第24話:砂煙の疾風戦
オアシスに向かった時よりも小型の船に乗り込み、2匹のデザートレーに手綱から合図が通ると、勢いよく飛び出す。ぐんぐんと速度を上げると、オアシスに来るとき以上の速度で、砂漠を風のように切っていく。
手綱を握るイージスさんの顔は険しく、前方を睨みつけるかのようだが、視線の先には砂の丘しか見えていない。
「そう言えば、砂賊というのは?」
隣にいるアニーさんに尋ねてみる。砂賊…名前から砂漠にいる盗賊と思われるが。
「簡単に言えば、盗賊よ。砂漠で活動をしているから、私たちは砂賊と呼んでいるの」
「悪い人たちなんですか?」
ノルンの言葉に、アニーさんは少し俯く。どう言うべきか迷っているのか、考え込む表情をすると、言葉を選ぶかのように、ゆっくりと話す。
「そうね。商人や積荷を狙って襲っている事実からすれば、悪い人たちね。ただ彼らは被害者でもあるの」
「被害者?」
「ええ。あなた達が王都の状況をどこまで知っているかわからないけど、彼らはその王都、いえ王政の被害者たちよ」
フラーシさんが話していたことを思い出す。出都税のことだろうか。
「今の王都は、圧政や重税のせいで人々は日々の生活に苦しんでいます。けど逃げ出そうにも高額な出都税に阻まれ、過酷な労働を強いられる。それでもなんとかして王都を出ても、路頭に迷い、いつしか盗賊に身を落とす。いえ、違うわね。生きるためには、盗賊まがいのことをするしかないのよ」
アニーさんは俯く。その顔は何かに耐えているかのようだった。
「ですから、彼らのことは殺さないで。今はそうでも、いつか、いえ近いうちに救ってみせるから」
顔を上げたアニーさんは何かを決意しているかのようにまっすぐと前を見る。イージスさんも聞いていたのか、険しい顔は無くなり、同じように何かを覚悟しているかのようだった。
「ん?いた!あそこだ!」
イージスさんの声に前方へと視線を移す。そこには一隻の砂上船が見える。そしてその周りには、何かが高速で移動し、砂煙を周囲に振りまいていた。2足歩行の魔獣に見えるが…。
「あれは、ライザード…!あんなものまで彼らは持ち出したの…!?」
近づくにつれ、走り回っている魔獣がはっきり見えてきた。2足歩行の鳥のようだが、胴体は鱗に覆われている。頭と尻尾は羽根に覆われ、両腕は鳥の翼のようだが、飛ぶ様子はなく、時折ギャァ!と不気味な声を発している。時折羽ばたいているのは、翼をうまく活用しているのだろう。その速度はデザートレーよりも速く見える。
「軍用のとは違うな。おそらく野生のライザード、サンド・ライザードだ。調教師でもいるのかもな。とにかく走り回っている奴らをどうにかしないと」
「突っ込むのよ!」
「え、はあ?」
アニーさんから返ってきた言葉が想定外だったのか、イージスさんが振り向く。
「だから突っ込むの!ハスターたちと合流するために、突っ込んで動きを鈍らせるのよ!」
アニーさんがイージスさんが持っていた手綱を奪うと、一気に動かす。すると、2匹のデザートレーが、待ってましたと言わんばかりに、速度を出し始めた。いきなり速度が上がったため、ノルンもイージスさんも、そして俺も船の縁にしがみつく。
ただただまっすぐ進んだ俺たちの砂上船は、途中、砂賊にぶつかりそうになるが、うわぁ!と叫び声を上げながら、無理矢理、方向転換をする。おかげで衝突することなく、守るべき砂上船の横に止める。
「アニー様!」
上方からの声に顔を上げると、砂上船の縁から、短髪の女性がこちらを覗いていた。
「ミール!無事なのね!」
「レーがライザードに怯えて、動けない…!ハスターが威嚇はしてるけど…!」
その声と同時にヒュッ!と音が鳴り、矢が飛んでいく。ライザードを直接は狙っていないのだろう。手前に矢が刺さるが、ライザードはすでに離れたとこにいる。
「おい、イージス!ボサッとしてないで、なんとかしろ!」
さらに上の方から声が届く。ハスターと呼ばれている方だろう。
「デュバルと言い、無茶を言ってくれる。しかしここで眺めていても仕方ない。なんとか奴らの動きを止めないと」
そう言いながらイージスさんは剣を抜く。アニーさんも剣を抜くのを見て俺も左腰にぶら下がった剣を抜く。
と、肩のところをトントンと叩かれた。振り向くとノルンが笑顔で立っていた。
「私にいい考えがあります。フェルン、守ってね」
それだけ言うと、止める間も無くノルンは砂上船から降りて、走っていってしまう。
「え、ちょっ!ノルン危ないって!」
急いで砂上船を飛び降り追いかけると、ノルンはポケットから黄色い魔導石を取り出し両手に持つ。そして向かってきたライザードに手を向ける。
「遍くを包む大地の抱擁!」
轟音と共に、砂漠に土壁が地上から現れる。目の前に突如壁が現れたことに驚いたのか、ライザードが急停止し上体を起こしたため、乗っていた砂賊が砂地に放り出される。それを見逃さず駆け寄ると、地面に伏せた砂賊の腕をひねりあげる。
「い、いい痛いです!」
砂賊は悲鳴を上げて暴れようとするが、力づくで抑える。そこにノルンが駆け寄ってきた。
「これなら砂賊を殺さずに捕まえられるよ」
ノルンは名案でしょ、と言わんばかりに自慢げな顔をする。
「何をするかと思えば、、、急に出ていったら危ないだろう」
「ふふっ。でも、いい作戦だわ」
追いついてきたイージスさんが呆れた顔でぼやく。その後ろをついてきたアニーさんは笑っていた。
だがイージスさんはすぐに厳しい目つきで周囲を見渡す。
「いや、もう警戒されている。向こうからノルンさんの近くに、わざわざ寄ってこないだろう」
イージスさんの言葉に周囲を見渡す。確かに既に周囲からは遠巻きになっており、その速度も活かして迂回しながら砂上船の包囲を始めていた。こちらは無視するつもりなのだろう。
ノルンが、名案と思ったのに、と呟くが、砂賊を振り落として立ち止まっているライザードを見ながら、さらに名案を思いつく。
「いや、これならノルンの作戦が生きるかも…!」
抑えていた砂賊をイージスさんに預けると、ライザードに駆け寄り、手綱を使って背に乗る。急に乗られてびっくりしたのか、ライザードが暴れるが、なんとか振り落とされないように手綱を握りしめる。
「ノルン!」
なんとか乗ったままノルンに近づき、手を差し伸べる。何もわかってなさそうだが、手を伸ばしてくれたので、掴むと一気に引き寄せて、後ろに乗せる。
「それじゃあ、行くよ!」
ノルンが乗ったことでさらに暴れそうだったので、手綱をそれっぽく動かすと、ライザードは少しづつ走り始め、ぐんぐんと速度を上げる。
「ちょっ、フェルン!も、もも、もうちょっと!もうちょっと、ゆっくり!落ちちゃうよ!」
「無理!走ってくれたけど言う事聞いてくれそうにないや!だから俺にしっかり捕まって!」
縦への動きも激しく、お尻も痛い。だが昔ホッセルに初めて乗ったときのことを思い出しながら、なんとか感覚を掴む。ホッセルのような穏やかさは微塵も感じないが、なんと乗りこなせそうだ。
「これでアイツらを追い回すから、ノルンは魔導石で攻撃して!」
「え!で、でも、こ、こんな振動じゃあ…!」
「大丈夫!俺がなんとかするから!」
なんとかできるかわからないが、そう言うと、ノルンは少し黙っていたが、肩越しに頷くのがわかった。
「私のこと、振り落とさないでよ!」
そう言うと、ノルンは右手に魔導石を持つ。
「任せろ!まずはアイツだ!」
目の前を走るライザードの後方を走る。周囲を砂煙が覆っているが、姿が隠れるほどもなく、砂賊には気付かれている。しかし逃げてもこちらもライザード。そう簡単には離れない。
「く、来るなー!」
こちらに向かって弱々しい声をあげるが、追う速度は緩めない。
「穿ち燃え盛る赫き弾!」
直線上に入るとノルンは唱える。すると砂煙を割るように火の弾丸が飛んでいき、前方を走るライザードの足元に命中する。砂が弾け、乗っていた砂賊もろとも吹っ飛ばす。
「さすがノルン!このまま行くよ!」
「はい!」
それからはノルンと協力し、フレイム・バレット、アースウォールを駆使しながら、次々と砂賊たちを追い詰めていく。そして最後の1人を追いかける。
「ちっ!クソ共が、ふざけやがって…!」
他の砂賊とは違い、あきらかにこちらを敵視するかのように、こちらを睨みつけてきた。
ノルンが狙いをすませてフレイム・バレットを放つ。が、直線的なフレイム・バレットの動きを読まれたのか、急な方向転換で避けられる。前方で砂地に着弾したせいか、砂煙が一気に視界を覆うように巻き起こるが、日の光に反射した剣が、一瞬だけ砂煙から覗く。
頭で考えるよりも身体が危険を感じ、ライザードで急いで旋回をしたのが間違いだった。
「あーー」
その声と同時に、腰に回っていたノルンの腕がすり抜けていく。振り向くと、こちらに腕を伸ばすノルンと、鈍く光を放つ剣の切っ先が視界に映る。咄嗟に身体を捻り、手と足でライザードを押しのけると、ノルンに向かって飛び出す。剣先がノルンに届く前に…!と願いながら、彼女の腕を掴む。すぐさま名一杯に抱き寄せる。そして剣が身体に食い込む感触を想像し、背中に痛みが来るのを耐えるため、目を瞑る。視界が真っ暗の中、ヒュッ!と風を切るかすかな音と、ぐっ…!とうめき声が聞こえると同時に、砂地の暑い感触が全身を覆った。
「フェルン!」
すぐにノルンが起き上がり、俺の身体を見渡すが、何も怪我していないことがわかると、安堵のため息をついた。
すれ違った砂賊に目を向けると、砂賊はライザードに振り落とされてはいないものの、剣を持っていた右腕に一本の矢が刺さり、傷の近くを押さえていた。
「クソっ…!覚えていろよ…!」
怒りに満ちた声を上げながら、ライザードを走らせ去っていく。
「大丈夫か…!」
ライザードに乗ったイージスさんとアニーさんが駆け寄ってきた。それぞれライザードを奪ったようで、跨がる二人の姿は、何故か様になっていた。ライザードの操縦も慣れた手つきに見える。
「大丈夫です。ハスターさん…に助けられましたから」
砂上船の方に目を向けると、矢を射ったハスターさんが、こちらに向かって手を上げていた。




