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並ぶレジで、自分の番がきた。ピッ。ピッ。と、商品を通す音。「年齢確認ボタンをお願いします。」店員に言われ、“はい”に指を持っていきかけた時、横から手が伸びてきて手を掴まれる。「お姉さん、お使いでも買えませんよ。」と、ボタンを押すのを阻止された。ばれた。ドキっとして、そちらを見る。短く刈られた頭に切れ長の一重。マスクをした()()()()だった。「あ…じゃあ、要りません。」平静を装って、お菓子と水だけ買う。店を出るまで、息が出来なかった。しばらく歩いて、店から離れたの頃合いで立ち止まり深呼吸する。「…バカだな。私。」掴まれた手を見る。男性にしては、小さい手な気がした。けれど、優しかった。咎める様な口調でなく、他の客に気づかれないように、何事もなく言ってくれた。しばらく立ち尽くした後、彼女はまっすぐ前を向いて歩きだした。


「しばらく、フライは見たくないっす。」夜、7時頃。客足がパタリと止み、静かな店内。「お疲れー(ゆき)ちゃん。助かったよ。」ぽっちゃりオーナー兼店長は、売れ残り、規定の時間が過ぎた肉まんを幾つかバットに取り出す。「今のうちに新しいの蒸さなきゃ。」近くの寺に、初詣をした帰りに買いに寄る客がいるのだとか。「まだ早くないですか?」パートのおばさんが、ジュースの補充から戻ってきた。「うーん、今夜は天気もいいし、参拝客も多いだろうからなぁ。」「おでんを足した方がいいんじゃない?あ、大根があと一切れしかないっ!」わちゃわちゃ言いながら、後半戦の準備をする。「大晦日でも、人の出入りって多いんすね。」ホットのドリンクを補充しながらパートさんに聞く。「まぁねー。地元の人間が多いのもあるし、この道路沿いにあるコンビニ、うちとこだけだしね。」以前、数メートル先の反対車線側にもコンビニがあったそうだが、今は整体になっている。「(こう)君は、友達とカウントダウンしないの?うちの子は大学生だけど、皆と除夜の鐘打ちに行くって言ってたわよ。」「行かないっすねー。眠くて起きてらんないんすよ。」「若いのにー。」適当な話も、来店のベルを合図に終わった。

夜9時、「お先失礼します。」「お疲れー。よいお年を。」「よいお年を。」この時しか言わない挨拶をし、帰路につく。確かに、大晦日とは言え行き交う車や、歩く集団がちらほら。「やぁ、えらいもんやな。家族揃って、紅白観ぃひんのか。」幽霊が、年寄り臭い。「今じゃ、いつでも音楽が聴けて、推しを見る事が出来るからな。」冷たい風をマフラーで防ぎながら、前に進む。「くぅっ。さみぃ~。」頭は毛糸の帽子プラスヘルメットで守られている為、寒風は免れている。「それよりよ。さっきの。」「あぁ?」幽霊は並列しながら話してくる。「あの酒の缶、買おうとしてたん。あの子やろ?」幽霊は空中を指で弾く。「…あぁ、島崎さん。」自分が言うのも何だが、大人の女性に見えるようにメイクし、服も大人びていた。「いゃあ、お前のメイクで判ってた気になってたが。俺もまだまだやなぁ。」何に関心しとるんだ。「…見ろよ。パトカーだ。」先ほども、巡回する白バイを見た。「万が一、お巡りにパクられてみろ。この酒、どこで買ったんだってなるだろ。」自分の働く店でトラブルなど後免被る。「大晦日で、浮かれた奴らが仕出かさんように見回りか。お巡りさんも、大変やなぁ。」幽霊は、静かに走り去るパトカーを見送りながら労う。「早く帰って寝たい…。」あくびを噛みしめつつ、ペダルを漕いでいく。

幸い、今夜はコンクリート片が降ってくる事もなく、アパートについた。自転車を置き、自室に戻ろうと階段を上がりかけた時、みっちゃんの部屋の扉が開いた。「あ、お帰り。」正人さんだ。「あれ?なんで正人さん?」この時間、みっちゃんは『ぷいぷい』にて、常連客と年越しすると言っていた。じんさんの“年越しそば”が、数量限定で振る舞われるからだ。「みっちゃんは仕事行ったよ。僕とゆり子さんだけ。荷物置いたら、降りといでよ。」そう言って、部屋に戻っていく。「…あれかな。自分が帰らないから、居てくれたんだろか。」申し訳ない気がしてきた。気を使わせてしまった。自室に入り、暖房をつけ、アウターや、マフラー等を外す。「腹、減ったぁ。」あくびも出る。「お疲れさん。仕事納めやな。」幽霊は空中に寝っ転がって漂っている。「いや、お前はどうなったんだよ。まだ、戻れないのか?」冷蔵庫から、お茶の入ったボトルを取り出し、コップに注ぐ。「そうなんよなぁ。」なんとも、頼りない返事だ。「前にも言ったんやけど、戻れやんのは一種の自己防衛やろって僕らは考えたんや。」僕ら、『地縛霊、浮遊霊仲間』の事か。「ほいで、僕が幽体離脱するきっかけになった事故を見たやつ探してたんけど、やっぱりわからへん。」幽霊はくるりとラッコのように回る。「でや、ちょっと違う角度で考えたんや。」「なんだよ。」寒くても、自転車を漕いで喉が渇いていた。冷たいお茶が体に浸みる。「なんで、僕は高校生か。」

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