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いざ高き天国へ   作者: 薫風丸
第7章 天国への階段
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第314話 再生する命たち

 キラリキラリと砂の河が光りを放つ。所々で小さな渦ができたり、緩やかな波がうねったりしている。その微小な砂が、妙に強い光を帯びているときがある。ポッと浮かんでは輝き、そして沈んで消えていく。


 その河の畔で、あたしは創世の神こと酒呑童子に、肩車されたまま彼に質問した。

「いったいこれはなんでちゅか?」

「命の河だ。ここは私が管理している。この世界の命は有限だ。全ての命は死ねば全てここに戻って来るのだ。そして、別のものに生まれ変わる」


なるほど、ここは命のリサイクラー施設なのだ。命は神様の所有物、あたし達の命は神様からの借りものというわけだ。

だから、綺麗に返すも汚して返すも自由だって言ったのか。

この世界の皆が、ここに戻ってこの世界の別の命として生れ変わる。


「あの酷い絵で解るように、酒呑童子が創造するととんでもない物になってしまってのう。それで仕方なくわしが他所の世界から生物を連れて来た」


「人もでちゅか?」

「ひとも一度死んだ者を暗示かけて生まれ変わらせたのじゃ」


 神産(かみむ)()(ひの)(かみ)の神は、あたしを酒呑童子の肩から静かに下に降ろした。

痩せた旅姿の老法師は優しい目をしている。良寛さんってこんな雰囲気だったのかもしれない。やせ細った手であたしの頭を撫でてくれた。


「この世界だけでなく、おまえの前世と繋がることを教えてやろう」

神産(かみむ)()(ひの)(かみ)は空中を手招きすると、光が現れ拡散して足元に落ちた。

そこからポンと出て来たのは、フレッチャとヤモリンだった。


「ああ!ふたりともまた死んじゃったのでちゅか?」

ヤモリンはササっと頭の上に登ってきて、額からあたしを覗き込んだ。

『嬢ちゃん、よく頑張ったでゲスね』

『本当に。あなただから祟り神を鎮めることが出来たのよ。えらいわ』

フレッチャは相変わらず小さな縫いぐるみのままで可愛らしい。


『あたしは難産のとき子安の手伝いをしていた馬なの。山の神は女性で、1年に12人の子を産む安産の神なのよ。ひとは安産を願って、山の神の安産にあやかるために招く習慣があったのよ』


 お産をする家の家族は馬を山のふもとに連れて行く。すると、馬は山の神に出会うと乗せるために歩みを止める。

そこで、ひとは神が乗った馬を、お産をしている家に連れて行き、母子ともに無事にお産が済むよう神にお願いするのだ。


病院でお産をするようになり、信仰心を失った現代人は馬に神迎えをさせなくなった。お役御免になったフレッチャを山の神が気の毒に思い、神産(かみむ)()(ひの)(かみ)に異界に送るように頼んだのだという。

彼女は仔馬に生まれ変わりこの世界に転生してきたのだ。


『この世界で死ぬまでは、その記憶が思い出されなかったのよ』

「わしが封印したからな。生きている間にこの世の秘密を思い出してもらったら困るでのう」


「ヤモリンはどうしてこっちに来たのでちゅか?」

『あっしは全然おぼえてないのでゲス。でも、薄々ほかのヤモリとは違うと気が付いていたでゲス。寿命が断然長かったでゲスから』


「実はヤモリンはわしが創造したのじゃ。石垣島に行ったとき、オガサワラヤモリがメスだけと知ってのう。ちいと悪戯心で、二個産みつけられていたオガサワラヤモリの卵に手を加え、オスを作ってみたのだが…一匹逃げてしまったのじゃ。勝手なことをしたと反省したが後の祭りじゃった。

それで、残ったほうはこっちの新しい世界に連れて来たのじゃ」


それが学会に報告されたオスだったのか。残ったもう一匹がヤモリンだったという分けだ。ヤモリンの神力が、わんこ神が羨むほどあったのは、神産(かみむ)()(ひの)(かみ)が意図してヤモリンの誕生に関わったせいなのかもしれない。


「アンジェ、ふたりとも君の前世の世界から来たというわけだよ」

アンジェロ・クストーデさんはニコニコ顔で酒呑童子の後ろに控えている。

「アンジェ、神産(かみむ)()(ひの)(かみ)は私の生みの親であるが、他に兄弟をこの世界に送り込んだというわけだ」

「わしは、本来世界を生むような事はしない。だが、愛しい子のためにそれを創造しようと思った」


神産(かみむ)()(ひの)(かみ)はいきなりあたしの尻尾を掴んだ。わんこ神の忘れ形見の尻尾だ。決して痛くはないが、不安で思わず抵抗した。

彼はそんなことに構わずにグッと力を入れて引っ張った。

「シロよ。出ておいで」

「うきゃ!」

逃げようとしてステンと転んでしまった。神産(かみむ)()(ひの)(かみ)が手を放したのか?

彼の手に尻尾は握られたままだ。

真っ白な細い尻尾、それがくっついているのは…。


「わんこ!わんこ!わんこがいるでちゅ!」

真っ白ふわふわな仔犬がころんと転がり出て来た。ころころのちっちゃな白い柴犬の仔。キョトンとしているわんこ神を抱きしめた。

『あれ?わし死んだのではないのか???おお!アンジェ!』

喜んだわんこ神に無茶苦茶に顔を舐められてしまった。あたしの涙が乾ききってしまうくらい。

再会したわんこ神を抱きしめていると、神産(かみむ)()(ひの)(かみ)が屈みこんで、そっとあたしとわんこ神を腕の中に囲い込んだ。


「わしは昔、小さな仔犬の怨霊に出くわした。それが、人に祟りたくないとわしに縋って来たのじゃ」


 山裾の村にある辻にさしかかると霊の気配がした

コロリコロリと毛の生えた肉塊が転がっている。実体が無い霊だ。

キュンキュンと仔犬だった怨霊が悲し気に泣いていた。


『坊さん、坊さん、助けてよう…痛いよう…。祟りたくないよう…』

生きているうちに拷問を受けたのか、体は傷だらけ、尾は切られ、目を潰され歯は抜かれていた。ボロボロの肉塊になっても人を慕う気持ちが消えていない。


「自分は耐えきれぬほどの苦痛を負わされたのに、術者に呪いを跳ね返し、町犬のシロとして可愛がってくれた恩義のある村の民を護った。

わしは心底感心してな。それでシロを神にしてやったのじゃ」


「ちょい待ち、わんこ、ずいぶん喋り方が違うでちゅよ。今は偉そうなおじさん風の喋りなのに」

「ああ、そいつ、父の真似をして、そうなったらしい」

酒呑童子が間髪を入れずに教えてくれた。


「うひゃひゃひゃ、どうりで似合わない喋り方だと思ったんでちゅ」

『なんじゃとー!威厳があろうが!』

襲って来たわんこ神のほっぺをブニブニ伸ばす!わんこはガウガウと噛みつこうと暴れている。


話しを続けて良いですか?という神様の視線を感じて、わんことあたしは頬っぺたブニブニを止めたのだった。


「哀れに思ってのう。わしはシロに力を貸して神にしてやった。いままで意図的に神を生んだことは無い。いつも無為に任せていたが、この子はわしが意思をもって神とした。言うなれば、わしの息子じゃ」


『それじゃ、わしのおっ父か?』

「そういうことじゃ」


粗末な墨衣を着た老法師は真っ白な仔犬を抱き上げた。

あばらのういた胸に大事そうに受け止めてから、仔犬の頭を静かに撫でた。


「ああ、おまえは間違いなくわしの子じゃ。おまえはアンジェを護りこの国の人を護った。天晴れな大神じゃ。

先に来ていた酒呑童子めが、この世界を上手く回せんで、祟り神の誕生を見過ごした。

じゃが、あの子供の祟り神は大人では到底鎮められん。

だから、おまえもついでに呼んでしまおうと思ってのう。おまえなら子供が大好きだから、どうにかできるかもしれんと思ったのだよ。

だが、犬であったおまえが、この世界でどれほどの神になれるか未知数だった。


そこで、シロが気にかけていたアンジェを転生させて、子供好きな神の行いの手助けをしてもらおうと思ったのじゃ」

『なんじゃ、そうじゃったのか♪』

下に降ろしてもらうと、わんこ神は機嫌よく尻尾を振って彼の周りをぴょんぴょんと駆け回った。


「ちょっと父よ。そうすると、私は貴方が神に生んだのだから、この犬はわたしの弟か?」

「酒呑童子、おまえを滅ぼす命を下したのは一条天皇だった、そうじゃな?」

「ああ、そうと聞いているが」

「これ、シロや。おまえが神になった後、世間で大きな事件はあったか?」


『う~ん。そうじゃ、わしが丸石様と呼ばれておるとき、不二の山が噴火したと言い、住んでいる里の山が穏やかで荒らぶらないようにと、わしに村の民が祈っていたことが有ったのう』

「富士山の噴火、それは朱雀天皇のときじゃ。ようするに…」

朱雀天皇は酒呑童子を退治させた一条天皇より前の天皇だ。

ショックを受けた創世の神こと酒呑童子が叫んだ。

「この私が犬ごときの弟―――!」

わんこ神がすかさず彼に噛みついた。

『おまえには年長者への敬いを教えてやるのじゃー!』


よしよし、もっと噛みなさい!この酒呑童子が真面目に仕事しないせいで、あたしとわんこは苦労したんだから。老法師の神はわたしの肩に手を置いて微笑んだ。


「アンジェよ。おまえは前世も今世もわしの息子を助けてくれた。わしはその礼がしたいと思う。家族のいる地上に戻って人として生き抜け。されば目を掛けてやろう」


 それがどういうことなのか。後で分かることになった。

だが、その意味を考える前に生き返れると知り、嬉しくて神産(かみむ)()(ひの)(かみ)の胸に飛び込んで抱きつき感謝の言葉を存分に伝えたのだった。


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