カウントダウン 後始末
コインランドリーも、今日の夜7時で閉まると注意書きの張り紙が既に、外から見えるようにガラス扉に貼られている。忘れ物がないか、洗濯機と乾燥機の中を調べ、床を掃く。それからバックヤードの窓口へと移動し、冬休みの宿題をする。スマホのLINEの通知が鳴る。見ると朋ちゃんだ。『暇すぎ』と泣きのイラストが入っている。「宿題は?」と返せばすっとぼけた顔のタコのスタンプが返ってきた。すかさずリンダも入り、『やべ、数学のワーク、寮に忘れてきた!』と致命的な報告してくる。『知らん』「知らん」と朋ちゃんとほぼ同時に返し、自分の宿題を進める。しばらくして、再びLINEが鳴る。二人のどちらかか、と思ったが違った。幼なじみだ。『ちょっと?!正月、帰ってこないの?!』と怒るウサギと共に送られている。「…忘れてたな。」うっかり報告した気になっていたようだ。
彼女は、再婚した父や義母に会うのは気まずいと、極力、実家の部屋には近づかないでいたらしい。しかし、さすがに正月は帰ってくるかと思っていた。LINEも、こちらから連絡したら催促したみたいで悪いし、と様子を伺っていたが、帰ってきた様子もくる様子もない。今朝、たまたま彼女の母親が不燃ゴミをマンションの共同集積場所に持っていった時、父と鉢合わせたので聞いてみると帰ってこないという。しかも、父は既に離婚している為、義母に遠慮があって、という訳でもなさそうだ。これは、どういう事だ!と、怒れる彼女からのLINEの文章、火を吹く勢いである。
「バイト…が…。」正月にバイトに入るとプラスがある事と、帰ったら親父がどうなるかの説明を短く送る。『…判った。』と返ってきた。春休みに会う約束をして、スマホを置く。
それからは黙々と課題をこなす。足先が冷える為、足元の電気ヒーターの前で常に動かしている。何人か客が来たが、大晦日の為か、いつもより少ない。自分の洗濯も終わり、服をカゴに入れてアパートに戻る。みっちゃんの部屋に入ると、煮物の出汁の香りが充満していた。炬燵の上の重箱や、オードブル用の皿には色々な料理が入っている。「豪勢っすね。」コンビニでも“三ツ星シェフ監修”の謳い文句のお節を扱っているが、それとは違う、“家庭のご馳走”といった内容である。
「幸君、お昼どうする?お握りなら、あるけど。」と、みっちゃんが絶賛握り中のお握りに海苔を巻く。皿には既に10個ほど並んでいる。「2つほど頂いてもいいっすか?自室で食べながら宿題、してしまうんで。」そう言うと、みっちゃんはラップにお握り2つを包み、渡してくれた。「有り難うごさいます。」「はーい、中身はランダムだからね。」…なに?
外階段を上がりかけた時、敷地にバイクが入ってきた。正人さんだ。駐輪場に向かわず、こちらまで走ってくる。「お疲れ様です。」エンジンを切り、フルフェイスを脱ぐ正人さんに挨拶をする。「やぁ、今からお昼?」目映い笑顔の正人さんは、自分が手に持つお握りを指差す。「自室で食べようかと。宿題、終わらしたいんすよ。」「今年の宿題、今年の内に。って事だね。僕も部屋の掃除、終わらせなきゃ。」そう言って、みっちゃんの部屋に入っていく。その背を見送り、慌てて辺りを見回す。一応、不審者、いや、不審な女がいないか見る。「多分、大丈夫みたいやな。」幽霊が現れ、高い位置から見た幽霊しか見えない景色を判断して伝えてきた。「はぁー…。」ため息をつきながら、階段を上がる。足元を確認しながら慎重に。もう、あんなのはこりごりである。短く刈り上げた頭に、寒風が凍みる。自室で暖房をつけながら、お握り片手に宿題を終わらすべく、机に向き合う。夕方4時にはバイトが入っている為、無駄な時間はない。幽霊は自分の宿題のワークを赤ペンで採点している。「まぁ、色々迷惑かけとるし。僕の用事に時間割いてくれる事もあるからな。サポートはするでぇ、大人やからなぁ。」いや、それ以外にも役に立ってくれ。とは、思わずにいよう。
みっちゃんのお握りは、爆弾だから一口齧るだけで、しゃべれない。「!」何か固いものを噛んだ。お握りをみると、「…コウナゴ?」かっちかちになった小魚のつくだ煮が入っていた。…冷蔵庫の掃除だな。みっちゃんとは、そういう奴なのだ。
大晦日の夕暮れ、住宅街は静かに時を待ち、商店街もシャッターを下ろす店がちらほら。なのに、コンビニは忙しかった。遊び場のない小学生は駐車場の端でカードの交換会をし、同じく中学生は買った一番くじを仲間と見せ合い、女子高校生は友達とお泊まり会なのかお菓子を大量買いし、男子高校生はエナドリを買っていく。それに、予約のお節の引き渡しが重なり、酷い有り様だ。「幸君、フライよろしく。」「うぃっす。」30分前に揚げた当店人気の“つゆだくチキン”がみるみる減っていく。フライヤーにチキンを放り込み、タイマーを仕掛ける。その間にドリンクの補充である。酒も、カクテルやチューハイなんかがよく出ている。再び、フライヤーに戻り、ちょうど揚がったチキンをバットに取り、レジ横へ。と、出かけて、足が止まる。レジに、彼女がいた。




