年明けの話 皆と食べる
商工会、地元自治会、商店街青年団、婦人会ーー。
地方に限らず、店を構えるとなにかしらの組合に属する事がままある。そういった中で、この「峯の湯」の若夫婦とたくやさんは顔見知りであり、みっちゃんという共通の知り合いを通して、頼み事を言える間柄になっていた。「ごめんなさいね。休み中に騒がしくして。」たくやさんは二人に謝罪したが、若夫婦は楽しそうに「なに言ってんですか。こちらは助かってますよ。」「年末に掃除したけど、やっぱり力の強い男性が洗ってくれると違うわぁ。」次は女風呂、お願いしまーす。と、仕事を申し付けた後、夫婦へ仲良く自宅へと戻っていった。
「…俺、せっかくの休みなのに…。」さとるさんは、情けない声で呟く。「別にしたくなきゃしないでいいのよ。ただ、自分達が食い散らかしたお節や雑煮を食べたくても食べれなかった16の子がいるって、知ってくれてたらいいのよ。」美人の笑顔は怖いと、聞いた事がある。にっこりと己に向かって微笑むたくやさんに、さとるさんは背中に冷たい汗をかいたに違いない。
「あいつら、本当に食べきったのね。冷蔵庫に作り置きがないわ。」ゆり子さんが作り置いてくれていた筑前煮も、数の子も昆布巻きも伊達巻も、なーんにもない。「どうしましょ。スーパーは4日からだし、大型商業施設は初売りで、車も停められないんじゃない?」「凄いっすね。あの量、食べられるもんなんすね。」ゆり子さんが里に帰る前に、沢山のデカいタッパーウェアに作りおいたお節の数々を知ってる身としては、まさか…。「…感心するんじゃないわよ。」はぁ~っと深いため息が、じんさんから漏れる。「冷凍庫も、お弁当用の冷食か、うどん、ねぎ、にら…。足らないわねぇ。」じんさんは、台所の戸棚も漁ってなにかしら食料を探しだした。枕探しはじんさんに任せて、自分は一旦、自室に戻る。「今日の晩御飯は、期待できるんちゃうか?」幽霊は、嬉しそうにはしゃいで聞いてきたが、「さぁ、どうかな。」掃除機を狭い我が部屋にかけた後、窓を開けて風を通す。こもっていた空気を、冷たい風が押し流していく。しばらくして、窓を閉める。「あ、弁当があるや。」お茶は、“ぷいぷい”で飲んでしまったが、買ったオムライス弁当はそのままある。自室の冷蔵庫に入れる。「万が一の晩飯は、ある。」「さみしいなぁー。ほんま、お前、それで平気なんか。」幽霊は、一々(いちいち)大袈裟だ。「そりゃ、今までなら幼なじみの家にお邪魔させて貰っていたし。家政婦さんの作ったお節も食べてたけど、“家族団欒”は一度たりとも経験がないんだよ。」
自分としては、当たり前だった事を言ったのだが、幽霊は悲しい顔で姿を消した。「…ありゃ。」幽霊は、幽霊なのに、センシティブだ。
三学期の予習をしていると、数回のノックの後に、ドアの向こうから「幸君、晩御飯だからいらっしゃい。」と、たくやさんの声がした。じんさん、材料どうしたんだろう。返事をして外に出る。夜になって、更に冷え込んでいる。「明日、雪が降るかもよ。」たくやさんが言った。「失敗しました。自分、もうちょい髪を残して置けば良かったっす。」多少伸びたが、まだ短い。自分の頭を、ちょりちょり撫でる。「考えが足りないのよ。」たくやさんは、辛辣な物言いながらも楽しそうだ。
みっちゃんの部屋、長方形の座卓(今はこたつになっている)には沢山料理を並べられていた。「うっわ、じんさん、どうしたんすか?」「みっちゃんに、廻らせたのよ。」じんさんは、キッチンの端に折り畳み椅子を出して換気扇の下、タバコを吸いながら説明してくれた。彼(彼女)はそこで食べるらしく、野菜を切ったりするスペースに、皿と割りばし、飲みかけの缶ビールが置かれている。「風呂屋の掃除が終わった後、商店街の知り合いに『何か売れ残り、ない?』ってお願いさせたの。そしたら、結構な量になったってワケ。」まだ、冷蔵庫にあるからね。じんさんはにっこりと笑う。部屋の端でさとるさんと正人さんと共に小さく座っているみっちゃんを見る。「まぁ、有難い事に、売れ残りだからって、安く譲って貰ったわよ。それでも○万は飛んだけどね。」みっちゃんは、干からびた様子だ。「後で僕も払うよ。」「うぅ、俺、年末のボーナスは奨学金の返済で一円も残ってないっすよぅ。」男三人は、互いを慰めているようだ。「ほら、座って。」たくやさんが自分の隣を指す。「皆、座ったわね。正月早々、お疲れ様でした~。カンパ~イ。」じんさんが音頭をとる。裸男達は、グラスを上げるだけにしたが、自分は手の届くたくやさんとじんさんにカンパイした。「八百屋からは“自家製たたきゴボウ”と“カブの千枚漬け”。山Pからは、“黒豆”と“五目まめ”、あと“味付き折れ数の子”。」じんさんは、何が誰からの品か逐一説明してくれた。たくやさんのご実家からも、余分に買い置きしていた鶏肉を提供頂き(これは、後日みっちゃんがタダ働きする事が約束されている。)、唐揚げと姿を変えた。その他にも肉屋、魚屋、乾物にお茶屋さん、整骨院や美容院の方からも分けて頂いたのだという。「「人徳よねぇ~。」」たくやさんとじんさんは、ほほほと笑い合っていた。




