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絶望と希望の英雄譚  作者: いなり
第二章:王国

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第32話:アニエス・リ・レジャスルト

 モヤンド炭鉱から帰還し、救出した人たちの対応が一段落した頃には、すっかり日が落ちてしまっていた。部屋に戻りゆっくりしていると、話があると言っていたアニーさんに呼ばれ、ノルンと共に集会場へとやってきた。


 俺とノルンの前には、机を挟んでアニーさんが座り、後ろにルシウスさんとイージスさんが立っている。そして集会場の壁伝いには、トライクさん、デュバルさん、ハスターさん、ミールさんも同様に立っていた。


 重苦しい感じの空気が集会場を満たしているが、夜の冷えた空気だけが原因では無いだろう。


「今日はありがとう。想定外の魔獣の群れとの戦いはあったけど、あなたたちの助けもあって、みんな無事でいられたわ」


 柔和な笑みを浮かべ、座ったままではあったが、アニーさんは頭を下げる。そして顔を上げると一度目を伏せる。


「お話したいことは、私たちについてです。最初に伝えておくわね。私の名は、アニエス・リ・レジャスルト。レジャスルト王国、前王アルベルト王の娘よ」


「お、王女様…!?」


 横にいたノルンが勢いよく立ち上がる。確か俺の村も王国の端にあると聞いたことあるけど、レジャスルト王国だろうか…?


「ふふっ。思った通りの反応ね。まあ最果ての村で過ごしていたなら、無理もないわ」


 脇に立つトライクさんとハスターさんは、アニーさんと同様に笑っていたが、イージスさんとデュバルさんは溜め息を吐きつつ、呆れた顔をしていた。ミールさんは無表情だが、何となくジト目で睨まれている気がする。


「フェルンが住んでいた最果ての村も、私が住んでいた村も、レジャスルト王国ですよ。フラーシさんの話を覚えていますか?今、王都の王女様が行方不明だ、ってお話していた」


「ああ、確かにそんな話もしていたけど…。え、と言うことは、アニーさんがその王女様ってこと?」


 ノルンがコクリと頷く。アニーさんの方を見ると、ニコリ、と笑顔を見せた。その顔を見て反射的に立ち上がる。


「二人とも座ってください。現王は叔父ですから、私は元・王女でただのアニーです」


 そう言うアニーさんは少し寂しげな表情を浮かべる。ノルンと一度顔を見合わせると、改めて椅子に座る。


「でもア…っと、王女様が何故こんな砂漠の村にいる…いらっしゃるのですか?」


 王族と思うと、これまでの話し方ではマズイと思うが、何だか片言になってしまう。そんな姿を見てか、アニーさんがくすりと笑う。


「今まで通り、アニーで大丈夫ですよ。…そうですね。少し長いお話をしましょうか」


 アニーさんが後ろに立つルシウスさんに目配せすると、ルシウスさんが頷き、一歩前に出る。


「私からお話しましょう。まずは自己紹介を。私はアニー様のお父上、前王に宰相として仕えていたルシウス・セントーレと申します。今はこの隊商の隊長でしかないですが」


 ルシウスさんは恭しくお辞儀をする。この人は元宰相だったのか。それなのにゴブリンとの戦いでは指揮役だったけど。


 ルシウスさんは一度目を伏せると、在りし日を思い出すかのように、ゆっくりと語り始めた。


「アニー様の父上、アルベルト・リ・レジャスルト様は、王国史上でも歴史に残るであろう御方でした。国は民である。民が活気に満ちれば、国もまた自ずと活力を得る。そう掲げ、民のための施策を次々と打ち立てました。そしてその言葉通り、民の活気が国の活力になり、繁栄に繋がりました」


 ルシウスさんはそこで言葉を区切り、目を伏せる。穏やかに話すその姿からも、アルベルト王がどれだけ民のことを思い、そんな王をどれだけの思いで支えたのかが、ルシウスさんから伝わってくる。しかし、次にルシウスさんが目を開いたとき、その目は冷たく、厳しい表情へと変わっていた。


「しかし12年前。アルベルト様は突如、お亡くなりになりました。そしてその数日後、アルベルト様の弟君、モルルド・ヴィ・レジャスルト…様が即位されることとなりました。確かに当時のアニエス様はまだ8歳。即位するには幼く、またモルルド様にも王位継承権はあり、即位されることは不思議ではありません。…しかし、正直、彼は王の器ではないのです。そのことを臣下の誰もが理解しており、みな反対をしました。しかし彼は――」


 ルシウスさんの言葉が不意に途切れる。悔しい思いが溢れたのか、止まってしまったのだろう。ふとアニエスさんを見ると、目を伏せ、机の上で組んでいた手が震えている。


「…反対する者を次々と弾圧、処罰を行い、その刃は幼いアニエス様にも向けられたのです。私は事前にその情報を掴むことができ、同じ思いを持った臣下たちと共に、アニエス様を連れて城を脱出。そしてなんとか、このオアシスへと逃げ込んだのです。…そしてこの12年間、この場で秘密裏に過ごしていたのです」


 ルシウスさんが話し終え、沈黙が生まれる。隣に立つイージスさんやデュバルさんも視線を伏せ、トライクさんは悲しげな表情を浮かべていた。 


 俺自身もアニーさんとルシウスさんに起こったことを思うと、言葉が出てこなかった。


 ルシウスさんは一通り話し終えたのか、一歩下がると、アニーさんが続ける。


「それからの王国は…以前少しお話したわね。叔父様はいなくなった臣下たちの椅子に、自分に都合の良い者に座らせたわ。そして民に重税や徴税を行うのに対し、自身の私腹は肥やすと、臣下や貴族たちと共に贅沢をしているわ。終いには、民を逃さぬように出都税を設け、王都を出るものに多額の税金をかけるに至ったわ」


 アニーさんの目は鋭く、その瞳と言葉には怒りが込められていた。


「だからこそ私は、叔父様を許さない。父が愛した民を、この国を苦しめる叔父様から王位を取り戻すつもりでいるわ」


 そして瞳の奥には、確固たる決意が見られた。それはこれまでにも見えていた決意と同じものを感じる。


「それは…クーデターと言うことでしょうか?」


 ノルンの言葉に、アニーさんは頷く。そして表情を緩めた。


「正直、私は王位に興味なんて無かったわ。ここでの生活はとても楽しいし、イージスやトライクたちもいる。ここで隊商として生活するのも悪くないわ」


 その言葉にルシウスさんとイージスさんが困ったような表情となったが、何も言わない。


「でも、今この瞬間も王国の民は苦しんでいる。私が王女である以上、それを放って置くことはできないわ」


 そうアニーさんは言い切る。その固い決意は理解できたが…


「なぜそれを俺たちに…?」


 言ってみれば俺たちは部外者だ。王国の民ではあるが、こんな重要な話を聞いて良い立場ではないだろう。


「…これはあくまでも、私個人のお願いよ。どうか私たちに力を貸して欲しいの。もちろん無条件とは言わないわ」


「と言うと…?」


「旧時代の遺物。あれは王都にもあるわ」


「「!!」」


「ただしあるのはお城の中よ。だから今のあなたたちでは入ることができない。でも、もしクーデターが成功すれば、私があなたたちをお城に招待できるわ」


「交換条件ってことですね…」


 確かに王都の城の中では、自分たちではどうしようもできない。それに砂賊やモヤンド炭鉱でのことを思うと、自分にできることはしたい。


 ノルンを見ると、同じようにこちらを見ていた。どうやら交換条件としては十分みたいだ。ならば…。


「俺からも1つ条件を付けさせてください」


「…いいわ。お約束はできないけど、できる限りのことはするわ」


 アニーさんが頷いてくれたのを確認すると立ち上がり、壁際に立つトライクさんの前に移動する。トライクさんは不思議そうな顔でこちらを見やる。


「トライクさん、俺に剣を教えてください。俺、もっと強くなりたいんです」


「!!」


 その言葉に、室内にいたほぼ全員が驚いたのを感じる。トライクさんは困った顔をすると、右頬をぽりぽりとかき始めた。


「えっと…教えるも何も、剣を振るえば、大体のものは斬れると思うけど…?」


「…………えっと」


 トライクさんの思いがけない回答に、先程のルシウスさんの話とは別の意味で、言葉が出なかった。周囲からも溜め息や失笑が聞こえてくる。


「やめておけ、馬鹿もの。そいつは規格外の天才だ。俺たちですら、理解できないとこで戦っているようなやつだ」


「そうそう。振れば斬れるとか、避ければいいとか、それができたら苦労しないってーの」


 デュバルさんがため息混じりに、ハスターさんが空笑いをしながら突っ込む。


「ひどいな…。でも、事実でしょ?」


 トライクさんはそう言うが、誰一人として、トライクさんに共感しなかった。


「仕方がない。俺様がお前を鍛えてやるよ」


「デュバルは大剣じゃん。どう教えるんだよ」


「大剣に変えればいい」


「おいおい…」


 ハスターさんの突っ込みにデュバルさんは真顔で答える。あの人なら本気で言ってそうだが、俺も慣れない大剣に変えるのは、ちょっと避けたい…。


「あ、そうだ。ならイージスが教えればいいんじゃない?イージスなら片手剣だし、教えるのも上手よ」


 まるで名案とでも言うように、アニーさんは両手を合わせると、それまで黙っていたイージスさんの方を振り向く。急に話を振られたイージスさんは、は?と間抜けな声を出す。


「いや、ちょっと待て。俺はそんな教えるのなんてうまくも…」


「あら?他の隊員にも教えているじゃない」


「それは仕事であって…」


「似たようなものじゃない。それに、フェルンさんが強くなれば、戦力強化にもなるわ」


 アニーさんの言葉にイージスさんは眉をひそめると、少し考える仕草をする。そして悩んだ末に、こちらに視線を向ける。


「君は俺でもいいのか?俺はトライクに遠く及ばないぞ」


 トライクさんに及ばないと言うが、黒ケープの男との戦いや、トライクさんとの息のあった動きを思い出す。トライクさんとはもちろん違う、イージスさんにはイージスさんの強さを、この目で見ている。となると選択肢はひとつだ。


「俺は強くなりたいんです。イージスさんが良ければ、ぜひお願いしたいです!」


 まっすぐにイージスさんの目を見る。イージスさんは正面からそれを受け止めてくれると、すぐに頷き返してくれた。それを見たアニーさんが笑みを浮かべると共に、安堵したのか小さく息を吐く。


「決まりね。断られたら、どうやったらみんなを止めようか考えていたから、良かったわ」


 アニーさんがさり気なく、不穏なことを口にする。周囲を見渡すと、デュバルさんとハスターさんが答える。


「ふん、当然だろ。王都にクーデターを仕掛けようとしているんだ。秘密を知られて無事に解放されるとでも思ったか」


「そうそう。断ってたら良くて軟禁だな」


「…悪くて首切り」


 さらっとミールさんが恐ろしいことを言ってくれる。…断っていたら危なかったな。


「ふふっ。でも私は断るなんて全く思っていなかったわよ。あなたは森で、命懸けで民を守ってくれた。モヤンド炭鉱でもみんなを守るため、ゴブリンの群れに臆することなく戦ってくれた。私にはそれだけで、充分信頼できると感じたから」


 アニーさんのその言葉に嬉しくなる。そしてその言葉を、この場にいる誰一人、否定する人はいなかった。


「ありがとうございます。その思いに答えられるように頑張ります!」


 その言葉にアニーさんは微笑む。他の面々も頷いてくれた。


「ふん。役に立たなきゃ本当に首切りだな」


「…任せて」


 デュバルさんとミールさんには気を付けよう。

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