第11話:旧時代の遺物
「やった…!」
立ち上がると同時に、装置の方からノルンの嬉しそうな声があがった。
剣を鞘にしまいながら装置の方を見ると、ノルンがこちらに駆け寄ってくる。
「フェルン大丈夫?怪我はない?」
ノルンは言いながら、身体の周りを動きまわり、傷がないか確かめているようだ。
「大丈夫。どれもかすり傷程度だよ」
転がりながらも避けた甲斐もあり、大きな傷には至らずに済んだ。かすり傷は多いけど…。
「そのかすり傷だらけだよ。ちょっと待ってて」
ノルンは小さな鞄の中に手を入れると、鮮やかな黄色の魔導石を1つ取り出した。それを胸の前で両手に持つと静かに唱える。
「静かに包む仮初の微光」
ノルンの言葉に合わせ、身体全体を淡い光で覆われる。すると痛みが無くなるまではいかないものの、和らぐのを感じる。よく見れば、出血も止まったようだ。
淡い光がおさまると同時に、パキッと割れた音がし、ノルンの方を見る。
「これで大丈夫ですよ」
ニコリと微笑み、ノルンが両手を広げると、魔導石が割れていた。使われたことを示すように、鈍い黄色へと変わっていた。
「いや〜、助かりました〜」
横から声をかけられ視線を移すと、追われていた男性がこちらに向かって歩いてきた。
「走り疲れていたみたいですが、大丈夫ですか?」
「ええ、おかげさまで。遺物の後ろでゆっくり休憩できたんで、もう大丈夫ですよ」
はっはっは、と笑っている。元気そうで良かった。
「おっと、紹介が遅れましたな。自分、リアファル・ユードシルと申すものだ。以後、お見知りおきを」
眼鏡を軽く押し上げ位置を直しながら、優雅に腰を曲げる。
「フェルン・ニールです」
右手を差し出すと、リアファルさんも右手を出し握手を交わす。
「ノルン・カデンツァです」
「そう言えば、何でリアファルさんはナイトアンタに追われていたんだ?」
「いやーなに、ちょっとした知的好奇心によるものさ。ここに来る途中でアンタの住処を見つけてね。アンタの住処とは、どれくらいの大きさか、と気になってしまい、つい穴の中に入ったんだよ。そしたら入り口のすぐ右側が大きな部屋となっていて、そこにナイトアンタがいたってわけさ。で、いきなり襲いかかってきたもんだから、急いで逃げ出したところで、君たちに出会った、と言うわけさ」
はっはっは、とリアファルさんは笑っているが、どう考えてもリアファルさんがおかしいとわかった。同じように聞いていたノルンも、頬を引つらせていた。
「要するに、アンタの巣を突っついたってわけだ…」
内容に呆れつつ、深いため息を吐いた。
「うん。まあ簡単に言うとそう言うことだね!」
いい笑顔で親指を立てる。
必死に逃げてたはずなのに、なんでこの人は、うまく行ったぜ!みたいな顔をするんだよ。
「ところで君たちこそ、こんなところで何を?研究員…ではなさそうだね?」
リアファルさんが、自分とノルンの格好を交互に見る。
「私達は薬草の採取と、これを植えに来たんです」
ノルンは小さい鞄から種を取り出し、手の上に乗せる。手に乗せられた種を、リアファルさんが眼鏡の向こうで目を細めて見る。
「ふむ。これは…なんだ?植えると言うことは、種かい?」
どうやらリアファルさんも知らない種のようだ。
「実は私も知らないんです。でもこの種を教えてくれた方は、この悪さをする装置を止めるための、特別な種だと教えていただいたんです」
「悪さをする装置…?もしかして遺物のことか?」
リアファルさんが後ろにそびえ立つ装置に視線を向ける。どうやら装置のことを知っているようだ。
「もしかして、これが何の装置か知っているのか?」
「いや、さっぱり」
自分の問いかけに対して、リアファルさんの簡潔すぎる言葉に、思わずコケそうになる。
「いやー遺物の研究と言うのは教会が進めているが、ほとんどのことがわかっていないんだ。いや遺物に限らず、旧時代のことは、というのが正しいかな。
これもその一つさ。旧時代に建てられたこと、あらゆる地域に同じものが存在していること、そして今なお稼働していることはわかっている。が、それ以外のことはなんにもわかっていないんだ」
リアファルさんは首をかしげながら、両手をあげる。けれど、名前すら知らなかった自分たちよりも詳しい。
「…リアファルさんは遺物について、お詳しいのですね」
「それはそうさ。自分はもともと、教会で遺物の研究をしていたからね」
リアファルさんが腰に手を当て、自慢げに胸をそらす。そのリアファルさんの言葉に、ノルンが目を丸くする。
「教会の方だったんですね…!」
「ま、元だけどね。何年も前に教会から追い出されちゃったから、今は自分のやりたい研究をしている身さ」
やれやれ、といった感じで肩をすくめる。
「それは…すみません」
追い出された、という言葉に、嫌なことを思い出させてしまったと思ったのか、ノルンが謝る。
「謝ることなんてないさ。自分がやりたい研究を優先して、遺物の研究をしなかったことが原因だからね」
はっはっは、と全く気にした様子が無いかのように笑う。
「ついでに言うと、研究資料を持ち逃げしたから、教会から追われている身さ」
はっはっは、と、これまた全く気にしていないように笑った。いや、本当に全く気にしていないと、ここまでの会話から確信できる自信がある。
「いやいやいや。それは笑い事じゃないだろ。盗んだってことだろ?」
リアファルさんは笑いをおさめて考え込むが、次の瞬間には、いい笑顔で親指を立ててみせた。
何なんだ、この人…。
「まあ、いいや。それよりノルン、種を植えようよ」
リアファルさんに飲まれていたノルンがハッとする。
「あ、そ、そうですね。植えてしまいましょう」
ノルンは遺物に近い位置に、鞄から取り出した道具で穴を掘る。あまり深くは掘る必要ないのか、浅めの穴に種を入れると、土を被せ、トントンと埋めた土を叩く。
「水は持ってきているのか?」
静かにノルンの行動を見ていたリアファルさんが、水が周りに無いのを気付き、ノルンに声をかける。
「水はいらないそうです」
「ほぅ。となると乾燥した土でも育つ植物ってことか」
ふむふむ、と何度か頷く。
「そう言えば、リアファルさんもここに何か用があったんじゃないのか?」
種のことで思案しているリアファルさんに尋ねると、こちらに顔を向けて呆けていたが、急に何かを思い出したかのように目を見開く。
「そうだ、そうだった!」
それだけ言うと、何かに取り憑かれたように、一目散に遺物の方へと走って向かって行ってしまった。
「あ、リアファルさん、もうすぐ日が沈みますよ!」
日が沈んでしまうと森の中は動きにくくなってしまう。なので、その前には森を抜けてしまいたい。だが、リアファルさんは聞こえていないのか、遺物の周りを移動しては、時折止まって何かを確認しているようだ。
「少しくらいなら、待ちますか?」
ノルンが横に並び、こちらに確認してきた。
「まあ、そうだな。アンタの件もあるから、一人にするわけにも行かないし」
放っておいたら、またアンタの住処に突っ込むかもしれない。
そう思い、二人は様子を見ることにした。




