第37話:魔獣掃除は兵士の受難
地下水道は思ったよりも明るかった。きっと昔から兵士が現れた魔獣を掃除していたのだろう。等間隔に魔導石の入った明かりが通路と水路を照らしている。時折、カサカサ、キィキィと音が聞こえる。
「意外と臭くないんですね」
後ろにピッタリとくっつくノルンが、鼻をふんふんと鳴らす。確かにカビ臭さはあるものの、汚物の臭いは気にならない程度だ。
「ここは上水道だからね。近くの川から城を通って街に流れているんだ。もう1つ下の下水道は、これとは比にならないよ」
同じく後ろにピッタリとくっつくタルテが、ノルンの疑問に答える。
「……おい、タルテ」
「うん?」
「なんでお前まで俺の後ろにいるんだよ!」
張り付いていたタルテをひっぺがす。
「ノルンはわかるけど、何で兵士のお前まで後ろにいるんだよ!」
「ひどい!僕だって怖いんだからね!」
「その盾は何のためにあるんだよ!」
タルテが背負う盾を指差す。本来なら一番前に立ち、その盾で受ける側だろ。
「だって…怖いものは怖いんだよ。言っただろ?実戦経験は無いって」
「嘘つけ。もうアンタの群れと戦っただろ?あれと比べたら、何が怖いんだよ」
倒しても倒しても、次から次へと現れるアンタ。減るどころかどんどん数を増えていく。しかも雨の中での死闘。今のほうが何倍もマシだ。
「……確かに」
タルテもあの時のことを思い出したのか、俺の言葉に納得する。
「よ、よし!じゃあ、ぼ、僕が案内するよ」
タルテが背中に背負った盾と槍を構える。と同時にキィ!っと甲高い音が響き、タルテがビクッと身体を震わせ、俺の後ろに素早く回る。頭だけだして周囲を見渡すが…。ビビり過ぎだろ。よく兵士になったな。
はぁ、と俺は息をはくと、腰の剣を抜く。そして奥から通路を走って向かってくる魔獣を見据える。大きな耳と前歯が特徴のスカベンジャーマーサーだ。
「な、なんだ。マーサーか」
「後ろからも来ています!」
ノルンの声で後ろを振り向くと、フライマーサーが飛んでいた。
「は、挟み撃ち!」
タルテは動揺を見せるが、ひと呼吸して落ち着く。そして顔つきが変わると、盾と槍を構える。
「よ、よし。スカベンジャーマーサーは僕がやるよ。フライマーサーは君に頼むよ!」
「わかった。ノルン、タルテのフォローをお願い。アニーさんは俺のフォローをお願いします」
「はい!タルテさん、来ますよ!」
ノルンの返事に対して、アニーさんは頷く。暴れるとケープが外れ、正体がバレるかもしれない、という事で、行くならフォローだけだ、とイージスさんから言われている。本人は不服そうだったが、イージスさんの言うことはもっともだ。
1匹のフライマーサーがまっすぐこちらに突っ込んできたため、こちらも距離を詰め、剣を振り下ろす。こちらの急な詰めに対応できなかったのか、フライマーサーはそのまま剣で斬り伏せられた。
しかし後続に2匹飛んでおり、警戒しているのか、右へ左へと動き、こちらの様子を伺っている。斬り込む隙がなさそうだったので、
2匹にそれぞれに剣を振るう。素早い動きで当たることはなかったが、何度か続けると、お互いの避けた先で鉢合わせになり、動きが止まる。
「よし、2匹目!」
動きが止まったのを見逃さず、一閃。1匹は斬り伏せる。が、もう1匹は逃げられてしまった。
「渦巻き流るる捕縛の糸!」
アニーさんが唱えると、横の水路から、長く伸びた水が飛び出す。不意を付かれたのか、フライマーサーが簡単に絡め取られる。
「助かります!」
アニーさんに感謝だけ伝えると、渦ごとフライマーサーに剣を振り落とす。斬られたフライマーサーは、そのまま通路へと落ちる。
「や、やぁ!」
背後を見ると、タルテが槍で何度も突き出すが、素早い動きで地面を動き回り、当てることができなさそうだ。
「逆巻き荒れ狂う氷塊」
ノルンが唱えると、パキパキと氷の塊が音とともに作られ、巻き起こった風に呑み込まれる。突然起きた風にスカベンジャーマーサーも動きが制限され、また氷塊が巻き込まれたものを襲う。
「え、ちょ!いたっ!痛い痛い痛い!」
タルテも巻き込まれているが…。容赦なくタルテを氷塊が襲い、持っている盾で防ぐものの、全部は難しいようだ。
「タルテさん!足止めしている今のうちに!」
「えっ!無茶だよっ!」
「フェルンさんなら、これくらいの氷塊、どうってことありませんっ!」
いや、俺もこの中で戦うのは嫌かな…。
「そ、そうなのか…!よ、よしっ!」
ノルンの言葉に奮起したところ悪いけど、俺も普段ならその中を突っ込まないからな。
しかし俺の内心など知る由もなく、氷塊が吹き荒れる中をタルテが盾を構えて進む。そしてスカベンジャーマーサーに近づき、一気に仕留める。
1匹目仕留めたところで、アイスロック・ストームが収まり、残りのスカベンジャーマーサーもタルテがとどめを刺す。
「ふぅ。なんとかなった…」
タルテが倒せた安堵からホッと息を吐く。そんなタルテに近付く。
「お疲れ。良くやったな」
タルテの肩を叩く。氷塊の中を突っ込んだからか、身体中傷だらけだった。
「もう大変だったよ。でも君はこんな中でいつもは戦っているんだね」
タルテが関心したように、憧れの目を向ける。確かにもしかしたら…と一瞬思ったが、いや、やっぱり俺はしないよ。
「治しますね。静かに包む仮初の微光」
ノルンもタルテに近付くと、魔導石を唱える。タルテの身体が淡い光に包まれ、傷が癒えていく。
「ありがとう、助かったよ」
タルテの言葉にノルンが笑顔で答える。
「さて。この調子で進もう!今度こそ、案内するよ」
そう言うと、タルテは先頭を歩き出した。
「ノルン、俺もさすがにあの中で戦うのは嫌だよ」
前を行くタルテに聞こえないように、ノルンにコソッと言う。
「イージスさんに鍛えられたフェルンなら大丈夫よ」
「いやいや…」
「あら、イージスならきっとやるわよ」
後ろで聞いていたのか、アニーさんが答える。いや、絶対イージスさんも嫌がると思うけどな…。
* * *
地下水道の魔獣を倒しながら進むと、通路にはみ出る大きさの装置が見えてきた。装置からはガウンガウン、と大きい音が鳴り響き、水が水路へと排出されている。
「ここから地下へと降りるんだ」
装置の影に隠れて、地下に降りるハシゴがある。そしてその隣には上へと向かうハシゴも存在していた。
「この先は…?」
アニーさんが見上げながら尋ねる。
「ああ、お城だよ。僕も出たことないからわからないけど、お城の中に通じているって聞いたよ」
「ここの鍵もあなたが管理しているの?」
アニーさんの問いかけに、タルテは困ったような顔をする。
「…一応、東南の詰め所で管理はしているよ。まあ僕しかいない状況だから、僕が管理していると言えば、そうなんだけど」
タルテがため息を吐く。確かに今日も詰め所にはタルテしかいなかった。地下水道に入るときも、タルテが鍵を持ってきてたっけ。
「そう…」
アニーさんは何かを考えているのか、顎に手を当てて俯く。
「よし、じゃあ下に降りよう。下水道はちょっと臭いけど…」
下へ降りるハシゴを見る。同じような明るさの通路に続いているが、下水道のためか、臭いはきつくなり、どんよりした空気を感じる。
ヴォォォォォォ…ン
装置の音に隠れて、何か不気味な音が聞こえる…気がした。誰も何も言わないから、勘違いかもしれないけれど。
「…行こうか」
気にはなるが、行ってみればわかると自分に言い聞かせ、ハシゴに手を伸ばした。
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