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階段の話 大人と学生

「それって、うちにも面接きた奴?」「どうですかね?名前、解ります?」「うちの面接、履歴書必須じゃないから。」「?ああ、そうなんすか。」谷さんは、よく解らないまま納得したようだ。スマホを操作して、「これです。」と見せてきたのは飲み屋で撮られた集合写真。「広川さんに、ゼミの人達と行った飲み会の写真、送って貰ったんす。」早速、広川姉と交流が持てたようだ。「この人が“しのはらさん”で、」指差すのは、ふわふわした雰囲気の女性。垂れ目だし、優しそうな見た目だが「…なんか怖い…。」「え?そうか?めっちゃかわいいじゃん。」「やっぱり(こう)君、女ね。」「女には解るものよね。」おお、図々しいにも程があるぞ?「で、こいつが“かがわ”って、三年生です。」次に指差したのは、集団の端、俯瞰で見ているような立ち位置にいる男性で、つい「…なんか、三文役者みたい…。」と言ってしまった。「あんた、意味解っていってる?」たくやさんが突っ込む。しかし、特筆して特長がない。不細工でもなけりゃ男前でもない。身長も高くも低くもない。しかし、普通かと言われたら違う。まるで、作られたような普通だと感じるのだ。「そうね、うちに面接にきた奴と同じだと思う。」「なら、間違いないっすね。今日、コンビニの面接に来たのも“かがわ”っす。」谷さんはスマホを片仕舞いながら、「杉本、コンビニにバイトで来る時もその変装しとけよ?前みたいな男の格好してたら、いつ、嗅ぎ付けてくるか解らないからな。」「ういっす。」「せめて、学祭が終わるまではね。」じんさんとたくやさんがニヤリとほくそ笑み、それを見て谷さんと自分は、ぶるりと身震いした。


次の日、オーナー夫人が、“しばらく待ってからお断りの返事を出す”と言ってきた。直ぐに断れば違う形で接触をはかるかもしれないからだ。“かがわ”について谷さんから、詳しく聞いたらしい。客商売をしていれば、大なり小なりトラブルはつきものだが、まだ決定的な証拠はないものの、可能性があるものを率いれる程、物好きでも怖いもの知らずでもない。「商店街は、私達が若い頃の青春そのものなのよ。」お弁当を陳列棚に並べながら、夫人は思い出話を語る。「映画館で映画を見て、喫茶店でお茶をして、ウィンドウショッピングして、レストラン行って。恋人とも、友人達とも家族とも行ったのよ。」「そうなんすね。」冷凍食品をバックヤードに運び込みながら相づちを打つ。「この街で働いている人に迷惑かけてちゃ、睨まれても仕方ないわよねぇ。」色々な噂や憶測が出ていたが、たくやさんが調べまとめた結果はギリギリ犯罪手前と言った感じらしい。昨年度の学祭で、校内からも“素敵な街人”を募り、ミスコン、ミスターコンが縮小した形で行われた。ただ、例年と違うのが冊子に載ると言う事だ。今までの優勝者は、写真が()()()()()()()()()に載り、数ヶ月経つと名前は残るが写真は消去され、そのページも年度末になると新年度にむけて一新される。大学のホームページに載ると言うと、世界に発信されているから有名人だと感じるかもしれない。けれど、()()()()()()()()()()のだ、大学のホームページは。その点、冊子に載る街の住人には無料で、他の来校者には二百円で配られる“素敵な街人”。どちらの方が一時(いっとき)でも多くの人の目に留まるかは、想像に易い。そして、昨年度も携わっていた“かがわ”は、その冊子をみた他大学の友達や、バイト仲間に頼まれたのだ。「この子、飲み会に連れてきて。」その時に多少の金銭の取引があったらしい。といっても、飲み会費や、昼飯代を奢るからといった可愛いものだったとか。載った本人達も、選ばれて浮かれていたのかノリが良かったのか、心良く参加したという。そこで味をしめた。学内だと“学生”という縛りがある。しかし、社会人、夜職の人を連れていけば、()()()()とも繋がりが出来る。社会人に学生を紹介する事も、学生に社会人を紹介する事も出来る、仲介手数料が入ると考えた。“素敵な街人”を隠れ蓑にしようとした理由(わけ)だ。「浅はかよねぇ。」たくやさんがじゃが芋の皮を剥きながら言った。「せっかく大学まで行ったってのに、どこにオツムを使ってるんだか…。」「身銭切って、捕らぬ狸の皮算用って訳ね。」もちろん、そんな甘い話が通るほど、世の中甘くない。実際、“ピンクパンサー”のスタッフは、胡散臭さを感じて断り、店のママの耳に入ってしまい、この大学の劇団は出禁となった。“しのはら”と言う女性は、男性を集める担当だったとか。“かがわ”の考えを知ってか知らずかは解らない。しかし、嗅覚というか、センサーと言うか…。ただ、男前、イケメンってだけじゃなく、「うまい具合の男性」をみつけるのが上手いらしい。そして、自分はそれに引っ掛かった。“かがわ”にとっても、“金の成る木”。なんとか知り合い、“素敵な街人”に載せたい。と、動いたのだろう。と、たくやさんは締め括った。…自分、女ですが…。



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