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絶望と希望の英雄譚  作者: いなり
第二章:王国編

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第44話:王女の帰還

「お、やっと来たか〜!」


 勢いよく開かれた扉の先で、聞こえてきた第一声がそれだった。声の主は大広間の小階段を登った先、豪華な椅子に腰掛ける初老の男性だった。


 小階段の手前には、目の辺りだけを隠す仮面を被った人たちが、豪華な食事の乗った机を囲んでいた。おそらく貴族たちだろう。


 さらに階段を手前に降りた場所には、武装した兵士たちが並び、ニヤニヤとこちらを見ていた。そしてその手前には、背丈を超えるほどの大きな金属製の箱が置いてあった。中で何かが暴れているのか、時折、ガンっ!ガンっ!と、箱を殴る音が響く。


「くそ……!見世物かよ……!」


 大きな箱の中身は、おそらく魔獣だろう。罠にかかった俺たちを、魔獣と戦わせ、見世物として用意したのだろう。宴会とはよく言ったものだ。


「どこの誰だか知らぬが、わっしの国で叛乱なんぞ、つまらんことを考えてくれるの。ほれ、せめて見世物として楽しませてくれるよう、大いに踊ってくれよ」


 叔父王は椅子の上で頬杖をつき、足を組む。完全に油断している姿に腹を立てたくなるが……ふと思う。誰だか知らない?アニーさんにも気付いていないのか?


 そう思っていたところで、イージスさんとトライクさんが、背筋を伸ばし、示し合わせたかのように真っ直ぐ前を見つめたまま、一歩前に出る。そして、コツ、コツと靴を踏み鳴らし、その間をアニーさんが凛とした姿で通る。


 そして前に出ると両手を広げ、まるでそこに煌めくドレスでもあるかのようにつまんで見せ、片足を斜め後ろに引く。そして背筋は伸ばしたまま、軽く膝を曲げ、深くお辞儀をする。その気品に満ちた優雅なお辞儀に、見るものすべてが目を奪われた。


「ご無沙汰をしております、モルルド王。いえ、叔父上。アルベルト・リ・レジャスルトがひとり娘。アニエス・リ・レジャスルトがただいま戻りました。ここまで、よくも我が父の愛した国で、私欲を満たし、民を蔑ろにしてくれましたね。これからは私が国を、民を導きますので、叔父上は何も気にすることなく、退場いただければと存じます」


 その発言は、一国の王に向ける言葉としては、あまりにも不遜で、あまりにも不敬な言葉だった。けれども誰一人それを咎める者はいない。それもそのはず。先の所作と発言から、誰もが確信しているのだろう。


 彼女は、本物のアニエス・リ・レジャスルトだと。


「……格好いい」


 隣に立っていたノルンが呟く。わかる。俺もアニーさんのその姿と言葉に、同じことを思っていた。


 大広間の空気はアニーさんの言葉で一変した。それまで嫌味のある笑みを浮かべていた貴族たちは、先程までの余裕を消し、ざわつき始めている。そしてモルルド王も目を見開き、立ち上がっていた。


「ア、アア、アニエスなのか……!?」


「ええ。先程も言いましたよ?」


 そしてアニーさんは腰に差した剣を抜く。それに合わせて、イージスさんとトライクさんも剣を抜いたため、俺も剣を抜く。


 アニーさんは剣先をモルルド王に向ける。


「これまでの度重なる蛮行も、今日で終わりですっ!覚悟しなさいっ!!」


 アニーさんの気迫の叫びに、モルルド王が一歩引く。貴族たちからも、本物のなの?と声が聞こえ始め、このままではマズいのでは?と焦る声も聞こえる。


 モルルド王は、現実を拒絶するかのように、激しく頭を左右に振り回す。


「……くっ!アニエスは死んだっ!死んだのじゃっ!!わっしの姪の名を語る不届き者めっ!退治してくれるわっ!」


 そして貴族たちの疑いの声をかき消すかの様にそう叫ぶと、モルルド王が急に右手を上げる。モルルド王の合図に、前にいた兵士たちが金属製の大きな箱を開けると、急ぎ足で俺たちから距離を取り、遠巻きに周囲を囲む。


 開いた箱の中からは、フシューフシューと何かが息を吐く音が聞こえる。そしてゆっくりと、重い足音を響かせて何かが歩いてくる。陰から出てきたその姿は、上半身を前に倒しており、顔ははっきりしないが、その大きさはどう見ても人ではない。だが、どこかで見たような気もする。


「……どういうことだ?何故あいつが?」


 イージスさんが何かに気付いたのか、驚きの声を上げる。


「何かわかるの?」


「……バルカスだ」


 イージスさんの言葉に反応したかのように、バルカスは顔を上げると、大きく口を開いて叫んだ。


 ウガアアアアアアァァァァァァァ……!!!


 確かにその顔は、モヤンド炭鉱で見たバルカスだった。だが、目は赤く充血し、口からは大量の涎が溢れている。ガタイの良かった体格も、筋肉が膨れ上がったかのように、ひと回り以上大きくなっている。


「かっかっか!むやみに突っ込まぬことじゃぞ?あまりの暴れっぷりに、わっし自慢の屈強な兵士たちが、何人も死にかけたわい。が、その甲斐あっての、今やそいつは筋骨隆々の化け物へと進化したのじゃ!この魔導石のおかげでの!」


 そう言ってモルルド王は拳くらいの大きさの石を見せる。あれが魔導石?通常の魔導石よりもずっと大きい。


「さあ、バルカスよっ!我が騎士団員として、我が姪の名を語り、反旗を翻す不遜な輩どもを、見事討ち取ってみせよ!」


 モルルド王の叫びと同時に、バルカスがこちらに向き直る。理性があるのかもわからないが、その不気味な瞳をこちらへと向ける。そしてその大きな腕を、高々と振り上げる。


「来るぞっ!」


 イージスさんが大声で叫ぶ。そしてバルカスの腕が勢いよく振り下ろされる。避けるように横に飛びのくと、遅れてドゴンッ!と大きな音が響き渡る。


 パラパラと飛び散った破片が降り落ちる中、振り下ろされた場所を中心にヒビが広がっていた。


「みんなお願いします!私に力を貸してくださいっ!」

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