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年越しまでの話 鍋の〆に決まりはない

銭湯の小さな待合いロビーに皆がいた。「すみません、遅れて。」「いいのよ。それより、変わりはなかった?」みっちゃんは、ランドリーについて触れた。“コインランドリーを掃除、点検していて遅れた”のだと言う事を印象づけたかったのかもしれない。「簡単な掃除はしました。駐車場にも、不審な物や長時間置かれた車はなかったっす。」「最近は、無人の店が増える一方で、盗みや破壊とかの犯罪も増えてるもんね。」ここあさんはクリーム色の、たっくんは青い色のダウンジャケットを着て立っている。「ほら、(こう)君もしっかり温もってきなさい。」ゆり子さんはキルティングコートを羽織り、「さぁ、“ゆり子さん特製鍋”の支度をしなくちゃ。」と、張り切っている。「じゃ、僕達は一足先に戻るよ。」「はい、気をつけて。」「あんたも早く帰ってきなさいよ。」しっかり温もらなきゃならないのに早く帰るって、矛盾じゃねぇか。とは、口に出さない。皆を見送ってから、入浴料を払いに向かう。「あら、お嬢さんだったの。」受付カウンターの女性がまじまじと、自分を見つめる。「この見た目なんで、男性と勘違いされてて…。」「あぁ、みっちゃんから聞いてるわ。あなたが。」何を言ってるんだろう、みっちゃん。「大丈夫。今、入ってるの近所の馴染みさんばっかだから。若いの、いてないわ。」あぁ、同級生が入る可能性もあるのか。なら、この頭はまずいよな。正人さんの事ですっかり抜け落ちていた。「そろそろ刈るか。」ロッカーで服を脱ぎ、鍵を手首に通し、浴場へ。かけ湯をして、先に洗髪スペースへ。頭、体を洗い、「ジェットぶろ…?」初めての体験にドキドキしながら、湯船に浸かった。


「あー、美味しかったぁ。」ここあさんは、げふぅっと、ガスを吐き出すとお腹をさすりながら、「さ、たっくん、寝るよぉ。」と、帰宅を促す。「えぇー、まだテレビ終わってないよぉ。」先に食べ終えたたっくんは、週末にする過去の映画作品の放映をみていた。今日は、二年前に公開されたアニメ映画だった。たしか、映画館に幼なじみと観に行った作品だ。「おうちで続き、見よう。でないと、みっちゃん寝れないでしょ?」「あら、たっくんは、みっちゃんと一緒に寝たいのよ。ねぇーたっくん♡」みっちゃんはくねくねしていたが、たっくんは無言で立ち上がり、靴を履き、「ごちそうさまでした、おやすみなさい。」と、ここあさんを置いて出る。「ちょっ!ご、ご馳走さま、おやすみ!たくま、待って。」上着を引っ付かんで、ここあさんは慌てて帰っていった。「…酷くない?」「いや、正当な判断だよ。」「駄々をこねずに帰って。お兄ちゃんになったんだねぇ。」「身に覚えないっすか?」「ちょっと!いくらなんでも酷い!三人共、酷い!」喚くみっちゃんを無視して、鍋の中身をさらう。“ゆり子さん直伝鍋”は、白味噌とアルコールを飛ばした酒粕が入っている少し甘めの鍋で、肉は柔らかくなり、野菜はとろける。生姜が効いてぽかぽかになるので、冬の定番なのだそう。「私の実家じゃあ、粕汁に干したズイキが入ってるのよ。」へぇ~。なんて感心して聞いているが、そもそも、酒粕を口に運ぶのも産まれて初めてだ。「雑炊が旨いっす。」この鍋をする時は、〆は雑炊と決まっているらしい。そうして鍋をきれいに食べきると、分担して片付ける。ゆり子さん、正人さんも自室に戻り、自分もあくびをしながら「ご馳走さまっした。おやすみなさい。」と退室しかけた時、「あ、待って。」と、みっちゃんに引き留められた。「年末の予定、変わり無い?ご実家帰らずって事でいい?」仕事の段取りを考えなきゃいけないみっちゃんは、再度確認をしてきた。「そっすね。ただ、店の休みに日帰りで様子みてこようかと。父が離婚しちゃって。」「えぇっ?!」まぁ、一年そこらしか持たなかったからね。「…でも、それなら自宅から通うって事も…。」「無いっす!無い無い!」手を振って全力で否定する。「今、一番穏やかっすもん。体調、すこぶる良いっすし。」知らないお姉さんを連れてくる親父に、気遣いをする必要もないのだから。「幼なじみにも会いたいっすから。朝出て、夕方帰ってくるってぐらいのもんすよ。」上着を羽織りながら説明して、「じゃ。おやすみなさい。」と部屋を出た。さすがに、外に出ると息が白い。「明日朝、凍結してたらやだなぁ。」と、階段を上る。上がると自分の部屋の前に人がいた。「あれ、正人さん。」「ごめんね。寝る前に。」いくら暖かい鍋を食べたとしても、外で立ってれば寒さでじっとしていられない。「どしたんすか?」「ちょっと聞きたい事があって。」本来、いくら気心知れた仲でも、成人男性を部屋に入れるのは女性として短慮である。しかし、さすがに自分も寒い。鍵を開け、緩く暖房が効いた部屋に通す。湯を沸かしながら、「あ、勝手に座布団あてて下さいね。」端に積んだ座布団を指差す。引っ越した際、コンビニオーナーがくれたやつだ。「押し入れのスペースが空いた。」と、喜んでいたが。湯飲みにほうじ茶を注ぎ、小さな卓上に置く。「で、話しってのはなんすか?」フゥーっと湯気を吹きながら、正人さんは真剣な面持ちだ。「女やってわかったんちゃうか?」幽霊が囁く。別にそれならそれでいいのだけれど…。

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