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年明けの話 閻魔は身近にいる。

「寝すぎちゃって。しかも、夕べのカップ麺のせいか、目が浮腫(むく)んで。」「あらまぁ。」正月二日目とはいえ、朝から客がちらほら入っていた。その合間で、夫人が話しかけてくる。「だからメガネ?」『ぷいぷい』にあった伊達メガネをかけて、誤魔化している。「お節は食べなかったの?」「朝は、頂いたんすけど。夜はみっちゃんが酒盛りしちゃって、部屋に入れなくて。」「あ~。」納得の“あ~。”が出る。「なんで、帰りに何か買って行きます。店に貢献っす。」「じゃあ、店員価格にしたげるわ。」「あざっす。」


昼の1時にバイトが終わり、店員価格で弁当を買って、()()()()()()()のペットボトルのお茶と共に、『ぷいぷい』に戻った。扉に鍵がかかっていない。用心してそっと開けると「おかえり。」「じんさん!」普段着のじんさんが、カウンターの中にいた。「あれ?どーしたんすか?」「どーしたもこーしたもないわよ。」じんさんは、眉を寄せながら、鍋に野菜を入れていく。湯気と出汁の匂いが立ち込める。思わず「あったかぁーい。いいにおーい。」と、カウンターの中を覗き込む自分を見て、「っ!」じんさん、なんで、目頭押さえてんすか?「やだもうっ!お腹いっぱい食べなさいよっ!」「えっ!これ、自分のっすか?」じんさん特製、ハリハリ鍋だ。鍋には、千切りした大根、人参、ゴボウと水菜。一度冷しゃぶにした薄切りの豚バラで、温かい鍋の野菜を包んで食べる。ゴマだれが、これまた合うのだ。「はぁ~。うま~。」朝食も抜きだった為、余計に上手い。「…〆にうどんもあるわよ。」「わぁ、じんさん、さすがっす!」じんさんは、そっぽを向きながらタバコをふかしている。「そういや、なんでじんさん、居てくれてるんで?」「…たくやから連絡きたからよ。」ふうーっと、換気扇に向かって煙を吐きながら、じんさんが言う。「店長にイジメられてる後輩を、黙って見過ごすワケないじゃない。」「っ!じんさん格好いいっす!」「知ってるわよっ。」ほんと、頼りになるなぁ。うちの先輩方、ありがてぇ。「あ、そうだ。」「何よ。」「明けましておめでとうごさいます。」「…おめでとう。」「今年もよろしくお願いしまっす。」「あんた、料理目当てでしょ?」「じんさんのご飯は、最高っすから!」「ったく、可愛げがあんだか無いんだか。」じんさんは、タバコをキューっと吸い上げると、灰皿に押し付けて消した。「食べたら、うちの店長、しばきに行くわよ。」


悲惨だった。みっちゃんの部屋は、見事に悲惨だった。酒瓶や空き缶、ゴミが転がる中に裸の男が三人。それぞれ、思い思いに寝ていた。「重なってないだけマシね。」「ぶふっ。やだ、笑わさないで。」たくやさんの呆れた言葉に、じんさんが笑う。どこが笑うツボだったのか。「とりあえず、起こしましょ。」「そうね。」二人は、それぞれの裸の男どもを引きずり(引きずられても、起きる気配もない)、風呂場に詰めて、シャワーをかけた。「ぶあっ?!」「な、何っ?」「ふおっ!」心臓マヒを起こさないように、ぬるま湯だ。それでも、いきなり顔にかけられたら、飛び起きるものだ。「あ、あら、じんじゃない?」目をショボつかせて、みっちゃんが仁王立ちのじんさんを見上げる。「あんた、何してんの?」シャワー(ジェット仕様)をかけながら、静かに質問するじんさん。「えっと、皆でお節食べて…」「皆じゃないでしょっ!あんた達だけでしょっ!」裸男達は、風呂場で裸のまま、小さくなっていた。「きっと、アレも縮こまってるわね。」たくやさんは、冷めた横目でそれらを見ていた。自分はそれらを放置して部屋から出る。息を吸う。やっぱり、みっちゃんも男だな。親父の部屋と同じ臭いがしやがる。肺の中の空気を入れ替えていると、室内からじんさんのお説教が漏れ聞こえる。「…羽目を外したら、ああなるのか。」おー、怖っ。


空気は冷たいが、天気は快晴。こたつ布団をアパートの二階廊下の手すりに干す。みっちゃんの部屋を開け放ち、こもった男臭とアルコール、タバコ臭を外に出す。「全く!正月早々やんなっちゃうわっ!」じんさんが、食べ散らかした惣菜のトレーや、お菓子の袋等をゴミ袋に入れながらずっとキレている。

さて、酔っぱらい裸男達はと言うと―。


「うぅ、人災だ…。」正人さんは、デッキブラシでタイルの浴槽を擦りながら泣いていた。「泣いたって終わらないんだから、しっかりしなさいっ!」みっちゃんは、でっかい電動式のブラシで、洗い場の床を擦っている。「滑らないよう、気をつけて~。」脱衣室からは、たくやさんが監督していた。「しっかり力入れて拭きなさい。」「くぅっ。なんでこんな目に。」たくやさんの足元では、さとるが雑巾片手に床を拭いている。

ここは「峯の湯」。正月休みで、明日3日からの営業なのだが。

「わー、助かりますー。」「綺麗になってきましたねー。」峯の湯の若夫婦が笑顔でやってきた。

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