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絶望と希望の英雄譚  作者: いなり
第二章:王国

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第36話:再開の兵と不穏な兵

「あの…お二人ともこのまま行っても大丈夫なんですか?」


 城の門へと向かう道中で、後ろを歩くノルンから疑問を投げかけられた。ノルンの言葉を察し、アニーさんの顔を見る。確かにこのままだといけないな。


「念の為、アニーさんは後ろにいてもらおうか。12年前とはいえ、知っている人がいるかもしれない」


「そうね…門までとは言え、さすがにお城は危ないわね。わかったわ。兵士とのやり取りは二人に任せるわ」


 アニーさんもノルンの言いたいことを汲み取ったようだ。お互いに頷く。


「それじゃあ、俺とノルンで――」


「フェルンもでしょ!」


 ノルンが唐突に大声を上げるので、びっくりしてしまった。アニーさんも目を丸くしている。


「酒場のお爺さんも言ってたじゃないですか。オルドレアンの凶悪犯の件。フェルンだって捕まるかもしれないんだよ」


 ノルンは表情を曇らせる。そう言えばそうだ。その件で俺は苛ついたんだった。


「…どういうこと?」


 事情を知らないアニーさんが、俺とノルンの顔を交互に見るので、アニーさんにオルドレアンで起きたことを説明する。


「なるほど。そういう事情があったのね」


「そうなんです。だからもし手配書とかが出回っていたら、捕まっちゃうんじゃないかと…」


 ノルンは心配なのか、眉が下がる。なのであえて何でもないかのように明るい声で答える。


「けど爺さんも言ってたけど、噂だろ?討伐隊と会ったときも、バレなかったし。今回も大丈夫じゃないかな」


「でも、あれはオルドレアンで噂になったばかりだから、王都を出たときはまだ聞いてないかも、って話だったから」


「それは…確かに」


 ノルンの言葉に何も言い返せなかった。仮に正式に手配書が出回っている場合は、今度こそ危ないかも。


 うーん、と悩んでいると、アニーさんが口を開く。


「…ここで話していても仕方ないわ。今は調べる術もないから、とりあえず向かってみましょう。いざとなれば、エア・ボムをぶちかますわ」


 いや、城の目の前でエア・ボムなんてしたら、後でイージスさんに怒られるから…。


* * *


 城の東南にある門が見えてきた。正門とは違い門構えは小さく、普段は開放していないのか、門は閉ざされている。門の横には水路があり、ここが地下水道の入り口になっていそうだ。


 結局、アニーさんの正体がバレるのが一番の問題として、俺とノルンが並んで歩く。気持ちノルンが先行して歩いているようだけれど。


「誰もいないのか…?」


 門の外には誰も立っていない。横に詰め所はあるみたいだが、ここからは中の様子が見えない。と思っていたら、詰め所から人が出てきた。


 門番と思われる兵士はすぐにこちらに気付き、足を止めるが、こちらが近付くにつれ、徐々にその表情が驚きへと変わっていく。


「あーーーーーーーーーーーーーっ!」


 唐突に兵士が大声を上げながら、こちらに向かって勢いよく走ってきた。やっぱり噂じゃなく指名手配になってしまったか…と思い剣の柄に手を置こうとするが、それよりも早く兵士に手を両手で掴まれた。


「良がっだあぁぁ!君、生ぎでいだんだねっ!!」


 兵士はもはや号泣と言ってもよいほどに、目から涙を流す。予想外の反応に驚いてしまった。


「……知り合い?」


 後ろからアニーさんに尋ねられ、考えてみるが、ちょっと思い出せない。


「ほら!あのとき、アンタの群れが襲ってきたときに!」


「あ、もしかして、討伐隊の野営地にいた兵士さん?」


「あ…あぁ!」


 ノルンの言葉に思い出す。王都に向かう途中で討伐隊の野営地で出会った兵士だ。


 兵士は手を離すと一歩下がり、涙を袖で拭きとる。


「そうそうあの時の!救援もあって僕たちは何とかなったけど、君たちとははぐれてしまったから…。近くを捜索したら巨大なアンタの死骸もあって、襲われたと思って心配してたんだよ。でもなんとか逃げていたんだね」


「えっと、まあそんな感じかな」


 実際にはアニーさんたちに助けてもらって、そのまま運ばれていたから、ほとんど記憶には無いけど。


「こんなところで助けてもらった恩人に会えるとは思わなかったよ。おっと、こんなところで立ち話も何だから詰め所に行こうか。何か用があったんだろう?」


 兵士が歩き出したのを見て、後ろをついて行く。


「…よく詰め所に用があるってわかったな」


「まあこの先には門しかないからね。こっちに来たってことは、そういう事だろう、と思ってね」


 確かに言われてみればそうか。


 兵士の案内で詰め所の扉を開く。詰め所の中は比較的広く、4,5人が座れるくらいの大きな机があり、奥にはもう1つ扉があり、開いた先は寝床なのかベッドが並んでいた。しかし…


「誰もいない…?」


 奥の部屋も開けっ放しであることから、誰かが寝ているわけでもなさそうだ。


「…さっきまでいたんだけどね。どっか行ったよ。あ、座って、座って」


 ちらっとアニーさんを確認して、兵士からアニーさんを庇うように座る。結果、対面にはノルンだけが座り、俺を挟んでアニーさんと兵士が座ることに。ただ兵士は気にしてないようだ。


「…仕事をサボるなんて、いい度胸ね」


 座りながらアニーさんが後ろで呟く。その言葉に兵士は頷く。


「本当そう思うよ。昔はまだマシだったんだけどね。最近は知らない兵士たちが城からの任務をやっていて、僕たちは城の警護ばかりさ。おかげで不満が溜まっているんだよ」


「知らない兵士?」


「そう。なんでも王様の私兵らしいけど、そもそも王様の私兵って僕たちじゃないのか?それ以外の私兵ってなんだよ、って思うよ」


 兵士は不満げな顔で文句を言う。アニーさんに視線だけ移すが、顎に手を当てて考えていることから、心当たりは無いようだ。


「不満の裏返しか、先輩たちは遊んでばかりで、仕事も適当に。おかげで地下水道には魔獣が住み着いちゃったんだよ」


 はぁ、と兵士はため息をつく。


「そうそう。その魔獣討伐、俺たちが依頼を受けて、ここに来たんだよ」


 俺がそう言うと、兵士はガバっと顔を上げる。


「ほ、ほんとに!そっかぁ、良かったよ!上にバレると怒られるからって、内緒であんなとこに依頼を出したけど、その甲斐あったよ!先輩たちはお前がなんとかしろっ!って手伝ってもくれないし、かと言って魔獣の数も多くて、一人でできる気がしなかったから…」


 兵士の顔は嬉しそうだ。相当困っていたのだろう。


「でも君が手伝ってくれるなら、心強い!あ、でも…」


 と、兵士は後ろのアニーさんとノルンに視線を向ける。一瞬アニーさんがバレたかと思ったが、不安そうな顔からついてくるのが大丈夫か心配しているようだ。


「この二人は大丈夫だよ。俺も今までに色々助けられたんだ」


 ノルンとアニーさんに視線を移す、二人とも頷いてくれた。


「そっか。君が言うなら大丈夫だね。わかった。じゃあみんなで行こう。城にバレると大変だから、できれば早くにでも行きたいけど、どうだろう?」


「なら明日にしよう。こっちも準備したいからな」


「わかった。じゃあこっちも準備をしておくよ。あ、そう言えば自己紹介がまだだったね」


 兵士はゴホン、と咳払いをすると、背筋を伸ばし、右手を差し出す。


「僕の名はタルテ。タルテ・ミルガッド。この東南の門番をやっている兵士さ」


「俺はフェルン。フェルン・ニールだ。こっちがノルンで、後ろは…えっとアニーだ」


 タルテの右手をしっかりと握る。一瞬、アニーの名前を言っても大丈夫か思ったが、紹介しないのも怪しいし、アニーの愛称呼びなら他にもいるから大丈夫かと。案の定、兵士は特に気にせず握り返してきた。


「よろしくね、フェルン。ノルンとアニーも」


「ええ。こちらこそ」


 ノルンはタルテに言葉で返し、アニーさんは声を出さずに会釈だけで済ます。


「それじゃあ明日はよろしくね!きk…大量の魔獣かもだけど、頑張ろう!」


 何か不穏なことを言いかけた気がするが、タルテの陽気な雰囲気にかき消された。

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