて見ていたからわからなかったが、目の前に立って始めて、その威圧を肌で感じる。


 そして威圧のせいか、バルカスが両手を上げるのを、ただ漠然と見ていた。それが振り下ろされることも理解していたが、身体が思うように動かない。


「渦巻き流るる捕縛の糸(ウォーター・ロック)!!」


「凍て突き貫く白き閃槍(アイシクル・ランス)!!」


 後方からアニーさんとノルンの詠唱が聞こえ、水の糸が右腕に絡みつき、左腕に氷槍が当たり凍らせる。


「フェルン!」


 ノルンの声にハッとする。そして身体が動くのを確認するのを感じると、すぐさま前へと突っ込む。


「水の少ない場所だから、止まるのは一瞬よっ!」


 アニーさんの叫び声のとおり、捕縛した糸はすぐに消え、凍った左腕もすぐに表面の氷が崩れ落ちる。たが、その一瞬で十分だった。


 バルカスの身体に全身で体当たりをする。そしてわずかに後ろに下がったところを斬りつける。傷をつけることは叶わないが、不意をつけたのかバルカスがたじろぐ。そして急に強い力で後ろに引かれる。


「下がって!」


 トライクさんが入れ替わるようにバルカスの懐に入ると、右手のひらでバルカスの顎を打ち付ける。顎を勢いよく叩かれた勢いで、バルカスが上を向く。


「膨れ爆ぜる清冽な衝撃(エア・ボム)!!」


 トライクさんの詠唱が聞こえ、空気が弾ける音に合わせて、イージスさんが上空に飛び上がっていた。


「はああああぁぁぁぁぁ!!」


 イージスさんは剣先を下に向け、落下の力を利用して降りてくる。そうか、外が硬いなら内側、口の中か!


 しかし、上を向いたバルカスが急に口を開ける。まるで剣を飲み込もうとしているように。だが、こちらの想定とは異なり、口元が明るくなり始めた。


 そして次の瞬間、炎の塊がバルカスの口から放たれ、空中にいたイージスさんに直撃する。


「イージスさん!!」


 爆発音が響き、バルカスの上空で煙が立ち昇る。そして、その煙の中からイージスさんが飛び出す。だが着地に失敗したのか、床に転がる。アニーさんとノルンが駆け寄り、ノルンが治癒のための魔導石を取り出す。俺もトライクさんとともに駆け寄る。


「かっかっか!凄いじゃろ?凄いじゃろう!?そいつの口の中に魔導石を組み込んでみたんじゃっ!そしたら口から火を噴くようになったんじゃっ!」


 モルルド王が椅子の上で楽しげに語る。


「……人をなんだと思っているの!!」


 イージスさんのもとに駆け寄っていたアニーさんが、モルルド王に向かって叫ぶ。その声色には怒りが込められていた。


「何を言っておる。わっしは王じゃ。王なんだからわっしのものに何をしようと構わぬじゃろ?」


「もの、ですって」


「そうじゃ。わっしは王なんじゃから、民も騎士もこの国も全部わしのもんじゃ。だから何をしたって許されるのじゃ」


 かっかっか!と、モルルド王は笑い出す。あまりに勢いがあったのか、椅子から転げ落ちそうになっている。


「ふざけないで!民は王の所有物なんかではないわ!彼らが汗を流しながらも、大地を耕し、新たなものを生み出すことで、国が豊かになっていく。そうして初めて、私たち王族は生活することができるの。だからこそ私たち王族は、民を護り導くことで、誰もが平穏に暮らせる国を作る義務があるのよ。あなたのように民を私物化し、ただ搾取するだけの人に、王を名乗る資格なんてないわ!」


「ふん、そりゃ価値観の違いじゃの。わっしがおるから民共はこの国にいられるんじゃ。だから民が作ったものは全部わっしのものじゃ!嫌ならこの王都からも出て行けばいいんじゃ。……おっと、それでも出ていかないってことは、わっしの統治は間違っておらんってことじゃの。かっかっか」


 モルルド王の言葉に怒りが込み上げてくる。出都税のせいで、あの老人は王都から出ることも叶わず、なんとか抜け出しても、砂賊に落ちた人もいる。いや、あいつはわかって言っているんだ。そもそも王都から出そうなんて、考えてもいないんだ。


 アニーさんもそれがわかっているのか、両の拳を強く握りしめている。


「ほれほれ、そんな話をしている暇なんぞ無いぞ。バルカスのやつは気が短いからの」


 モルルド王がにやけた顔を見せ、背後に視線をやる。ハッと気付いて振り向くと、バルカスがその太い腕を後ろに引き、今にも攻撃を繰り出そうとしていた。

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