恋の話 赤紫色
返されたテストの答案を握りしめ、「俺、正月に実家帰れる…!」と、感動に浸っている巨体は放置し、「あーし、夏にやったバイト先から、冬休みも来てって言われてるんだ。」「お、凄いじゃん。なんのバイトだっけ。」「土産物の売店。おばあちゃんの知り合いのとこ。」朋ちゃんはスマホで地図と店の概要が載ったサイトを開いて見せてくれた。「平日は、店主のお爺ちゃんとお婆ちゃんで充分だけど、大型連休とかだと外国からの観光客が来るんだよ。」「オーバーツーリズムってやつか。」リンダが話に加わる。「んで、あーしがスマホの翻訳アプリと、この器量で接客するってワケ。」朋ちゃんがポーズをとる。「なんだ、おかわり二杯ってサインか?」「あんた、埋めるよ?」ピースをおかわり二杯と見る奴に、朋ちゃんが鉄拳を喰らわす。「リンダが実家に帰る前に、三人集まって、また遊びたいね。」「自分は帰らないから、この街にいるよ?」「あーしは、父親側の祖父母に挨拶しに行くかなぁ。お年玉目当てだけどね。」だから年末年始は居ないのだと言う。「どうせなら、アパートの人やバイト先の人と旅行か何か行ったら?慰安旅行みたいにさ。」うーん、考えた事なかったなぁ。今からだと、予約も取れないだろうしな。そうこうしていると、チャイムがなり次の授業が始まった。
「年末は、店で酒呑んで暴れて年越して雑煮を食う。ってのが、ここ数年のお決まり行事ね。」じんさんが、キープボトルを拭きながら答えてくれた。「なんか、カオスっすね。」「美味しい酒と美味しい料理に楽しい仲間で過ごすんだから、最高じゃない!」「常連さんがいらっしゃるんで?」ゴミをまとめながら聞く。「常連さんに、みっちゃんの知り合い、私達の家族、入れ替わり立ち替わりくるのよ。」「で、眠くなったら二階も含めて雑魚寝するの。」たくやさんが補足する。「え、二階のがらくたの山の横で?」「はい、けってーい!」「二階の掃除は幸君に決定!」「…。」口が災いした。
早朝バイトのコンビニでは、「前に悪阻が酷くてって言ってた娘、覚えてる?」「ああ、お孫さん迎えに行くってんで、シフトに入った…。」「年明け位に産まれそうなの。」オーナー夫人はうれしそうに報告してきた。「おめでとうございます。」「ウフフ、で、年末は31日の日またいで、元旦の3時まで。その後1日は休みになるのよ。」「では、2日早朝からですか?」「ううん、三が日は9時から夜12時まで営業になるから、一時間前の8時かな。また、シフト組むんだけど。」そこで話を切ると「本当に三が日、バイト入るの?」と確認された。「今んとこ、その予定っすねぇ。昼から時間が空けば、それで充分っすから。」店内の床をモップがけしながら答える。「それに、三が日入ったらお給料に色つきますっしょ?」「こいつ、ちゃっかりして。」オーナー夫人が笑いながら、バックヤードに入っていった。
正月に家族と過ごしたのは、あとにも先にも一度だけ。親父が風邪をひいて寝込んだ時だけだ。「ぐずっ、スキー旅行、キャンセルなっちゃった…。」と、ぼやきながらお粥を食べる親父を急遽仕事に来てくれた“みつ子さん”は、スッゴい目で睨んでた。「お嬢さんをどうするおつもりだったんで?」と、トゲトゲしく聞く“みつ子さん”に「実家に預けるつもりだったよ?まだ言ってなかったから、断りの電話はいらないや。」つまり、当日、相手の都合も聞かず預ける気だったのだ。こいつ、駄目だ。保育園児だった自分が、早々に親父を見限っていた理由の一つだ。
休日、風は緩く日差しも出て、幾分か寒さは弱い。それでも自転車で風を受ければ凍えるので手袋と上着を着用し、パンツは裏起毛のを履いた。休日だからウィッグも着けない。軽く、メンズメイクをし、だて眼鏡をする。「なんでメガネ要るんや?」幽霊が逆さまになりながら覗きこんでくる。「知っている人がいたら、嫌じゃん。」地図を肩掛けカバンに入れて、出発。言って10分位自転車を漕いだ先の町だ。自転車ようにヘルメットを被る。チャラい見た目でヘルメットを被る姿は、滑稽だ。「けど、ケガしたくないからなぁ。」万が一、ケガで入院とかなったら、親父と新しい母親ってのが出てくんのかな。それはごめん被りたい。黙々と自転車を進め、目的地についた。「とりあえず、ぐるりまわって見るか。」「せやな。」住宅街の外周を地図をなぞる様に走る。「何か思い出す?」「んー、どうかなぁ?」自転車に並走して幽霊が飛ぶ。「住宅街って、よう間違うよな。どの角曲がったか解らんようなる。」似た家が並ぶとそうかもな。「あれ…?」なにやら、既視感。自転車を止めてUターンする。「なんや?」一つ戻った角で、壁の影から曲がった道の先を覗く。「あ、やっぱり、みっちゃんだ。」以前にも見かけたスーツ姿のみっちゃんが、ある一軒の住宅から出て来たらしい。他にも数人、スーツか、ジャケットとスラックスといった小綺麗な服装の男性が並ぶ。その住宅から、50~60代位の女性が出てきて、なにやら談笑していた。「遠くて、よう見えんなぁ。」愚痴る幽霊に「お前、近づいてもバレねぇだろ。見て来いよ。」「あ、そやな。」幽霊はポンと手を叩いて、正面から近づいていく。みっちゃんのそばを通ろうとした時だ。「?!」他の人と話していたみっちゃんが、いきなり幽霊の方を向いた。鼻先に幽霊の顔がある状態だ。「こ、こんにちはぁ~…。」幽霊もビビって何言ってるか解らない。「おい、どした?」先ほどまでしゃべっていた相手も急に首を180度ひねったみっちゃんに驚き、心配している。「何だか…いや、気のせいかな。わりぃ。」そういって再びその相手に向き直った。幽霊は度肝を抜かれて、すごすご戻ってきた。「ビ、ビビったぁ~。」お前、ダメダメじゃん。




