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出入り料理人惣八の、季節事件簿  作者: 穴澤 空@ドアマットヒロイン1巻発売中!


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十四

 この蔵屋敷の警備は、昼は二人、夜は一人での任務体制だ。夜が少ないのは、(ほう)(もつ)が保管されているわけではないからだろう。

 門番が腰のものに手を掛け、こちらに睨みを利かせたところで、文之進はすぐに目付札を見せつける。後ろには辻番屋の与力もいたので、警戒はすぐに解かれた。


「小人目付の仁木文之進である。役職お勤めのため、蔵屋敷へと参った。そなたも共に来て構わぬ。中に入らせて貰おう」


 実に堂に入ったものだった。本来大名屋敷への検めは、老中から委任された奉行の朱印が押された差定書を見せる必要がある。だが、今はそんなものを用意している暇などない。お夕の身柄を確保することが、最優先だからだ。


(存外、堂々としているといけるものなのだな)


 言われた門番も、小人目付という存在は無論知っている。そのため、文之進の身分証明とも言える目付札を見て、直ぐさま対応した。


「あいわかった。その代わり、私も共に行かせて貰おう。与力殿、門を頼んでも宜しいか」

「無論」


 こうしたときは、幕府から派遣されてきている与力との協力を、することとなっている。

 かくして惣八と文之進は、門番と共に蔵屋敷の敷地の中へ入っていった。


(だが、蔵屋敷とはいえ、広い。どこに)


 蔵屋敷の敷地内には、ところどころ提灯がかかり、薄暗い灯りを見せている。万一のときのために、灯りを点しているのだろう。


「それで、仁木殿はどちらに」


 門番の問いに、文之進は惣八をちらりと見る。


「――ここに、半地下になっているような場所は、ありますかね」


 惣八の言葉に、門番は素直に頷き、二人を奥の建物へと連れて行った。蔵が並ぶ中、半地下に掘られたそこには、木造の風通しの良さそうな建物がある。


「ここは普段使ってないんですが」


(だが……荷車の跡がある)


 梅雨だと言うのに、ここのところ雨も降っていない。敷地内の地面は足跡やら車の跡やらが残っていた。彼らが今いる建物の入り口までも、荷台の車輪の跡がある。

 錠がかかっているが、門番は鍵を持っていないという。


(さすがに確実ではない状態で、建物の入り口を壊すわけにはいかねぇ。だが――)


 惣八は扉をドンと叩くと、大きな声を上げた。


「お夕! いるんだろ! あたしだよ! 惣八だ!」

「お、おい、そなた」


 門番が驚き、惣八の肩に手を掛けようとしたその瞬間。


「惣八さん! 惣八さんなのね!」


 中から若い女の、くぐもった声がした。


「今扉を壊す。遠のいてな」


 次いで声を上げたのは、文之進だった。


「聞こえただろう? この扉を壊したい。金槌か手斧などはないか」

「すぐに持ってこよう」


 さらに続ける文之進の言葉に、近くの小屋にあるらしく、門番はすぐに手斧を一つ持ってきた。それを受け取った惣八は、力の限り扉に叩きつける。幾度か繰り返すと、メリメリと大きな音を立て始めたので、そこで手斧を置き足で蹴破った。打ち破られた扉の向こう側には、両手両足を後ろで縛られ、口元を布で覆われたお夕が、震えるようにして地面に転がっている。


「お夕!」

「娘だと……!」


 惣八と門番の声が重なった。

 瞬時に文之進が、門番に叫ぶ。


「今すぐに、門の口にいる与力を呼び寄せよ!」


 門番は呼子笛を吹き鳴らす。その音を聞きつけた門前の与力と、近くの辻番屋に控えていた、もう一人の与力が駆け込んできた。与力は提灯を点し、惣八たちのいる建物へと駆け寄る。


 その灯りに照らされたのは、門番の持つ小刀で、縛られた手足首を解放されてすすり泣く娘と、まるで父のように抱きしめ安心させている惣八の姿だった。


「これは一体」


 与力の言葉に、返すは文之進。


「本日夕刻、娘の親代わりの女より、通い奉公先の尾張藩中屋敷から娘が戻らないと通告あり。拐かされた可能性を感じ取ったため、小人目付の役につき、押し入った。現場にて娘確保となる。そなたらご確認を」


「畏れながら、娘御はどちらの」

「あたしは日本橋音羽町のお夕です。神田須田町に住まう三味線のお師匠さんのお富美さんとこで、ここんとこ世話になってます」


 惣八に抱き留めて貰っていたお夕は、与力の言葉に体をすいと前に出し、気丈にもそう答えた。「ほう」と、感心したように小さく声を出したのは、二人いる与力のうちの片割れだ。


「御用人様のお言いつけの元で荷札整理をしてたら、後ろから口を塞がれ、あたしは大きな俵に押し込められたんです。下手に騒いだら斬られるかもと思って、じっとしてました」


(お夕は、本当にうまいこと言って、荷札を手に入れようとしてくれてたんだね。無茶をさせちまった)


 惣八は己の軽率さを悔やみ、だが頼まれたことをしっかりと実行していたお夕に敬意を払う。


「誰にやられたか、わかるかい? お夕ちゃん」

「はい、文之進さん。あたしが聞いた声は、間違いなく貞蔵様のもんでした」



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