理由を探す話
「あー…。なんでやぁ。」幽霊は、力なく部屋を揺蕩うクラゲになっていた。「…おい、邪魔だぞ。」「お~う、お帰りぃ。」なんだその屁のような喋り方は。「まだ戻らないか。」荷物を置いて、シャワーに向かう。「もー、俺もネタ切れやねん。ほんま、なんとかならんやろかぁ~。」あいにく、自分は全くのド素人。知るわけがない。「幽霊仲間は?一度、聞いてみるって言ってたろ?」シャワーを頭のてっぺんからかけていく。ジェルが流され、髪が肩にかかる。「おう、聞いて回ったんやがな?」この幽霊、永らく学校から出られなかった為、古くから(幽霊になってから)の幽霊の知り合いがいなかった。しかも、生きていた時の記憶も曖昧ときたもんで、自分に憑いて学校から出た頃は、一丁前に人見知りを発動していたらしい。しかし、生きていた頃からの性分か、コミュニケーション能力が問題なく機能され、今では少なからず世間話をする位の間柄になった幽霊が何人かいるのだとか。そして、彼らに聞いて回ってみたところ…。「体が拒否しているのではないか?」と、言われたのだと言う。「…なにそれ?」「なー?俺も最初そう思たわ。」のんきな奴だな。「教えてくれた人は近所の墓におって、その墓を管理してはるお寺のご住職の前の前の方やってな?」お寺のご住職の幽霊。率先して成仏しそうな立場の人だが…。「その人が言うにはな?」死ぬと、人の魂は体から出て、①素直にあの世にいく人と、②お迎えを待つ人、③それ以外に分かれるらしい。「宗教によって多少違いはあるみたいやねんけど、一旦は“あの世”に集められて、そこから割り振られるらしいねんな。」で、このご住職は亡くなられた後も、死して彷徨う魂にあの世へ行くよう説法を説いているらしい。「だから、最初会った時は色々諭されててん。はよあの世行って、成仏する事が親孝行でもあるっちゅーてな?けど、生前の記憶がないって事と、なんでか解らんけど僕の事だけ見えとる奴と一緒におるって話したら、興味を持たれはったんや。」頭、顔、体と順に泡だらけにして、最後にイッキに洗い流す。
「ほいで、それから色んなお仲間さんを紹介してもろたんやけどな。今回の僕みたいなケースは、誰も知らんみたいなんや。」タオルで全身を拭いた後、下着を着けて寝間着に着替えてから部屋に戻る。暖房が効いてきていたが、それでも足元が冷やりとする。「幽霊って事は、基本死んでるもんな。」タオルでがしがし髪を拭くが、伸びているためなかなか乾かない。「で、今、仲間うちで調べてくれとってな。」「なにを?」冷蔵庫からお茶のボトルを取り出しながら聞いた。「当時を知る幽霊をや。」幽霊は窓の外に目をやる。ペットボトルを口に咥えながら幽霊の視線の先を追うが、自分には、カーテンのすき間から暗い夜の色しか見えない。「ま、自分はとりあえず寝る。明日朝もバイトだ。」「おぉ、お休みー。」布団に入り、電気を消す。すぐに眠りの淵に落ちる。
が、しばらく後、不意に目が覚めた。「!?」飛び起きて電気をつけると「お、お、…。」部屋にはぎっしり人がいた。「あ、すまん。起こしてしもて。」幽霊が手を挙げて軽く手刀を切るように謝ってきた。が、「おぉ、お前ら…。」ベッドの端には、白いお婆さんが腰かけていた。流し台には同じ色の子供が…。「いやぁ、話聞くにも紙もペンもないと困るからなぁ。ちょっと借りてるで?」幽霊は部屋のローテーブルに紙とペンを置いている。ああ、自分愛用のクッションに知らんおっさんが座ってる。棚に置いた朋ちゃんとお揃いのぬいぐるみキーホルダーに手を伸ばす長髪の女性…。「…出てけ。」「え?」「でぇてぇいけぇ…!!!」自分の中に微かに残る理性が“真夜中に大声を出すな。”と、訴える。その為怒りが爆発ギリギリの所で留まっていたのだが…。「えー、ほな何処いったらええねんな。」このくそ幽霊がぁ!「自分の家があるだるぉおがっ!出てけぇ!!」叫ぶが早いか、キッチンの塩ケースに手を突っ込み、部屋に投げつける。「うわっちょっ!しょっぱ!」「人の部屋でたむろってんじゃねぇっ!クソがっ!」瞬く間に幽霊達は消えた。「…はぁはぁっ。ったく。最悪だ!」肩で息をして振り返ると、「…。」まだ、ベッドの端にお婆さんが座っていた。「…あの…。」『はぁ?』「お帰り頂きたいのですが…。」『はぁ、最近足が痛くて。』「…。」漫才か。コントか、これは。湯飲みに茶を入れ、小皿にお菓子を幾つか乗せ、ローテーブルに置く。「自分、寝ますんで。いつでもお帰り頂いていいので。」『あらまぁ、ご親切にどうも。』お婆さんはにっこり笑う。「…。」布団に潜る。一応電気は着けたままにした。「…もう助けてやらん!」あのボケ幽霊がっ!




