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年明けの話 最悪な元旦

今日は、湯を張った。いつもはシャワーで済ますのだが、今日位はゆっくり暖まりたい。朋ちゃんがクリスマスプレゼントにくれた入浴剤を入れ、じっくりと暖まる。「はぁ~。」狭い風呂桶で肩まで浸かるには壁に足を上げねばならないが、誰に見られる事もなし。優しい香りに淡い紫色の湯が、自分をほぐしていく。「ぁあぁ~。たまらんなぁ。」「おっさんやん。」…なんでいるんだ、てめぇ。「いや、見てへんで。」確かに、こちらには背を向けているが浴室にいていい理由にはならない。「なんの用だよ。」「ちょっと、調べて欲しいんや。」高校の同級生や、出来事について、みっちゃんに聞いて欲しいとの事。「うーん、いくら何でも。」「ちょっとだけでもいいから。」頼む、と拝んでくる。「あ、そういやぁ、近々みっちゃんの店で、高校の同級生が集まるぞ。」「えっ!」幽霊は、パッとこちらを向く。「…お前、脚、逞しくなって益々男らしいな。」マジ、生き返ったら埋める。


夕食を食べにみっちゃんの部屋に行くと、酒の臭いと男臭かった。みっちゃん、正人さん、そして、「あ、今朝はすんませんでした。」色白のひょろいメガネ男は天パなのか、髪がうねっている。「彼が()()()()()()()()()()よ。」みっちゃんは、迎え酒なのか缶チューハイ片手に“さとる”さんの肩を組み、出迎えてきた。「初めまして、杉本っす。」軽く会釈するが、「もー!(こう)君っ!他人行儀なんだからぁ。」みっちゃんはグビッとチューハイをあおると、紙の様に缶を潰してしまった。これはいけない。「…お疲れした!」慌てて部屋を出た。みっちゃんが追いかけてくる前に階段を上がり、自室に飛び込み鍵をかけ、チェーンとドアストッパーをかける。階下から、「ちょっと~。何で戻んのよ~。」と、響いてきたが無視だ。「くそぅ、ゆり子さんのお節が食べられない。」お腹は、きゅ~っと情けなく鳴いている。スマホで、近くの1日から開いている店を探すが、駅の近くか、商店街の反対側にある商業施設になる。「多分、激混みだろうなぁ。」何か食べ物の買い置きはないかと探せば、非常用に買っておいたカップ麺が。こうして、新年早々に、一人寂しくカップ麺を啜る事となった。


「明けましておめでとう。…どうしたの?」オーナー夫人の心配は、目をショボつかせている自分。「…明けましておめでとうごさいます。」

昨夜、カップ麺を食べ、早くも就寝しようとしていた時だ。スマホが鳴る。画面には、「…みっちゃん…。」とりあえず、出てみる。「はい。」『(こう)くーん。降りてきて、一緒に食べましょー。淋しいじゃないのよー。』「いや、大丈夫っす。明日もバイトなんで寝るっす。」『えっ、三が日も働いてんすか?苦学生?』こいつ、“さとる”だな。『違うよ、皆、「」色々あるんだから詮索しない。ほら、みっちゃん、水飲んで。』正人さんは二人に振り回されているようだ。『(こう)くーん。数の子、無くなっちゃうわよぉ。』ボリボリくしゃくしゃと、不愉快な音を交えて喋ってくる。「…。」通話を切った。電源も切り、部屋の置時計の、いつもは使わない目覚まし機能をセットする。やれやれと布団に入るが、今度は床下からドンドン突き上げる音が。「…。マジか。」近隣トラブルのニュースを観る事もあったが、大家自身が店子にトラブル仕掛けてくるとは。これは、堪らん。スマホの電源を入れて、直ぐ様ミュートにし、()()を呼ぶ。「あ、すんません。夜分に。」言って夜、6時30分。迷惑にはなるまい。「助けて欲しいっす。」

階下のどんちゃん騒ぎに気取られないよう、静かに抜け出した。自転車を漕いで、着いたのは『ぷいぷい』。店内の灯りが灯っている。「あ、たくやさん。明けましておめでとうごさいます。」「あけおめ。新年早々、大変だな。」鍵は一応貰っているが、勝手に入るのは気が引けてたくやさんに了承を得る為、電話したのだ。「みっちゃん、昨日もだいぶ呑んでたのに。」「なんか、自分が入る前の方がいらして。んで、懐かしくって騒いでます。」「たかだか、一年足らずで懐かしいって…。」はぁーっとため息をつくたくやさんは、いつもよりアンニュイだ。「…ご迷惑おかけして、」「あ、違う違う。俺も、親戚の集まりが苦手だからさ。」ソファにもたれて、長い髪をかきあげる仕草は、隣のママが見たら心臓発作で救急行き確定だ。「とりあえず、二階、お借りします。」「あ、そうだな、布団か。」一階は、大晦日に皆で食べて飲んだにしてはキレイに片付いていたが、二階はそうでもなかった。「…。」雑魚寝とは言え、毛布や敷き布団が畳まれないまま山と積まれていた。「…ま、今夜寝るだけっすから。」空のペットボトルと、空き缶、空き瓶を拾い、転がっていたビニール袋にとりあえず入れる。「…一人が心配なら、俺も泊まろうか?」たくやさんが、布団を畳みながら聞いてくれた。きっと、昨年、突撃してきた女性の事をいっているのだろう。「いや、もう大丈夫っすよ。」部屋を貸して貰えるだけでもありがたいし。「でも、女の子一人だろ?」言われて、はたと気づいた。「…そっすね。女の子っすね。」「え、忘れてた?」「いやぁ、なんつーか。医学的には女性なんすけど、自分の認識だと“何もない”んですよね。」「…Qって事?」たくやさんが、真顔で問う。「っていうより、“カメレオン”みたいな。」「爬虫類的な?」「いえ、そうじゃなくって、“その場に置かれた状態”で、認識が変わるような。まぁ、優柔不断って事かもですけど。」「…ふーん。」

目につくゴミを拾い、綺麗目な布団を敷き、「では、お休みなさい!」布団に潜る。うーん。いつもの枕じゃないからなぁ。「…君さぁ、俺が“男”って忘れてない?」たくやさんが、不機嫌に質問したが返事は返ってこない。「?」覗き込むと、「…ウソ。」既に深い眠りについていた。「…こんなの、手も出せないじゃん。」たくやさんは再びため息をつくと、電気を消して、ゴミ袋を持って降りていった。

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