理由を探す話 絡まった糸
スマホのアラームで目覚めると、慌ててベッドの端をみる。お婆さんは居なかった。ローテーブルの上の湯飲みのお茶は空で、お菓子も一つ減っていた。
キッチンに湯飲みと皿を運び、すぐさま着替えを始めた。床がジャリジャリするが、今は時間がない。寝癖を手で押さえながらバイトへと向かった。
「どったの?昨日の夜。叫んでたけど。」ここあさんが、コーヒーに砂糖を入れながら聞いてきた。「すみません。ご迷惑かけて。」素直に頭を下げる。「たっくんも寝てたのに、起こしちゃったかな?」朝食のカボチャサラダを食べるたっくんに問うと、「んーん。寝てたよ?」「悪夢でも見た?」ここあさんは、「トマトも食べな。」と、たっくんの口にトマトを運びながら気にかけてくれる。「夢見が悪いのは、気付かない内に疲れてるからだよ?しっかり休んでる?」「大丈夫です。ちょっと寝ぼけてて…。」確かに夢見というか、途中の目覚めは最悪だった。が、幽霊が部屋でミーティングしてたなんて説明の仕様がない。「今日は、“ぷいぷい”休みでしょ?」ゆり子さんが目玉焼きとベーコンののった皿を運びながら聞いてきた。「そっすね。今の所。」「じゃあ、みんなでお風呂屋さんに行かない?今夜も冷えるし、大きなお風呂で体の芯まで温めたらしっかり寝れるわよ。」お風呂大好きゆり子さんらしい提案だ。「そっすねぇ…。」と、思案していると「みんなで行きましょ。」と、隣の部屋からみっちゃんが顔を覗かせた。「…大丈夫っすか?」何が大丈夫って、みっちゃんの顔色である。最近、みっちゃんは早出が続く上、朝帰りも続いていた。年末で飲みに来る客が増えてはいるのだが…。「帰ってきたの何時だったの?」ゆり子さんが心配して訊ねる。「…ん~。3時過ぎかなぁ。」座敷に座るやいなや広いちゃぶ台にみっちゃんは突っ伏してしまった。「昆布茶でもいれましょうかねぇ。」ゆり子さんがキッチンに立つ。「あの、バイトしてる自分が言うのもなんなんすけど。何で最近忙しいんすか?」何分準備段階にしか携わっていないので営業中の業務内容にはノータッチ。年末の飲み会シーズンを考慮したとしても、たくやさん、じんさんに比べてみっちゃんの疲労感が半端ないのだ。「忘年会シーズンとはいえ、二人に比べて、かなりしんどそうっすよ?」食パンにマーガリンを塗りながら気遣う。「…こないださぁ…。」「はい。」「同級生が帰って来たって話したじゃない?」「そっすね。」ゆり子さんがみっちゃん専用湯飲みを卓上に置く。「ありがと。」みっちゃんはゆり子さんに礼を言うと上体を起こして、湯飲みを手に包む。「あー…。あったかぁい。沁みる~。」だいぶ弱っているようだ。「で、同級生がどしたの?」ここあさんはたっくんの食べ残したパンで皿に残ったカボチャサラダをぬぐって口に放り込みながら話の続きをせっついた。「この同級生が帰ってきた理由は、結婚の御披露目会の為なのね。」同級生A君は、奥さんと自分が今住んでいる土地で親族のみで式を済ませ、年末年始を使ってそれぞれの義実家に挨拶がてら、友人達に御披露目会をするのだと言う。で、旦那サイドの開催場所にみっちゃんの店を使わせてくれと連絡があった。それは心よくOKを出したのだが、地元の同級生の一人が「サプライズをしてあげたい。」と、言い出した。その準備、打ち合わせと年末の飲み会が相成っててんてこ舞いなのだと言う。「ただ、言い出した同級生ってのが、私、しばらく距離を置いてた相手な分、心労がねぇ。」ふぅーっとため息を吐くと、湯飲みの昆布茶をすする。「へぇ、みっちゃんが距離置くって珍しいね。何?元彼とか?」ここあさんは皿を流し台に運びながら尋ねる「んーん。相手は女性、幼なじみってやつなんだけど、何だか拗らせてんのよねぇ。」「あー…。昨日、店にいらした方っすか?」あ、そうそう。と、相づちを打つみっちゃんを遮って「え、幸君見たの?!どんな女?!」と身を乗り出すここあさん。「普通の女性ですよ、まぁ小綺麗な感じの。ただ…。」みっちゃんの前で言っていいのか?と、言い淀む。「何?何?」なんで楽しそうなんだ、ここあさん。「ママー、保育園、おくれちゃうよー?」たっくんがここあさんを引っ張る。「あーん、ちょっと待って。ね、何?教えてぇ?」「…女が嫌いな女っぽかったっす。」「…ははぁ。なるほどねぇ。」ここあさんはニヤリと笑う。「そりゃ、みっちゃんが苦手とする訳だ。」「ママ~。」「ほら、ここあちゃん。たっくんが待ってるわよ。早く行きなさいな。」ゆり子さんがここあさんの背中を押す。「「行ってらっしゃい!」」「「行ってきまーす。」」二人を見送った後、みっちゃんに視線を戻す。「すんません、ご友人を悪く言って。」ちゃぶ台にアゴを乗せたまま、湯飲みを手の中に包み「ん~ん。初見の幸ちゃんでも判るんだもん。もう、潮時なのよ。」と、なんだか物寂しげに、みっちゃんが呟いた。




