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年越しまでの話 合間での会話

「さて、そろそろ向かうかなぁ。」店内を掃除し終え、いつもなら従業員専用扉からみっちゃんの部屋に入るのだが、みっちゃんは留守なので勝手に入れない。コインランドリーの駐車場からアパートを隔てる壁に備え付けられているドアの鍵を開け、アパートの敷地に入り自室に戻る。

「お前、覗くなよ。」一応、幽霊に釘を刺す。「それなぁ~。そこなんよなぁ~。」タオル、着替え、シャンプー等を手提げカバンに入れ、銭湯に向かう。「今までは、自分が高校生や思てたから、覗き見ても可愛いイタズラ、若気の至りくらいに感じててん。」いや、アウトだが?「せやけど、さすがにみっちゃんと同い年やろ?バリアウト、速攻お巡りさんにお世話になりますっちゅー話やん?」歩きながら、聞くだけ無駄な幽霊の話を聞く。「困ったなぁ~。せっかくの楽しみがなぁ~。」「なぁ、今も高校生の姿のままなのは、なんでだ?」幽霊の見た目は出会った頃から変わらない。ただし、上着は白のワイシャツから学ランには変わっている。衣替えをしてやがるのだ。「多分、大学生の自分を想像出来てへんからやな。」幽霊は、くるりと金魚鉢の中の金魚のように宙を返す。「なにせ、そこの記憶がまともに戻らんのや。」大学生だった、という事実はあるのに、“誰と会って”“誰と話して”“誰と遊んで”等の記憶が戻らないのだそう。

「で、なにか解った事は?」会議をしていた他の幽霊さん達はどうしたのか。「みんな、自分の事もあるからな。けど、ぼちぼちやってるで?」それぞれの活動範囲で、当時を知る幽霊はいないか聞いてくれているのだとか。「けど、幽霊って、その存在自体が(あや)うくてなぁ。」地縛霊は、強い怨念を持った奴が多く、近寄ればこちらが相手に取り込まれるらしい。生き霊は、執着している物以外は興味無し。そして他の浮遊霊はというと、自由気ままに浮遊しているところに、派手に動けばあの世から迎えが送りこまれるため、あまり協力的ではないそうだ。「後は守護霊なんやけど。」そう、先日我が部屋に集まっていたのは、誰かしらの守護霊なんだそう。「寺の住職も、()()()()の守護霊やから、成仏までの期間が長いんやって。」へぇ、幽霊事情を幽霊から聞くなんて眉唾だな。

「…なぁ、自分の守護霊はどんな人だ?」自分の背後を指差して聞く。「あんた以外の幽霊もそんなに見たことないもんな。どんな人?」幽霊はぽかんとしていた。「なんだ、マヌケ面して。」「いや、誰がマヌケや、ってちゃうわ。」幽霊は突っ込みを二段階かます。

「まぁ、普通は知らんわなぁ。見えやんしなぁ。」幽霊はフゥムとうなってから、「ほんまに知りたいん?」え、なんか問題があるのだろうか。「単純に、守護霊ってご先祖さまな訳よ。亡くなった曾祖父、曾祖母の遺影と面差しが似てたり、親族の誰かしらに似てたりってなると親近感わくやん?」んー、そうなのかな。「けど、お前、知らんのやろ?親族の顔。」「いや、父方の祖母なら朧気に覚えているような…。」幼少期、数回ほど会ったはずだ。そんな自分の様子を見て、幽霊は鼻の上にシワを作り「そんなんで、守護霊がどんな人か聞いてどうすんねん。知らんおっさんやおばはんが四六時中ずっと傍におんねんぞ?」と言うす。「…やっぱ聞かないでおく。」興味本位で知るべき事ではない。


「あっつ~。のぼせたかなぁ。」正人さんは、脱衣場のベンチに座り、年中置かれている季節外れの扇風機にあたる。「小さいけど、サウナがあるって有難いわよね。」みっちゃんは、たくましい体にボディローションを塗りこんでいる。「地域の憩いだよね。あーあ、(こう)君、間に合わなかったなぁ。」正人さんに言葉に、ぐっとみっちゃんが詰まる。「どうしたのかしらね。トラブルかしら。」みっちゃんはスマホを操作しながら誤魔化す。正人さんには、『コインランドリーを確認してから向かう。』と、みっちゃんは説明していた。先日、両替機からちょろまかそうとした、しょうもない泥棒がいたからだ。

「向かってるみたいよ。入れ違いになっちゃったわね。」スマホから顔を上げて、正人さんに伝える。「さ、帰ってお鍋の用意しましょ。(こう)君が帰ってきたら、すぐに食べれるように。」と、正人さんを急かして、みっちゃんは慌てて着替えだした。「明日は、僕も仕事休みだし、呑んじゃおっかな。」正人さんは自販機でスポドリを買い、ぐいっと飲んだ。「あんた、あまりお酒強くないんだから、飲み過ぎないでよ?」「ちょっとだけだよ。」なんの変哲もない他愛ない会話である。「さあ、ゆり子さん達、待ってるかな。いこっか。」着替えた二人は、女性陣との待ち合わせにロビーへ向かう。「鍋って、何の鍋?」「生姜と白味噌、酒粕をいれた“ゆり子さん直伝”よ。」「あれか、温まるよねぇ。」本当に他愛ない、優しい時間である。

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