第41話:王国再興の通過点へ
「それでは、作戦の最終確認を行うわ」
アニーさんの掛け声で会議が始まった。夜の会議室に全員で集まり、明日のそれぞれの行動を確認だ。
「明日の夜、お城では貴族たちを集めた会議、いえ、宴会が行われるわ。私たちはそこに突入し、叔父上を討つわ」
アニーさんが会議室を見回す。アニーさんと視線が合うと頷きあう。もちろん俺も。
アニーさんは大きな紙を広げる。そこには王都周辺の地図が描かれていた。アニーさんは地図のオアシス拠点を指さす。
「まず、ルシウス率いる本隊は陽動として王都に向かってもらうわ。早朝にはここを出発。昼前には森の仮拠点に着くと思うから、そこで夜まで待機よ。夜になったら全軍を連れて、王都に向かって。内通者の合図で正門が開くから、一気にお城まで進んで」
アニーさんはオアシス、仮拠点、王都の順に手を動かす。
「ええ。わかりました」
ルシウスさんの返事に、アニーさんも頷く。
「それに同行するのは、デュバル、ハスター、ミール。気付かれた場合は、王都近くで戦闘になるはずだから。デュバルは先発隊、ハスターは後方支援隊。ミールは戦場を自由に動く遊撃隊よ」
「承知です」
「りょーかい」
そしてミールさんは無言で頷く。それを確認すると、アニーさんはこちらへ視線を移すと、モヤンド炭鉱を指さす。
「そしてその陽動の間に、私たちはモヤンド炭鉱から王都に潜入。東南門の地下水道を通って、お城に潜入するわ」
「地下水道の鍵はどうする?」
イージスさんがアニーさんに質問する。
「東南門の詰め所にあることは、わかっているわ。潜入して盗むつもりだけど、必要なら無力化するわ」
運悪くタルテが当番でなければいいが……。あいつとは争いたくないな。
「向かうのは、私、イージス、フェルンさんに、ノルンさん。……そして、トライクよ」
「わかった」
名前を呼ばれ、トライクさんが頷く。
「城内には、王都の兵とは別に私兵がいることがわかっている。……ついでに彼らの正体も判明したわ。陽陰に潜む者。エデニア教国で教皇聖下に叛旗を翻す過激派組織よ」
室内にいた全員が息を呑む。ただ、いまいちピンときていない。過激派組織と言うから、危険な相手なのはわかるが。
「その…エクリプス?はどんな相手なんです?」
「エデニア教国に反発する過激な連中よ。神の声を聞く、と言う教皇聖下を否定し、我らこそが神の代行者だ、と語っているの。けれど、彼らはエデニア教国の執政者どころか、民間人も標的にすることがあるわ。それに街中でも好き勝手暴れまわるから、無関係な人たちも平気で巻き込む……最低な奴らよ」
「……どうしてそんな危険な奴らが?」
アニーさんは首を振る。
「叔父上が、彼らとなぜ関係があるかはわからないわ。けれど、予断の許されない戦いになると言うのは、はっきりしているわね」
確かにそんな連中が城内にいるなら、激しい戦闘になるのは間違いないだろう。
「最後にフリッツとアーキンスは拠点で待機よ。……激しい戦闘も予想されるわ。怪我人も出ると思って準備をお願い」
「ええ。もちろんです」
「ほっほ。お任せください」
と、ふとノルンを見ると真っ青な顔をしていた。数日前の王都以来、ずっと塞ぎ込んでいたが、さらに顔色が悪くなっている。
「ノルン、大丈夫か?もし不安なら、フリッツさんたちと拠点で待つのもありだけど……」
無理に参戦することはない。そう思いできる限り、安心させるように優しく声をかけるが、ノルンは首を激しく振る。
「……ううん、違うの。私、見てしまったの」
「見てしまった?何を?」
「し……いえ、私の知り合いの司祭様が陽陰に潜む者に連れて行かれるところを」
「え!?」
ノルンの言葉に思わず声を上げる。他の面々も驚いた顔を浮かべていた。こちらを見上げるノルンの表情には、悲壮な色が浮かんでいた。
「いつ見たの?王都に行ったとき?」
「うん。地下水道から戻ってきたときに、詰め所前にホッセル車が止まっていたでしょ?あそこに乗っていたの」
タルテが先輩の兵士に殴られた時か。兵士とのやり取りに気を取られてて、ホッセル車とか見てなかったや。
「けど、あれは王国兵が連れていなかったか?」
「うん。けどあの後にタルテに聞いたの。ホッセル車を引いていたのは、私兵たちの方だって」
私兵……それでエクリプスってことか。
「司祭様は、私を娘のように良くしてくれて。私にとっても父のような大切な存在なんです」
ノルンは涙を堪えるように、両手を強く握っていた。
「ノルンさん……。ルシウス、どう見る?」
アニーさんがルシウスさんに問いかける。ルシウスさんは口元に手を当て、神妙な顔で考える。
「そうですね……。正直に話せば、最悪でしょう。その方が司祭となれば、彼らの標的の可能性が高いでしょうね」
「だが、仮に標的だとして城に運ぶ理由はなんだ?あいつらはその場で始末するだろ?」
デュバルさんが、全員が気になったことを代弁する。俺は詳しくはわからないが、過激派組織なら確かにその場でやってしまいそうだ。
「彼らからしてみれば、王城と言う最高の隠れ蓑を得たんです。王城内で始末すれば、痕跡も消しやすく、無用な恨みも買いにくいでしょう。……あくまで推測ですが」
「どちらにしろ、放っておけないわね。既に数日経っている状況からも、予断は許さないわ」
アニーさんがノルンを見やる。
「ノルンさん。まだ希望を捨てないで。必ず、司祭様も助けるわ」
「……ありがとう、ございます」
ノルンの言葉にアニーさんが頷く。そして室内の全員ひとりひとりの目を見る。頷くものもいれば、笑みを見せるものもいる。俺は頷いた。
「ここまでみんな本当にありがとう。みんなに支えられてここまで来ることができたわ」
「おいおい。何だかこれで終わりみたいな言い方だな」
「……うん。良くない」
ハスターさんが突っ込み、ミールさんも頷く。
「アニー様、ここからです。この後こそ、あなたは忙しくなるんですから」
「そうですぞ。私も最近は、日誌を毎日書いておるのです。ここから先も、あなたの勇姿を書き続けるつもりですぞ」
「あ、毎日書くようになったんだ」
「ええ。ノルン殿の司祭様が書いているとおっしゃられてましたからな。私も負けずに毎日書いております。……戦いの後にでも、色々とお話を伺ってみたいものですな」
「……はい。司祭様も喜ぶと思います」
アーキンスさんの言葉に、ノルンも笑顔を見せる。救出される前提の会話に、ノルンも少し安堵できたかも。
「ふふっ、そうね、みんなの言うとおりだわ。ちょっと言い方が良くなかったわね」
アニーさんはひとつ咳払いをすると前を向く。その顔は覚悟を決めた顔だ。
「明日は通過点よ。必ず叔父上を倒し王都を、いえ、レジャスルト王国を取り戻してみせる。みんな、私に力を貸して!」
アニーさんの声にそれぞれが、それぞれの言葉で応える。
王国を巡る長い戦いが、明日、いよいよ火蓋を切ることになった。




