2ー6 有希奈の為に願います!
さあ!
秘密特訓の開始です!
それからしばらく、有希奈と2人きりの時間は、ほとんど全てお茶の特訓に充てました。
とても可愛らしいといった印象を受ける有希奈ですが、実は光誠達と同じ歳なのです!
齢20を超えてあれほどまでに快活で朗らかなのは、美徳でないとは言いませんが………
勿論、わたくしが人間だった頃とは常識が異なっているのはわかりますが、世間一般の男性が淑やかな女性を好む事は不変だと思うのです!
いつも元気いっぱいの有希奈が、淑女らしい振る舞いをして、大人の女性を見せつける事ができたら………
きっと光誠も「いちころ」です!
「ぎゃっぷ萌え」です!
わたくしは毎日、有希奈のお茶を飲みました。
朝食後………昼食後………昼過ぎのお茶の時間………夕食後………お風呂の前………お風呂の後………有希奈が寝る前………!
何杯も何杯も何杯も何杯も何杯も何杯も何杯も何杯も何杯も何杯も何杯も何杯も何杯も何杯も何杯も何杯も!
本当に何杯も飲んだのです!
あのお茶を!
あの有希奈のお茶を!!!
わたくし、本当に、本当に本当に、本当に本当に本当に!
頑張ったと思います!!!
有希奈のお茶は少しずつ、本当に少しずつですが………成長していきました。
そしてある日。
わたくしは有希奈に許可を出しました。
光誠と健信の2人が遊びに来る予定の日。
朝食後の特訓を終えた後でした。
2人に成長した有希奈のお茶を出して、おもてなしする許可を!
光誠に有希奈の成長を見せる時です!
有希奈は緊張した面持ちでお茶の準備を始めました。
わたくしは有希奈の確かな成長を感じて、わくわくとした気持ちで居間の掃除をしながら2人を待っていました。
「お邪魔します」
「久しぶりー!」
「お2人とも、いらっしゃい」
光誠と健信は居間へ入ると、いつも通りに笑顔で挨拶を交わしてくれます。
ふと気になって振り向くと、台所へ続く扉の隙間から半身だけを居間に入れて、口を真一文字に引き結んでいる有希奈の表情が目に入りました。
2人を待たせる事なく、すぐにでもお茶をお出し出来るように………等と言ってはいましたが、気になって様子を見に来ていたのでしょう。
有希奈の顔は気の毒な程に緊張でひきつり、ごくりと唾を飲む音がこちらに聞こえてくるかの用な有り様でした。
あれほど緊張したままでは、成長した有希奈の実力の半分も発揮出来ません!
わたくしは有希奈の手をとり、真っ直ぐに目を合わせ、にこりと微笑んで見せました。
こんな事では、有希奈の緊張は解れないかもしれない………
でも、伝えたい。
貴女は本当によく頑張ったと!
わたくしは信じていますと!
「………さあ、有希奈」
「………うん!」
表情は固くひきつったままでしたが、力強く頷き、有希奈は台所へ向かいました。
「どうしたの? 何かいいことでもあった?」
光誠に声をかけられて振り向きます。
いつもと変わらぬ2人の表情を見ていると、何やらわくわくとした気持ちがわきあがって来ます!
何も知らない2人はこの後、成長した有希奈のお茶を飲み、驚きに溢れた表情に変わるのだと思うと………
何というか、痛快です!
「うふふ、何でもないですよ」
「いや、これは何かあったね」
健信にも突っ込まれてしまいました。
無理もないかもしれません。
改めて気づいたのですが、わたくし、ニヤニヤと頬が緩んでいるようです。
仕方ないではないですか!
楽しみなのですから!
「強いて言うなら、これから良いことが起こるかもしれませんよ」
「まずは有希奈の課す、いつもの試練を乗り越えてからだけどな………」
「こら、はっきり言わない」
光誠のこの物言いには、少しだけムッとしてしまいました。
否定は………出来ないですが。
有希奈のお茶は、試練と言われれば、試練のごとき味でしたから。
ですが、それも今は昔!
有希奈の成長に驚嘆するが良いです!
「あら、そのような物言いをしていても良いのですか?」
「え?」
「何でもございません。後悔は先に立たぬ物です」
「ホントに何?」
「うふふふ、秘密です」
「2人でお茶の秘密特訓でもしてたかな?」
「ぎくうぅぅぅ!!!」
え?
えぇ?
ええぇぇぇ!?
今、光誠は何と言いました?
何故、バレたのですか?
いけません! このままではいけません!
「そ、そそそそそんなわけないではないですか!」
「あぁ………」
「これは………」
「な、なんですか? わたくしは別に何もしていませんよ? ………本当に何もしていませんよ!」
「わかったわかった」
「こりゃ、相当頑張ってたみたいだな」
駄目です!
全く誤魔化せません!
その時、ガチャリと扉が音を鳴らし、ガチガチの有希奈が居間に入ってきました。
有希奈の両手両足はピンと伸び、関節が凍りついたかのようにぎこちない動きで歩いています。
目は限界まで見開き、瞬きを忘れたかのようです。
間違いありません。
有希奈は限界まで緊張しきっています!
こんな状態で淹れたお茶は、果たして有希奈の成長を表す物になっているでしょうか?
いいえ! 十全に実力が発揮できたとは思えません!
こうなっては、せめてお茶をお出しするまでに多少なりとも緊張を解し、経験を次の成長への糧と出来るようにしなければ!
わたくしは有希奈に近づき、目を合わせようとしました。
が、有希奈となかなか目が合いません。
有希奈の瞳が見つめる先を追ってみると、ごくりと喉を鳴らす光誠の固い表情が目に入りました。
もう一度有希奈に目線を戻して気がついたのです………お盆に乗っている器は1つだけである事に!
何という事でしょう!
有希奈は緊張の余りに、1番の目標である光誠しか見えていません!
こうなっては、わたくしに出来る事は何もありません。
せめて有希奈がお茶をこぼしたりしないよう、補助が出来るように側について歩きました。
「………どうぞ」
「ありがとう………」
有希奈は無事に、こぼしたりする事なく光誠の前へお茶を置けました。
爛々と光るままに見開かれた目は、依然として光誠を捉え続けています。
「………俺だけか」
「ちょ、ちょっとね、まだお湯沸いてなくて、とりあえずひとつだけ………!」
光誠が思わずといった様子でこぼした独り言に、緊張しきった有希奈は劇的な反応を返してしまいます。
有希奈は言い訳にもならないような言葉を上ずった声で叫びながら窓際へパタパタと歩き、窓の留め具をカチャリカチャリと開けたり閉めたり………
駄目です。
有希奈は明らかに平常心ではない………!
わたくしは頭を抱えたい気分なのを圧し殺し、胸の前で両手を握り合わせ、ぎゅっと目を瞑りました。
せめて………せめて、光誠に伝わって欲しい。
有希奈はこの数日、本当に良く頑張りました。
この様子では、お茶の出来はどうなっているのかわかりませんが………
光誠、お願いです!
美味しくなくとも、せめて有希奈の成長を感じてくださいませ!
褒めなくとも、せめて労ってあげてくださいませ!
わたくしはまるで有希奈の緊張がうつってしまったかのようにぎゅっと目を瞑ったまま、指先が痛む程に手を握りしめたまま、心の中で願い続けました。
推敲作業時間が足りない!
って訳なので、明日以降の更新は1日おきにさせてください。
次回は19日更新の予定です




