第22話:砂に囲まれたオアシス
出発からしばらくして、船が再度減速し始める。また魔物が出たのかと前方を見ると、建物らしき形が見えてきた。
「見えてきましたね。あれが私たちの村、オアシスです」
横で手綱を握りながらアニーさんが答える。無事に到着したからか、彼女はホッと安堵したように見えた。
船は減速しながら村の裏手に回る。すると停泊所のような場所が見え、他の砂上船も停泊していた。どの船も積荷を乗せたり降ろしたりと、屈強な人たちが動き回っていた。
乗っている船はゆっくりと停泊所を進み、一番奥へと進む。
「アニー様!おかえりなさい!」
停泊所にいた一人の男が、大声をあげながら、こちらに手を振る。それに気付いた周りの人たちも、次々とアニーさんに向かって挨拶をし始める。
「みんな、ただいま!今日は大物があるから、みんなよろしくね!」
アニーさんは停泊所に向かって両手を振りながら、大声で挨拶を返す。彼女の大物発言に停泊所にいた人たち全員がこちらを見た…気がする。しかし、すぐに大きな歓声でかき消える。
「大物ってなんでしょうか?」
感じた視線はどこにもなく、勘違い…?と思っていたら、ノルンが横へ来て小声で話しかけてきた。
「…さあ? なんだろうね。積荷の中に何かあるのかな?」
ノルンは気付かなかったのかな?と思いつつ、船に積まれている荷物を見上げる。大きいものは見当たらないが、まあ価値のあるもの、という意味なら、中身を見ないとわからないけど。
ただそれ以上に停泊所にいる人たちが気になる。
「…どうかされました? なんだか難しい顔していますよ?」
顔に出ていたようで、ノルンがこちらの顔を覗き込む。
「あ、いや。大したことないよ。ただ…なんだかみんな意外とガタイがいいな、と思って」
「…そうですね。やっぱり重い荷物の運び込みをしているからですかね。あの女性の方の腕も、筋肉ムキムキですよ」
ノルンの視線の先にいた女性は、確かに腕が太い。太いのだが、ただ筋肉があるというだけではない気がする。動きが洗練されている…と言えばよいのか。
「私もここで暮らしたら、あんな筋肉をつけられるんですかね?」
とノルンが言うので、つい筋肉ムキムキのノルンを想像して…思わず吹き出してしまった。ノルンには似合わないな。
「フェルン、何を想像したんですか?」
ノルンにジト目で見られてしまった。吹き出してしまったからだが、速攻で想像したのがバレてしまった。
「いや、うん。ノルンはそのままがいいと思うよ」
ノルンが不服そうな顔をしていると、砂上船が大きな音を立てて止まった。デュバルさんは淡々と荷解きをし、イージスさんはこちらを一瞥すると、フリッツさんと何か会話した後に、積荷を持って降りていく。
「さあ、私たちも降りましょう。まずはフェルンさんの治療をしなくては、ですね」
アニーさんと、イージスさんとの会話から戻ってきたフリッツさんに促され、ノルンと一緒に砂上船を降りた。
* * *
オアシスを一言で表すなら、不快なほど暑い。ジリジリと照りつける太陽は、皮膚を徐々に焦がしているようにも感じられ、今にも黒くなってしまいそうだ。また遠く離れた箇所を見ると、なんだか揺らめいているようで、砂の丘が揺れているように見える。砂上船の上も暑かったが、日除けの屋根や走行中の風もあったため、それほど不快な気持ちにはならなかった。
「たった少ししか歩いてないですが、暑いですね…」
横を歩くノルンの顔には、暑さで汗が浮かび始めていた。
「慣れるとそうでもなくなりますよ。あ、あちらの建物で診させてください」
フリッツさんはそう言いつつも、彼も顔に汗をかいており、手でパタパタと扇いでいた。慣れても暑いものは暑いのだろう。
フリッツさんが示した先には、他の建物よりも一回り大きな建物が立っていた。その前で止まると、扉を押し開ける。中に促されたので、アニーさんを先頭に中へと入る。
建物の内部は大きな窓から光が差し込み、室内は明るい。高くは無いが天井から丸い器が吊るされていた。この景色に見覚えがある。
「ここは…教会?」
オルドレアンの教会を思い浮かべながら、思ったことをポツリと漏らすと、それを聞いていたアニーさんが頷く。
「ええ、アペイロン教の教会です。教会には希少な回復系の魔導石もありますから、診療所も兼ねているんですよ」
アニーさんはそのまま教会の奥に進むと、奥の扉を開ける。開けた先の部屋には、神父さんが椅子に座っていた。
「おお、これはアニー様。お戻りになられたと聞いていましたが、どうかなされましたか?」
「こんにちは、アーキンスさん。実は彼の容態を見ていただきたく」
アニーさんが部屋の中に入り、アーキンスと呼ばれた神父さんに俺を見せるようにずれる。
「そちらの方は…?」
「旅先であった、フェルンさんよ。奥にいるのはノルンさん。お二人で旅をされていたのだけど、途中、大型の魔物に襲われていたところを助けたの。ただ応急処置はしたものの、大怪我を負っていたから、見ていただきたいの」
アニーさんはそう言うが、俺自身は応急処置で十分な気もするが…。起きた当初は傷だらけで、動くにも痛みがあったが、拠点で休んでいたこともあり、だいぶ良くなっている。あとはお腹に痛みが残っているくらいだが…。
「…なるほど。承知いたしました」
「急なお願いですみません」
「いえいえ。これくらい、どうってことありませんよ。さて、フェルンさん、どこか痛みとかありますか?」
「えっと…そうですね。ほとんど痛みはないですが、お腹に痛みというか違和感はありますね」
お腹の傷口周りを擦る。たぶん最後の巨大ナイトアンタに吹っ飛ばされたときにできた傷と思われる。
「巨大な魔物の攻撃を正面から受けたようで、お腹に大怪我をしてしまっていたんです」
「ええっ!」
後ろから話すフリッツさんの声に、つい大声を上げてしまった。その声に今度は周りのみんなが驚く。
「フェルン、気付いてなかったの?」
ノルンも信じられない、といった顔で驚いていた。アニーさんとフリッツさんも似たような表情でこちらを見ていた。知らないのは俺だけだったらしい。どうりでノルンが泣くほど心配するわけだ。
「攻撃で吹っ飛ばされた後、すぐ気絶されていましたからね。ノルンさんのファスト・ヒールと、フリッツの処置が無ければ、危なかったんですよ」
そうだったのか。起きてからずっと包帯が巻かれていたし、包帯を外したときは、多少の痛みはあるものの、傷口は不自然なほどきれいに塞がっていたから、もうほぼ治っているものだと思っていた。
「外の傷は良くても、内側はボロボロだったんですね」
巨大なナイトアンタの影を思い出すと、身体の内部が痛みだした。アニーさんたちがいなければ、こんな傷どころではなかったのだろう。
「ほっほ。それだけ元気であれば大丈夫でしょうが、こちらで見ましょうかね。フリッツさん、お願いできますか」
「ええ。もちろんです」
フリッツさんが中に入り、アーキンスさんと一緒に診察が始まった。




