恋の話 セピア色
自室に戻って、地図を開く。「…たぶん、この辺りだなぁ。」みっちゃん達が出てきた家に丸をつける。「なんだろ?周りの人も仲良さそうだったよね。」「けど、みんな、えらいかっちりした服やったで?」「確かにな。」エアコンの暖房をつけて、手袋、マフラーを外す。ヤカンに水を入れ火にかける。「で、あの町に何かピンとくるものは?」地図を眺める幽霊に問うが「うーん、解らんなぁ?」見えないクエスチョンマークが幽霊の頭から出ている。「とりあえず直接聞くか。」「へ?」
夕食。休日は各々自炊となっているが、いかんせん、ここあさんは料理、掃除が壊滅である為、みっちゃんとゆり子さんどちらかの気紛れで彼女達の分が共に作られている。たっくんに、温かい手料理を食べさせてあげたい二人なのだ。「これ、よければ皆さんで。」と、自室で作ってきた簡単煮物を差し出す。冷凍の里芋をレンチンで煮っ転がしにしたもの。鶏ミンチと少し味噌が入っているのがポイントだ。「あら、ありがとう!」「凄いなぁ、幸ちゃん。あたし、全然ダメだもん。」「…これ、レンチンで作ったっすよ?」「ウッソ?!マジでっ!」ここあさんは、料理をするとなぜかダークマターを作り出し、掃除をするとさらに悲惨を呼ぶ女である。ゆり子さんが温かい緑茶を入れてくれた。「ありがとうございます。」「さすがに夜は冷えるもんねぇ。」ゆり子さんお手製の浅漬け付きだ。一口お茶をすすってから、「あ、今日、みっちゃんを見かけたっすよ。」普通に世間話として、切り出す。「スーツ姿なんで二度見しちゃったっす。」「あら、良い女だからじゃないの?」「…メンズスーツだったじゃないすか。」別に話を振られて嫌がる素振りはない。「え、メンズスーツ?どしたん、珍しいじゃん。」ここあさんが話にのってきた。「ちょっと、お見舞いに行ってきたのよ。」みっちゃんが青椒肉絲を白米の上に乗せ、それを口に運びながら喋る。「これ、おいちぃー。」「あら、ピーマン食べれて偉いわぁ。」たっくんとゆり子さんは二人の世界だ。「え、誰か常連さん?」ここあさんは眉をひそめて心配な面持ちで聞きたい事を聞いてくれる。「あ、違う違う。商店街の人じゃないの。同級生なのよ。」みっちゃんは、軽い感じで手を振り否定する。「そっか、みっちゃん、自分の高校の卒業生っすもんね。」呼び水を差し向けてみる。「そうそ、だから近くに同級生の実家とかあんのよ。」みっちゃんが自分の前に置かれた皿から浅漬けを取っていく。「高校の同級生なのよ。数年前に事故って、目が覚めないの。」「えぇ、結構センシティブな話じゃん。私、聞いていいの?」ここあさんが気にしたが「大丈夫よ。言って距離も近いし、いずれ知る事になってたわよ。」いつもは、切れてる筋肉美を見せつけるような服装か、バチバチのつけまに口紅、ムッチリした太ももを露にするスリットが入ったドレススカートを履いているみっちゃんが、ぴしっとスーツ着てたら彼(彼女)を知るものは嫌でも気付いて度肝を抜くだろう。「今日、他府県に就職した仲間がこっちに帰ってきたから、集まるついでに見舞いに行ってきたのよ。」見舞いがついでなのか。「病院じゃないんだ?」ここあさんが、薄めの檸檬チューハイを呑みながら尋ねる。「そうなの。怪我も治って脳波とかも異常ないの。ただ寝てるだけ。でも、かれこれ5年はこの状態なのよ。」みっちゃんは、はぁーっと物憂い顔でため息をつく。「リハビリしながら、点滴しながら、毎日親御さんも声をかけてるんだけど、起きないの。」「そっかぁ。」「今日、仲間引き連れて行ったのも、皆の声がしたら起きてくるかなって思ったんだけどね。」みっちゃんは、茶碗の中をきれいにすると自分の前に置かれていた湯飲みをとり、ごくごくと茶をのんだ。「…みっちゃん…。」「なに?あらやだっ!私ったら。」慌てて立ち上がり、急須を手に電気ポットに向かう。「仲良かったんすね。」「まあねー。楽しい思い出しかないからねぇ。」「ね、どんな人?写真とかある?」ここあさんが、待ってましたと言いたくなるようなセリフを口にする。「えー?、ちょっと待ってね。」急須を自分の前に置き、みっちゃんは自分のベッドが置かれた隣の部屋に向かう。自分は、急須から自分の湯飲みに茶を注ぐ。「もしかしたら、みっちゃんの初恋相手だったりして。」ここあさんが、酔ってきたのか少し赤らんだ顔で囁いてきた。「みっちゃん、なんだか嬉しそうに話してますよね。」えー?とか言ってるけど、声のトーンが高く上ずっている。もしかしたら、幽霊と知り合いとか、同じ部の先輩後輩とか、何かしら繋がりがあれば解決に近づくんじゃないか。なんて、軽く考えていた。




