年越しまでの話 髪型は、人を選ぶ
なんだか、長い話になってしまって申し訳ない。楽しんでくれていたら幸いですが…。
「あーっ!!」「やだっ!何、その頭っ!」たくやさんとじんさんが、叫ぶ。
“ぷいぷい”に出勤して、店内に挨拶しながら入ったと同時の事だ。「せっかく伸びてたのに~。」「もう少しで、くくったり編んだり出来たのに~。」何を惜しがっているのやら。「もう、鬱陶しくて我慢出来なかったっす。」と、頭をなでるとチョリチョリした毛が手にふれる。…短くし過ぎたかな。「あんた、そうなったらますます、男っぽくなっちゃうじゃない。」何故かじんさんが、膨れている。「まぁ、ウィッグがあるっすから。」「けど、短いとヘアーネットからでちゃうでしょ?」ウィッグは、元の髪を抑えるヘアーネットを被り、その上にウィッグを装着する。クリップやピン、テープ等手法は様々だが、薄いカラーリングのボリュームが少ないウィッグだと、地毛の黒い短い毛が逆立って見えてしまう。「大丈夫っす。冬休みの間に伸びるっすから。」約二週間あれば、髪が伸びて自然と毛が寝る。それに、学校用のウィッグは黒髪だ。目立たない。「にしたって、ちょっと短く切りすぎよぉ。」「お正月、可愛く飾り立てようと思ってたのに。あたしより短いじゃない?」自分の預かりしらぬところで、お人形にされる予定だったらしい。とりあえず、荷物を置きに二階へ。先日、片付けた後もじんさんとたくやさんは自分の荷物を持帰り、後は“ご自由に使ってね”の荷物のみとなり、さらに広さが増していた。が、「なんだこれ。」足元に目新しい、大手ネット販売店“ジャングル”の段ボールが置いてある。宛名は「…みっちゃん。」広くなった部屋に、早速余計な買い物をして荷物を増やす事にしたらしい。「…別にオーナーで店長でママだから、好きにしたらいいけどさ。」とりあえず、メンズメイクを施す準備をする。と、いつものウィッグを置くのっぺらぼうの置き台が増え、違うタイプの黒髪、濃いブラウンの短髪ウィッグが乗っている。「?」と首を傾げていると下からじんさんが「貰い物だけど、好きに使ってね。洗ってあるから。」との声が。
「わぉ、タイミングバッチリじゃん。」早速、センター分けの黒髪ショートを装着。それに合わせて、上着も変えた。
「あらぁ、良いとこの執事みたぁ~い。」白いワイシャツにスーツ用のベストを合わせただけだが、なかなかに好評のようだ。今日は、少し早めに開店している。この、“呑んたろ横丁”でスナックをしているママさんのお願いで、ママと仲の良い商店街の女将さんや同業のママさんとの少し早めの忘年会だ。酒焼けでかなりハスキーなお声のママが、「あんた、気をつけなさいよ。こいつら、無害な振りして結構危ないんだから。」「やだっ!カヨちゃんったら。あたしよりよっぽど肉食なくせに!」ガハハと笑い声が上がる。「幸君、氷、追加お願い。」「次のお料理出して。」「おしぼり、あるー?」「焼酎、濃い目でお願い。」何せ店に関わる女性が大半だ。自分たちも良く動き、目はしも利く。「今のうちに、この皿下げて。」「下げたグラスはすぐ洗わないと足りなくなるわよ。」そして人を使うのが上手い。じんさんとたくやさんが居るが、(みっちゃんは、最初から役に立たない。ママ達と飲んで食べてる。)やはり、おしゃべりに花が咲き、そうなると手が止まるので自分はてんてこ舞いになる。狭い店の中、機械人形のように、カウンター内とテーブルの間をいったり来たりしていた。「あら、こんな時間。幸君、お疲れ様。帰ってもらっていいわ。」時間を確認したみっちゃんが、慌てて席を立ち自分を二階に上げる。確かに、時計は夜8時。世間一般ではけして遅いとは言えない時間だが、自分は明日も朝4時起きでコンビニである。ウィッグに軽くブラシをかけてのっぺらぼうに被せ、着替える。下に降りると「「「あらぁ~。」」」おば様達が声を揃えて自分を見る。「やだぁ、可愛い~。」「懐かしい~。」「青春を思い出すわぁ。」扉までの短い距離を進む間に、四方八方から頭を撫でる手が伸びてくる。「お疲れ様っした。」外に出て、自転車に乗る。
「やっぱり、切りすぎやで。なんミリでしたんよ?」「んー、9ミリだったかな。」「あかーん。柔道部かっ!」なんの突っ込みだ。「野球部、剣道部、柔道部の順番で短いねん。今は長い髪も常識の範囲で許されとるけど、僕らの時は、結構厳しかってん。」「平成だろ?」「教える大人は昭和やん。」確かに、短くした頭はヘルメット越しに風がダイレクトに冷たい。「…。ウィッグ、被ろう。」自転車を漕ぐ。息が白くたなびく。暗い冬の道は、吸い込む前のトンネルのようだ。「早く帰りたい。」今日の晩飯は何だろう。
「あかん!」ガタンっと自転車が引き戻され、バランスを崩して自転車から落とされる様に降りた。「!!あぶっ!」後ろの荷台を引っ張ったのは明らかに幽霊。『危ないだろがっ!』と、ぶちギレかけたのだが、ゴドンっ、と重く固い音が前方で鳴った。自転車のライトの先に、大きなコンクリートの塊が転がっていた。通り先の工事現場から持ってきたような、割り出したコンクリートの塊。「…え…?」息を飲んだ。




