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吸血鬼のみる夢は  作者: とみ
第2幕~sideお時~ 次第に仲良く
13/21

2ー4 光誠と茶会です!

「茶会を催しましょう!」

「茶会?」


ある日の夕餉の席でわたくしは有希奈に提案を致しました。


「なんで茶会?」

「古来より茶会は平素世話をかけている方を持て成し、日頃よりの感謝を伝える物………光誠と健信に於いては、初めて会ったあの時より………」

「待って待って! つまり、どうすればいいの?」

「光誠達を招いて、美味しいお茶を飲みましょう!」

「えっと………こないだもみんなでお喋りしながらお茶したよね?」


有希奈の反応を見るに、今の世では茶会という文化はあまり市民権を得た文化ではないようです。

そういえば、まぁちゃんと過ごした前回は、まぁちゃんが幼かったせいもあって、茶会などしませんでした。


よい機会です!


有希奈は快活で素晴らしい人間性を持っていますが、今一つ品位に欠ける部分がないとはいえません。

ここで有希奈に対し、淑女としての振る舞いを教えこむのも良いやもしれません。


「有希奈。持て成しの為に供する茶と、茶会を開くという事とは大きな違いがございます!」

「ど、どう違うの?」

「お時ちゃん。それは口で伝えても、有希奈には難しいと思うよ」


まぁちゃんから指摘された事には一理あります。

文化や心構えなどは言葉にしてもなかなか伝わりません。

この間学んだ「中二病」が、病の類いではなく、現代日本における文化の1つにまで昇華されているなどとは、まぁちゃんに詳しく説明されるまでなかなか理解出来なかったのですから。


何故文化にまで昇華されているのに、有希奈が昔「中二病」だった自分を恥じるのかは、ついぞわからなかったくらいです。


「では、どうすれば?」

「実際にやってみて、見せてみてってのが分かりやすいと思うよ」

「それはそうですが………」

「お時ちゃんが茶会の主催をして、光誠達を招いて、有希奈がそのお手伝いをするの」

「ほう!」

「ただし、ウチには茶の湯に使えるような和室がない」

「確かに………」

「だから、昔ながらの形式には出来ないけど、何事も経験だから。有希奈もやってみたら?」

「うん………まぁ、お時ちゃんがやりたいなら」

「ありがとう存じます!」


決まりです!


早速光誠達に招待状をお送りします。

有希奈に2人共予定のない日を確認してもらいます。

健信が「ばいと」で忙しいようで、2日後とあまり時間がありませんでした。

仕方なく、わたくしの書いた招待状を有希奈に「写メ」してもらい、「すまほ」で2人に送ってもらいました。


その後はお出しする茶と茶菓子を選んだり、持て成す居間を掃除したり………

時間に余裕はありませんでしたが、出来る限りの心配りが出来るよう、精一杯準備を整えました。





そして、茶会当日!


「有希奈、苦しかったら言ってくださいね?」

「う、うん………大丈夫だから」

「………わかりました」


わたくし達はまぁちゃんの用意してくれた衣装に着替えます。

素敵な和装です!


まぁちゃんは残念ながら仕事で参加出来ませんでしたが、感謝に堪えません。


着付けはわたくしがしたのですが、有希奈は苦しいのでは? と思う程に帯を締めさせます。

大丈夫かしらと心配になりながら、最後に髪を整えました。


「お時ちゃん、ありがと」

「有希奈?」

「光誠………褒めてくれるかな?」

「有希奈………大丈夫! 光誠も健信も、きっと喜んでくれます!」


有希奈は緊張しているようで、可愛らしく頬を染めながら鏡越しにわたくしに尋ねてきました。

有希奈がどれほど今日を楽しみにしていたか、わたくしは知っています!


有希奈のお茶の味は………その、アレですが、心配りはきっと伝わるハズですから!





「お邪魔しまー………ぁす………」

「本日はお招きに………おお!」


やがて訪れた2人は精一杯着飾ったわたくし達を見て、言葉を無くしました。

反応は薄くとも、2人が肯定的な感想を抱いてくれた事は明らかでしたので、わたくしは大満足です。

有希奈と視線を交わしながらニッコリと笑い合います。


「ようこそお越しくださいました。どうぞこちらへ………ごゆるりとお過ごしください」


2人を席に案内すると、健信が何やら包みを渡してきました。


「これは?」

「せっかくだからお土産。マドレーヌだよ」

「ヤバい! お時ちゃん、これ本当美味しいから!」

「なんと! ありがとう存じます。後程お出ししますね」


わざわざ健信が手土産を持参してくれたようです。

光誠はばつの悪そうな顔をしますが、気にする必要はないのです。

本日、2人はお客様であり、わたくし達が持て成しをする側なのですから。


有希奈と2人、一旦台所まで下がり、お茶の用意を致します。

有希奈は早速自分のお茶区画へ手を伸ばしました。

有希奈のお茶が出来るまで、わたくしが2人を持て成し、お話相手にならねばなりません。

手早く準備をし、2人の待つ居間へ戻ります。


「先ずはこちらで涼んでくださいませ」


わたくしが用意したのは、氷を入れた水だし緑茶ときな粉をまぶしたわらび餅です。

コトリコトリと2人の前に並べ、わたくしもお気に入りの椅子に腰掛けました。


「えっと………」

「あ、ありがとう」


2人はなかなか手を伸ばしません。

好みでない品を出してしまったかと不安になりましたが、光誠の言葉で謎が解けました。


「あの………正しい作法がわからないから、見苦しいかもしれないけど………」


なるほどです!

作法がわからない事で席を汚してはならないという気づかいだったのだとわかりました。

2人共、本当に好感の持てる青年です。


「作法などお気になさらないでください。今日はお茶を楽しんでいただけたら充分ですから」

「ホント!? うはぁ、良かった!」

「いや、待て健信。そういう訳にはいかないだろ」


健信はわたくしの言葉で緑茶に手を伸ばしてくれましたが、光誠はまだ飲んでくれません。

席主であるわたくしから「早く飲め」と催促するのは優美ではありません。

困ってしまいます。


こうなっては、何かひとつ作法を教えて、それだけ守ってくれたら………といった形が最も穏当かもしれません。

少しだけ考えて、2人に伝えます。


「では………嘘偽りない感想をいただく事だけ守っていただけたら」

「嘘偽りなく?」

「はい。先日、光誠はおっしゃいました。お互いが歩み寄る必要がある………と」

「そうだね」

「わたくしはまだ2人の事をよく知りません。なので、今日は2人の好まない持て成しをしてしまうかもしれません。そう思った時には、はっきりと教えていただけたら、その分2人の事を知る事が出来ます」

「それは茶会の作法じゃ………」

「良いのです! 今はわたくしが席主………わたくしが法なのです!」


頑なな光誠からツンと目を反らして言うと、光誠はため息をひとつついて、やっと緑茶に手を伸ばしてくれました。

コクリと一口飲んで、目を開きます。


「………美味しい」

「本当ですか!?」

「うん。俺の知ってる緑茶より濃い気がするのに、スッと喉を通っていく」

「光誠光誠! こっちも食ってみろよ! 本当にうまいぞ!」

「………よし」


光誠は続いて、わらび餅にも手を伸ばしました。

楊枝を突き刺し、口元に運んだところで一瞬だけ動きが止まったのが気になりました。


「そちらはどうですか………?」

「…………………」

「え? うまいだろ?」

「はっきりおっしゃってください!」


光誠がなかなか飲み込まないのが気になってしまい、思わず感想の催促をしてしまいました。

光誠はごくりと、ようやく飲みこんだ後で、緑茶を一口飲み、ポリポリと頬を掻きました。


「ごめん………きな粉、苦手なんだ」

「まあ!」

「ええ? 初耳だぞ!」

「初めて言ったからな。悪い」


なんと、付き合いの長い健信ですら、光誠のきな粉嫌いは知らなかったようです。

有希奈と2人で何を出すか考えていた際も、有希奈は何も言わなかったのですから、知らなかったのでしょう。


しかし………不思議な気分です。

光誠はまだ学生………年齢こそ違いますが、昔で言ったら元服の儀を終えていないという事だと、先々代の守人に聞いた事があります。

なのに、これだけ相手への気づかいや、自らの苦手を見せる事を善しとしないのです。


近代の若者には珍しいという称賛が半分、自分がまだまだそれほど気を遣われる存在なのだという寂しさが半分の、複雑な気持ちになってしまいました。


わたくし、駄目ですね………


まだまだ光誠とは数える程しか顔を合わせていないのに………

光誠がきな粉嫌いだと知らなかった事で、何故これほど自分を責めてしまうのでしょう。

以前に光誠がわたくしを見透かしているようだと感じた事で、わたくしも光誠を知ったつもりになってしまっていたのでしょうか。


いけません。

わたくしは傲慢でした。

まだまだわたくしは光誠の事を知らない。


わたくしが自分で言ったのです。

「ゆっくり貴方を知っていく」と。

その欲求がどんどん強まっていくのを感じました。


もっと知りたい。

光誠を知りたい。

好きな物も嫌いな物も。

知りたい!





そんな事を考えて、呆けていたわたくしの耳に「光誠! おい!」と叫ぶ健信の声が聞こえました。

我に返ったわたくしが見たのは、わらび餅の皿を机に戻す光誠の姿です。

皿からは綺麗にわらび餅が大部分のきな粉と共に消えていました。


「ええ? 何をしているのですか光誠!?」

「せっかくキミが用意してくれたんだ。残すのは失礼だって作法くらいは知ってるさ」


何故でしょう。

目の奥が熱くなりました。


好き嫌いを知らずに失礼をしてしまったわたくしを責める事なく、こちらが止める暇もなく、平らげてしまった光誠の気づかいが、何故かこんなにも嬉しい。

光誠がわたくしを気づかってくれる事が………


わたくしは思わずガタンと椅子を鳴らして立ち上がりました。

おかしいです。

こんなにも涙もろい自分を、わたくしは知らない!


何故か恥ずかしくなり、濡れた瞳を見せたくなくて「有希奈、遅いですね。様子を見てきます」と誤魔化しながら席を外しました。





台所へ続く廊下で深く深呼吸します。


落ち着きましょう。

落ち着くのです!


有希奈に見せても恥ずかしくない笑顔を作れるまで深呼吸を繰り返します。


「お時ちゃん………? どうしたの?」


ふいに有希奈の声がして、驚いて顔を上げました。

2人分のお茶とお菓子を持った有希奈がコテリと可愛らしく首をかしげていました。


「有希奈。なん………でも、ありませ………んよ?」


笑顔で有希奈に言葉を返そうとしたのですが、無理でした。

いえ、何か思うところがあった訳ではありません。

寧ろ逆です。

頭が真っ白になってしまった為、わたくしの笑顔はひきつり、言葉は途切れ途切れになっていたのです。


「そう? ならいいんだけどっ!」





渾身のお茶を光誠達に飲ませる事を楽しみにしている有希奈は、わたくしの様子を追求せずに居間へ向かいました。


彼女の持つお茶には、くりぬいた西瓜の赤い実が浮かび、お菓子はチョコレートが板のまま皿にのっていたのです。

わたくしの頭が真っ白になってしまったのも仕方ないでしょう?


わたくしは思わず閉まった居間の扉に向けて手を合わせ、目を瞑りました。

光誠達が無事に「あれ」を乗り越えられるよう、祈らずにはいられませんでしたから………

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