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絶望と希望の英雄譚  作者: いなり
第一章:交錯編

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第14話:祭り上げられた黒幕

「すみませーん!誰かいませんかー!」


 鉄格子を掴み、声に比例して激しく揺らしながら、入口に声をかけ続ける。だが、声は石壁に反響し、牢屋に響くだけだった。


「す、み、ま、せーん!」


「うるっせーぞ!あぁん!おボスが寝てるだろうが!あぁん!」


 入り口とは反対方向の石壁から、聞き覚えのある声が聞こえてきた。


「まあ待て、セッタ。こんなところに入れられたら、喚きたくなるのも仕方ねーさ」


 よっこらせ、っと声が聞こえる。どうやら隣の牢にいるようだ。


「ようよう、お隣さんよ。そんな大声出したところで、何の意味もねーよ。ここはとある貴族様の地下牢だからな。呼んだところで、誰も来やしねーさ」


 この声は、確か昨日ノルンに絡んでいた、おボスと呼ばれていた男だ。どうやら彼らもここに捕まっていたみたいだ。


「お前たちなんでここに…?」


「ん…?お、なんだ、お前フェルン・ニールか!」


 こちらが問いかけると、思い出したのか、急におボスから名前を呼ばれた。


「そうかそうか、捕まったのか。これは傑作だぜ。じゃあこれは返してやらないとな!セッタ!」


「ほらよ!あぁん!」


 セッタの腕が石壁の向こうから伸び、何かが放り投げられ、鉄格子の前の床に落ちる。それは落としたと思っていた財布だった。


「! お前たちが拾っていたのか!」


 そう言うと、一拍おいて隣にいる3人が、大声で笑い始めた。


「拾っていた、だぁ?どこまでお人好しな野郎なんだ。盗ったんだよ、お前からな」


「な!いつの間に…」


「俺たちに絡んできたときにな。わかりやすいとこに財布なんぞ仕舞っているから、ついつい手が伸びちまったよ」


 がははは!とまた大笑いする。笑い声を聞きながら、少しずつ怒りが込み上げてくる。


「お前ら、いい加減にしろよ…!ノルンに絡んだり、俺の財布を盗んだり…!」


「はぁ?知ったこっちゃねーな。そもそも財布を盗り易いところに、仕舞っている方が悪いんだよ。大事なら、もっと大事なとこにしまっとけよ」


「ふんどしの中とかな!」


 ブットの野太い声が、相打ちのように返ってくる。ちげーねぇ!とまた3人で笑い始めた。


「ふざけやがって…!」


 鉄格子の隙間から財布を掴みつつ、腹の中は煮えくり返っていた。笑われていることもそうだが、盗んだことを悪いと思っていないことにも腹が立つ。


 財布の中にも何も無いのだろう、と確かめてみると、意外にもほぼ全額残っていた。


「中身は盗らなかったのか…?」


 そう思い呟くと、急におボスの笑い声が止まる。セッタとブットはまだ笑っていた。


「おいセッタ。金は盗ってねーのか?」


「へい!そのまま返しやした!」


 笑い続けていたセッタの返事が急に止み、直後にと何かを叩く音が響いた。


「なんで金を抜いとかねーんだよ!あとで宴会の金にするっつっただろう!」


「で、でも、おボスが返してやれって…」


「財布だけ返しゃいいだろうが!金は自分の財布にでも入れとけよ!」


「オレ、財布を落としてて…」


「お前は落としたんかいっ!」


 おボスの軽快なツッコミが響く。しばらく声にもならない歯がゆい音が聞こえてきたが、落ち着いたのか、一度だけ咳払いをする。


「ま、まあいい。どうせお前は出られねーんだ。金なんぞ持っても仕方ねーだろうよ」


 どういうことか問いただそうとしたが、いきなり入り口の扉が、大きな音とともに開かれた。


 入り口の方に視線を向けると、小太りの青年が立っており、後ろには二人の兵士が立っていた。小太りの青年がこちらの視線に気付くと、不敵な笑みを浮かべ、歩き出す。それに合わせて後ろの二人も歩き出し、鉄格子越しに、目の前で止まる。


 こちらを値踏みするかのように、上から下までゆっくりと眺める。


「お前がフェルン・ニールか!ふん、そっちの男ども同様、田舎者な貧相な格好だな」


 その言い分に腹が立ち、誰だ、と言うより早く、隣の牢からおボスの声が先に聞こえてきた。


「ド、ドラム様〜!こ、この男です!この男に脅されて、あんなことをしちまったんです〜!」


 聞こえてきた声は、さっきとは全く違う、媚を売るような甘ったるい声だった。正直、気持ち悪い。


「俺たちもあんなことは良くないと思っていたんですが、この男が命令してくるもんだから、ついやっちまったんですよ〜!」


 と言うか、脅したとか、命令したとか、なんの話だよ。


「なるほどな。お前がこいつらを脅し、命令して、俺の大事なコレクションを盗もうとしやがったんだな。他人の手を汚して自分は助かろうなんぞ、どこまでも貧相な考えをしてやがるんだか」


 両の手の平を上に向け、首を横に振る。


「…は?」


 言われたことの理解が追いつかなかったが、どうやらおボスたちが嘘をつき、自分が犯罪の黒幕と話していたらしい。


「お、俺はそんな命令も脅しもしてなんかいない!あいつらがデタラメな嘘をついているだけだ!」


「ふん。犯罪者はみなそう言うだろうよ」


「違うよ!そもそもあいつらと会ったのだって昨日が初めてで、よく知らねーんだから!」


「そ、そんなあんまりです〜!これまでボスの為にいっぱい働いてきたのに〜」


 間髪入れずに、おボスが嘘の証言を続ける。


「ふざけんな!お前らに指示も脅しもしたことないだろ!」


「ひぃ!!」


 こちらの怒鳴り声に、怯えたような声をあげる。さっきまで大笑いしてたじゃないかよ!


「ふん。決まりだな。部下を簡単に切り捨てるとは、貧相どころか、底辺野郎だな。俺様みたいな高貴な心を持ったやつとは、人として器が違う。そう思うだろ、お前ら!」


 後ろに立っていた二人の兵士に声をかけるが、声をかけられた二人は顔を見合わせると、戸惑いながら頷いた。


「あぁ?声が小せえなぁ?」


「「は、はい!そ、そのとおりだと思います」」


 ドラムに再び大声で促されると、直立した姿で同時に叫んだ。ドラムの方こそ、脅しているではないか。


「偉そうに…!さっきから何なんだよ!お前は!」


「はぁ…。お前は頭も貧相なのかよ」


 大袈裟にため息をついて見せた後に、おそらく胸だろう箇所を張る。太っているせいか、ほぼ腹が前に出た状態だが。


「よく覚えておけ。俺様はこのオルドレアンを束ねる領主、の息子、ドラム・スコーン様だ!」


 一区切りつけ、呼吸を整えると、再度続ける。


「そして、近いうちに、この王国でもっとも有名な騎士となる名前だ!」


「騎士…?」


 その体格で騎士になるのか、と思ったが、ドラムはこちらの反応も気にせず続けた。


「貧相なお前でもわかるように説明してやる!」


 険しい顔をして、こちらに指を突きつけてきた。


「お前はその領主の息子たる俺様の部屋から、こいつらを使って、俺様のコレクションを盗もうとした!だが、この街の兵士に指示を出せる俺様が、こいつらを迅速に捕まえたのだ。更に、こいつらの証言から首謀者、つまりお前の名前を俺様が聞き出し、俺様が街中に指名手配することで、迅速にお前を捉えることができたのだ」


 一気に巻くしたてるように言ったためか、はぁ、はぁ、と肩で息をしている。騎士にしては随分と体力が無いようだ。


「いやいや、俺の証言はどうなんだよ?何も聞いていないじゃないか!」


「ふん。首謀者の証言なんぞ、聞く必要なんぞないだろ。そもそも俺様のコレクションに手を出した時点で、処刑一択だ!」


 鉄格子を挟んで顔をギリギリまで近付けてくると、ドスの聞いた声で呟いてきた。


「俺様のコレクションに手を出したことを、死んで公開しやがれ」


 それだけ言うと、顔を離し、勝ち誇ったような顔を見せてきた。


「あの〜ドラム様〜」


 隣からおボスの声が聞こえてきたため、ドラムとともにそちらに顔を向ける。


「お約束通り、首謀者を捕まえることに手助けしたので、褒美にそろそろ解放していただけますかね…?」


 こいつらは濡れ衣どころか、自分たちが助かるために、勝手に首謀者に仕立て上げやがったのか。


 ドラムはゆっくりした足取りで、隣の牢へと歩いていく。


「そうだったな。褒美をやるぞ。処刑という名の褒美をな」


「…は?」


 ドラムはわざとらしく、大きくため息をついてみせる。


「お前は俺様の貴重な話を何も聞いてなかったのか。言っただろう、俺様のコレクションに手を出した時点で、処刑一択だと」


「テメー!約束が違うじゃねーか!」


 ガシャン!と鉄格子を掴んだのか、大きな音がなる。さっきまでの甘ったるい声でなく、素の声が出ていた。


「ふん。犯罪者との約束なんぞ、守るわけがないだろ」


「ふざけんな、この野郎!」


 おボスの怒声もどこ吹く風。ドラムは気にした様子もなく、ゆっくりと兵士と共に入り口に歩みを進める。


 そして、扉の前でこちらに振り返る。


「俺様の優しさだ。処刑の日は事前に連絡してやるよ。せいぜい首をキレイにしておくことだな」


 勝ち誇った笑みを浮かべると、扉に向き直り、高笑いをしながら去っていった。

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