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恐ろしい人っ……な11話

「では授業を始めるわね」


 メルランデ様が授業場所として選んだのは、いつか俺が大恥をかいた運動場だった。


 てっきり教室で座学かと思ってたから、何をするのか少し興味がある。


 ただ、勇者パーティの一員の大魔法使いがどんな授業をするのかと興味があるのは、クラスの他の人達も同じようだった。



「魔法は頭で考えられることなら何でもできるから、剣術に応用する方法は沢山あるんだけど、今回は初級の身体強化魔法を覚えてもらおうと思ってるの」


 メルランデ様の言葉を聞いて、案外普通だなと思うと同時に、なるほど、と思った。

 初級の身体強化魔法ならば、発動も早いから実戦にも活かせるし、すぐに使えるようになるだろう。

 むしろ、なんで今まで授業に取り入れられてこなかったのか不思議なくらいだ。


「じゃあまず、見本を見せるわね」


 おお、久々にメルランデ様の剣術が見られるんだろうか。

 勇者パーティーの時は俺とレナ様がいたから、メルランデ様は魔法に専念していた。

 だけど、剣術の腕前だってそれなりのものだし、ここの教師たちにも負けることはないだろう。


 懐かしいな……いつぶりか、思い出せないくらいだな……


 そんなことを考えていると。


「レナのメイドさん?ちょっと来てくれるかしら?」


 ぼーっとして無視してしまいそうだったが、『レナのメイドさん』という称号が与えられているのは、よく考えてみなくても俺しかいなかった。


 てかほら、俺が呼ばれただけで、クラスのみんながざわついちゃってるじゃん!組手授業ずっこけ事件のせいで、クラスのみんなからの視線が冷たいような生温かいような。



「じゃあ、彼女に見本を見せてもらいましょうか」



 ざわっ、と一斉に声が上がった。


「え、えぇぇっ!?」


 実は俺も叫んでました。



「いえ……?わ、私よりも、メルランデ様がご自分で見本を見せられた方がよろしいかと……」


 ユウリ訳:お前が自分でやれよ!


「ふふ?そんなこと言って、貴女が適任だって、自分が1番分かっているでしょう?」


「はい?心当たりがありません」


 勇者だから俺が適任だってか!?残念ながら、今の俺はまともに剣は振れません!


 ……うん、ホントにね。だから、メルランデ様がご自分で見本をなさって下さい。


「ものは試しよ。ほら、剣を持って構えて?」


 メルランデ様はにっこり笑顔。

 だけどその顔圧が、断ることを拒否していた。


 まあ逆らったところで今の俺にはどうしようもないので、訓練用の剣を持って構える。


 独自の構え方だから、もしかしたら剣術のけの字も知らないようなずぶの素人に見えて、滑稽だったかもしれない。


 現に、くすくす笑い声が上がった気がする。


「ではまず、剣を自由に振ってみてくれるかしら?」


「えぇ……?」


 いや、やるけどもね?やるけど……知らないよ?



「やぁぁぁっ!」


(俺的には)全力を出して剣を振ってみたが、案の定握力が弱すぎて剣がすっぽ抜けた。


 ついでにレナ様にこーん!と当たってしまった。


「あぁっ!申し訳ありませんレナ様!」


 避けれたでしょっ!?と思いながらも、従者である俺はこの場では謝る以外の選択肢が無かった。


「メルランデ?今の、うちのユウリちゃんが恥かいただけじゃない?」


「あらあら、剣術しか使えない人はせっかちで嫌ね。これからが本題なのに」


「……ふ、ふーん?そこまで言うなら、何が起こるか見せてもらおうじゃない?」


 ちょ、ケンカしないで下さい……あなた達2人がケンカしたら、止められる人いないんだから……


「ユウリ、こっちに来てくれるかしら。そうそう、そうしたら、私の手を握って?」


「はい……」


 言われるがままに、メルランデ様の手を握る。あれ、これって……


「……はい、これでいいわ。もう一度剣を振ってみて?」


 メルランデ様の手がほんのり温かくなったかと思うと、急にダイエットの成果が出たみたいに、体が軽くなった。


 ……これは、もしかするともしかするかもしれない。


「……いきます」


 もう一度剣を構える。


 試しに、レナ様がまだ今ほどの強さになる前の動きを思い出す。


 自然と、剣を握る手に力が入る。だけど、久々に戦いの緊張感を感じられているかもしれない。


 頭の中のレナの動きに合わせて剣を振る。今回は、剣がすっぽ抜けることはなかった。


 振られた剣は、俺の頭で想像する軌跡をなぞった。背中がゾクッとして、脳内に快楽物資が溢れるのがわかった。


「ははっ……あははっ……」


 数年も前のレナ様で、記憶から作り上げた偽物だが、俺はレナ様と対等に戦っていた。



「……ちょっと、すごくない?」「常人の動きじゃないぞ……」「魔法で、あの動きに……?「しかも、あのメイドが?」



 周りの声なんて聞こえず、目の前のレナ様の亡霊と夢中になって戦った。我を忘れて、踊るように剣を振った。



「ユウリ、終わり」



 メルランデ様のその声だけが俺の世界に響くと、次の瞬間には体が重くなって、剣を持っていた手がだらんと垂れた。


 そこでようやく、平静を取り戻した。



「魔法を解いたわ。ユウリ、どうだったかしら?」


「……身体強化魔法ってすごいですね」


「そうなの。皆んな?()()()()()のユウリちゃんですら、こんなに動けるようになる身体強化魔法を、覚えてみたいと思わない?」


 メルランデ様が生徒にそう問うと、歓声が上がった。


 いや、気持ちはわかるけども。剣すらまともに振れない俺が急にあんな動きしたら、そりゃ盛り上がるよな。


 でも、俺はメルランデ様が言った『戦いの素人』って言葉が心に刺さりました。クリティカルヒットですはい。



 そして、メルランデ様がクラス全体に魔法の基礎の使い方を指導した後、生徒は自由に実践することになった。


 魔法は言葉で聞いて学ぶよりも、使ってみる方が身につくらしい。


 手が空いたメルランデ様の元に、レナ様と一緒に向かう。



「ちょっとメルランデ?アンタ、ユウリに変な魔法使ったでしょ。あれ、初級の身体強化魔法の限界超えてたじゃない?」


「あら、流石剣聖と呼ばれるだけはあるわね。そうよ、私がユウリに使ったのは中級の身体強化魔法よ」


「……にしても、あの動きは異常だと思うけど……まあ、メルランデだから仕方ないか」


 確かにメルランデ様の手を取った時、初級の身体強化魔法よりも多い魔力が流れてきた。



「ですが、なぜわたしの体が耐えられたんですか?そんなに魔力流しても、わたしの体だと壊れちゃうんじゃないですか?」


「そうね。少し前までならそうなるわね。でも、つい数日前のあの事件で、少し力を取り戻したみたいだったから。どこまで耐えられるか、試しにやってみたのよ」


「試しに……って、えぇっ!?」


 魔力流しすぎたら、最悪死に至ることもあるんだぞオイ!?

 人の体使って何しとるんじゃ!!


 という目線を送ってみたが完全スルー。


 自分の好奇心のためだけに俺の体を使って実験をしたみたいです。

 そういえばこの人頭おかしいんだったわ。

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