2ー5 有希奈の悩みを聞きます!
茶会を開いてからしばらく経ちました。
最近は本当に楽しい心地の日々が続いています。
光誠も健信も3日に1度は顔を見せてくれるので、本当に1人で過ごすだけの日がないくらいなのです!
光誠は本当に生真面目な性格で、わたくしと話をして気になった事柄については帳面に覚書をとります。
興が乗ると光誠は怖いくらいに質問責めをしてくるのです。
とは言っても、わたくしがそれとなく避ける事柄は、察してくれて深くは踏み込んでは来ませんし、小さな声で「それは知らなかったな………」等と呟きながら、覚書をとる時にとても柔らかな顔をしているのが微笑ましくて、全く苦ではありません。
そうそう!
覚書をとる時に少しだけ口を尖らせるという光誠の癖を見つけた時には、可愛らしく思えて思わず吹き出してしまいました。
落ち着いた雰囲気のある光誠にも意外と幼げなところがあるものなのだと思い、初めて気づいた時には不思議と得をした気分になったものです。
健信は「ばいと」が忙しくて、光誠と比べると遊びに来てくれる回数は少なかったのですが、いつも何かとお土産を持ってきてくれるのです。
1番驚いたのは、先日の茶会に持ってきてくれた「まどれぇぬ」なるお菓子!
なんと、健信の手作りだったのです!
そして、とても美味だったのです!
有希奈は沢山の事をわたくしに話して聞かせてくれました。
今は夏休みである大学の話。
最近好きな「すまほげぇむ」の話。
光誠や健信の失敗談等。
いつもにこやかに笑いながらお話をしてくれるので、よくわからない話でも自然とわたくしも楽しくなってしまうのです。
ちなみに、1番楽しい心地になるのが、光誠・有希奈・健信の3人だけでお話しているのを眺めている時間です。
3人だけでお話する時は、会話の速度が違います! 熱量が違います!
楽しそうな3人を眺めているだけで、わたくしも何故か楽しくなってしまいます。
そうそう!
この間、健信が当代のお酒を持ってきてくれて皆で酒盛りをした時は傑作でした!
お酒が入って気分がのってきてしまったわたくし達は、夜には相応しくない程大きな声で笑い合っていたのです。
その時、ガチャン! と話し声を遮る程の音を立てて扉が開きました。
まぁちゃんが眼鏡をかけ、髪をボサボサにして、据わった目で睨み付けて来たのです。
わたくし達の喧しさが、家に仕事を持ち帰ったまぁちゃんの逆鱗に触れてしまいました!
余りの怖さに肝の冷えてしまったわたくし達の周りを、まぁちゃんは無言でゆっくりと歩き、そのまま何も言わずに退出しました。
そのすぐ後、健信は凍った空気を何とかしようと考えたのでしょう。
誇張としか思えない剽軽な仕草でまぁちゃんの真似をしたのです!
堪えられなかったわたくし達は笑いました。
潜めた笑いでは収まらず、声を上げて笑ってしまったのです。
あの時は本当に、再びまぁちゃんに怒られるのでは………? と、気が気でなかったのですが、可笑しくて仕方ありませんでした。
本当に、本当に楽しい心地の日々です。
そして、幸せな時間です。
周りに馴染む為に。
空気を凍らせる事の無いように。
お互いが歩みよる為に。
笑っている時にわたくしの頭の中からは、そういった難しく考える意識は抜け落ちていました。
何も考えず、ただ楽しいから笑う。
そんな阿呆のような振る舞いがこれほど幸せな気分になれるとは知りませんでした!
まぁちゃんと2人きりの時に言われて、ドキリとした言葉があります。
「お時ちゃん、最近きちんと笑うようになってきたね」
きっとまぁちゃんに他意は無いのです。
だって、本当に嬉しそうな顔で言ってくれたのですもの!
わたくしもとても嬉しい心地になりました。
当代守人たるまぁちゃんがそう言ってくれるという事は、わたくしもお役目をきちんと果たせているという事ですもの!
そう考えると不思議な心地にもなるのです。
お役目を果たせているという事は、次の眠りが近づくという事です。
しかし、眠ってしまうと、次に目覚めるのはいつになる事やら………
人の世は諸行無常。
当代の楽しさは、次代の楽しさをも補償する物ではないという事は知っています。
先代は5年程起きていましたので、まだまだ眠りが遠いという事はわかっているのですが………
そんな事を考えながら過ごしていた日々の午後。
わたくしと有希奈は2人で昼食を食べていました。
妙に口数の少ない様子だった有希奈が気になっていたのですが、案の定、難しい顔をして切り出して来たのです。
「ご飯食べたら、お話、いい?」
「はい。あ、お茶はわたくしが淹れますので、有希奈はお片付け、お願いしますね?」
「わかった」
お茶はわたくしが淹れます、というのは重要な根回しです。
わたくしだって、飲むなら美味しいお茶が飲みたいですから!
それに話を切り出してきた時の、有希奈の固い表情も気になりました。
些細な事かもしれませんが、そんな有希奈の緊張を解す一因に、わたくしのお茶がなれれば………とも思うのです。
お湯を沸かし、器を温め、丁寧に丁寧にお茶を用意します。
片付けを終えた有希奈と共に居間へ向かい、向かい合って座りました。
「……………………………」
「………………………………………?」
お茶を一口飲んだ有希奈は、顔を強張らせて固まってしまいました。
勿論、有希奈のように奇っ怪な物を入れたつもりはないのですが、口に合わなかったのでしょうか?
「………有希奈?」
「あ、うん! 話す! 話すから、ちょっと待って………」
「はい」
杞憂でした。
話しかけた直後、有希奈はぐぅーっと一息にお茶を飲み干したのです。
しかし、尚も有希奈は空になった器の底をじっと睨みながら動きを止めます。
何か話しにくいお話なのかしら?
それでも、このままじっと待っていても埒があきません。
わたくしは自分の器を机へ置き、席を立ちました。
そっと、静かに有希奈の隣まで歩を進め、有希奈の髪に手を添えながらにこりと微笑みました。
「有希奈………?」
「あのっ………! あのね?」
「………はい」
有希奈は勢い良くこちらを振り向き、目を爛々と光らせました。
落ち着いてもらえるように、わたくしは有希奈が手に持ったままだった器を受け取って机へ置き、改めて隣に腰掛けてから有希奈の方へ向き直りました。
「わたし、昔からどっちかっていうと男友達が多くって………」
「はい」
「だから、こういう相談できる人って今までいなくって………」
「はい」
「お時ちゃんに相談したい事があるっていうか………」
有希奈が頬を染めながら可愛らしい上目遣いでそう言います。
わたくしも嬉しさの余りに、目の前が桜色に染まったように感じました。
あんな風に言われれば、流石にわたくしでも有希奈が何を言いたいのか、ピンときました。
お年頃の女の子には良くある事です。
わたくしが嬉しかったのは、有希奈にそのような相談をされる程に自分が信頼を得ていたという事です!
「有希奈!」
「は、はい!?」
「皆まで言う必要はありません」
「お、お時ちゃん?」
「まずはお茶の練習………いえ、秘密特訓からですね!」
「秘密特訓?」
「はい! 淑女らしいところをアピールするのです!」




