表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
絶望と希望の英雄譚  作者: いなり
第二章:王国

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

33/40

第31話:坑道の奥に眠るもの

迷いを照らす道標(ルミナス・ランタン)


 ノルンが魔導石を1つ持ち魔力を込めると、魔導石から淡い光が浮かび上がる。坑道全体を照らすには充分な光、とまでは言えないが、進む先を照らす程度には充分だ。


 坑道には、アニーさん、イージスさん、トライクさん、ルシウスさん、そしてノルンと俺の6人で進むことになった。デュバルさんたちは、別の捜し物があるようで、坑道の別のところを捜索している。


 と、不意に坑道の奥から強烈な臭いが襲ってきた。


「なんだ、この臭いは…!」


 思わず鼻を指で摘む。みんなも耐えきれず、同じように鼻を摘んだり、覆ったりしている。


「腐敗臭…。どうやらこの先は、覚悟を持って進んだ方が良いですね」


 ルシウスさんが片手で鼻を覆いながらみんなに視線を向ける。俺たちは頷きあうと、再び歩き始めた。


 しばらくすると、坑道の先が明るくなっているのが見えた。強まる腐敗臭に警戒はしつつ、慎重に進む。そして明るく、広くなった広場のような場所に到着し…そして広場の凄惨な光景に目を覆いたくなった。


 広場には多くのゴブリンの死骸が横たわっていた。ただし原型をとどめているものはなく、四肢のどこかが無くなっている。また長い時間放置されていたのだろう。残っている肉は爛れ、腐り、強烈な臭いを放っていた。


「……うっ!」


 隣に立っていたノルンが急に屈み込む。俺も屈むとノルンの背中を擦る。こんな光景を見たら無理もない。俺も吐き出したくなる気分を、手で口や鼻を覆うことで、無理矢理抑え込んでいる。


「…どうやら共食いが起きたようだな」


 イージスさんが近くにあったゴブリンの死骸を見ながら呟く。何ともないんだろうか?


「共食いだけじゃないよ。ここに…落とされた人もいるみたいだ」


 トライクさんも近くにあった死骸に近づく。ただしその死骸は破れてズタズタになってはいるが、明らかに衣服だった。


「ここが、彼らが言っていた場所なのね」


 アニーさんが見上げるため、追うように俺も上を見る。上空は広場に合わせて丸く吹き抜けになっていた。ここだけ明るかったのは、天井がなく、外の光が差し込んでいたからだ。


 その見上げた脇に、広場に向かって何かが伸びていた。バルカスが人々を突き落としていた高台なんだろう。


「バルカスが落とす人々を狙って、ゴブリンたちはここに集まっていたのでしょうね。となると、その先がゴブリンの巣のようですね」


 ルシウスさんが広場の一角を、厳しい顔で睨みつける。そこには、崩落したように空間がポッカリと空いており、イージスさんとトライクさんが剣を抜き、ゆっくりと穴に近寄る。俺もノルンをアニーさんに預けると、入り口の方に向かう。


 穴の両脇にイージスさんとトライクさんが壁に背中を預け、中の様子を伺うが、様子がわかったのか、スタスタと中に入っていった。


 二人を追いかけて、ルシウスさんとともに中に入る。穴の先も想像以上に大きな空間だった。そしてその一角で二人が大型のゴブリンを見下ろしていた。


「マザーだ。もう、長くはなさそうだが」


 ヒューヒューと、か細い音が聞こえる。マザーの呼吸音だろう。かろうじて聞こえるその音からも、瀕死であることがわかる。


「もう、大丈夫だよ。安らかに眠って」


 トライクさんは持っていた剣を静かに振り上げる。その顔は慈悲のように穏やかで、しかし迷いなくその刃を振り下ろす。


「ここまでの大群を作り上げたものの、共食いをするほど、飢餓で苦しんだのでしょう。先に出て来たゴブリンたちは、食料調達のため、進軍をしたのでしょうね」


 ルシウスさんがもう息をしていないゴブリンマザーを見下ろしながら、呟く。ルシウスさんの推測が本当なら、ゴブリンとはいえ、悲しい気持ちになる。


「終わったのね」


 声のする方を振り向くと、アニーさんがノルンを連れ立って入り口に立っていた。だいぶノルンの顔色は良くなっていたが、その歩く姿からまだ本調子ではないようだ。


「それにしてもここは明るいわね。どこかに光でもあるのかしら」


 そう言われて、確かに部屋が明るいのに気付く。広場が明るかったため、違和感を覚えなかったが、よくよく考えればここは坑道の奥だ。


「こちら側から光が漏れているな。外か?」


 イージスさんが岩の間から光が差し込んでいるのを見つける。確かに壁の隙間からいくつもの光が入り込んでいた。


「念の為、向こう側を確認してみましょうか」


 と、ルシウスさんが言うものの、掘る道具も無いため、その場にいた全員が頭をひねる。


「あ、これを使ってみようか」


 と、トライクさんが手のひらに持つ白い魔導石を見せる。エア・ボムだ。


「元々は、鉱山での採掘想定用らしいから、きっといけると思う。みんなちょっと離れてて」


 魔導石をグッと握りこみ、みんなが壁から離れたことを確認すると、壁に向かって放り投げる。


膨れ爆ぜる清冽な衝撃(エア・ボム)


 トライクさんが発する言葉に合わせて、魔導石を中心に空間が爆ぜる。威力は抑えていたと思うが、思った以上の爆音に思わず耳を抑え、爆風に顔を背ける。


 ただ爆発には充分で、土埃が消えると光の差し込んでいた壁が崩れ、更に大きな光が部屋全体を覆った。


「これは…!」


「凄い…!」


 目が光に慣れ、壁の向こう側が見えるようになると、その場にいた誰もが、その光景に圧倒された。


 壁をくぐり抜けた先は、また別の空間が広がっていた。しかし、日の光が差す広場とは、比べ物にならないほどの光が、その空間を満たしていた。光源は壁から突き出している大量の鉱石だ。


 だがそれ以上に、その存在を主張するかの如く、空間の中央には巨大な建造物が異様な存在感を放っていた。自然にはとても似つかない、光沢を放つ人工物。――旧時代の遺物だ。


「これがあなたたちが探していたもの?」


「そうです。こんなところにあるとは思っていなかったですけど…」


 アニーさんの問いにノルンが旧時代の遺物を見上げながら答える。


「そう…」


 しかしその答えにアニーさんは黙り込む。何かを考えているようで、顎に手をあてている。


「ここにも植える?」


 ノルンに向けて言うと、コクンと頷く。そして小さい鞄から種を1粒取り出すと、ルシウスさんが興味を惹かれたのか、ノルンに尋ねる。


「それは?」


「種です。これをこの遺物の近くに植えているんです」


「種…ですか。少し見せてもらっても?」


 ノルンから種を受け取ると、ルシウスさんは種を色んな方向から見たり、匂いを嗅いでいる。


「なかなか変わった形をした種ですね。それに…種にしては少々サビ臭い匂いですね」


「知っている種ですか?」


「いえ、初めて見る種ですね。ただ、ここまで真円の種があると言うのも、聞いたことないですね。まるで人工物のようだ」


 見ていた種をノルンに返す。人工物、という言葉に、ノルンが少しムッとした顔をしたが、そうですか、と呟くだけで、旧時代の遺物の近くの土を掘り始めた。


「それにしても…この周りにある鉱石は何だろう?凄い光っているけど」


 周囲を見渡すと、鉱石は壁だけでなく、天井もびっしりと、突き出した鉱石で埋め尽くされていた。そのどれもが淡い光を放つが、量が量なだけに、眩しいくらいだ。


「これは魔鉱石だ。この量の魔鉱石を見るのは、俺も初めてだが」


 同じように眺めていたイージスさんが答える。


「魔鉱石…?」


 聞き覚えのない言葉に、思わずそのまま聞き返す。


「ああ。俺たちが普段使っている、魔導石の元となっている鉱石だ」


「魔導石の元…!?じゃあ、これがあれば、魔導石が作れるってことですか!?」


「そういう事ではあるんだが…俺たちでは作りようが無いな」


「そうなんですか?でも作り方を知っている人に依頼すれば…」


「それも難しいわね」


 近くにいたアニーさんが補足をしてくれた。


「私たちが普段使っている魔導石は、すべてエデニア教国が精製しているの。そしてその精製方法もエデニア教国しか知らない。門外不出でもあるから、あなたのように、元なっている鉱石すら知らない人は、珍しくないわ」


「エデニア教国が精製すら独占…という事ですか?」


「そうね。理由はいくつかあるとは思うけれど…」


 と、アニーさんの言葉を遮るように、イージスさんが口を挟む。


「精製方法に後ろめたい何かがあるのだろう。門外不出とはいえ、教国以外誰も知らないのも…」


「イージス…憶測はダメよ」


 イージスさんは窘められると、明後日の方を向く。そんなイージスさんの言動に、アニーさんは困ったようにため息をつく


「とにかく、私たちではこの鉱石があったところで、どうにもならないわ」


「エデニア教国に売るとかは…?」


「採掘と輸送の費用を考えると、大した額にはならないと思うわ。それに、魔導石の材料を何故知っている?と、教会騎士から詰められてしまうかもね」


 確かに門前払いどころか、エデニア教国に捕らえられそうだな。


「うおっ!何だこれ!凄いな!」


 ハスターさんの驚きの声が聞こえたので振り向くと、デュバルさん、ミールさんと共に、こちらに入ってくるところだった。


 先頭を歩くデュバルさんがアニーさんに頷くと、アニーさんもイージスさん、ルシウスさんと視線を合わせ頷きあった。何だろう?


「終わりました」


 と、突如、ノルンも立ち上がる。種植えが終わったようで、衣服についた土を払う。


「それでは帰りましょうか。…フェルンさん、ノルンさん」


 アニーさんがわざわざ名前を呼んで、こちらに向き直る。イージスさんとルシウスさんもこちらを見る中、その顔は真剣な顔付きで、俺も背筋を伸ばす。


「あなたたちお二人に、大切なお話があります」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ