42.横槍
「あー……、終わった終わった……。だりーー」
「ご苦労様でした。テオ」
テオは存分に背伸びとあくびをする。
数時間に及ぶ現行犯の確保に加えて、それらに対しての聴取もしくは尋問。総計して十二時間の間働きっぱなしだった。
「魔物をぶっ殺すよりこういうことのほうが倍疲れる」
「なら今度こそ寝てきて下さい。仮眠でもいいので」
「お酒欲しいな♡」
「媚びないで自分で買いなさい」
「はーい」
そう言ってテオは自室に行く。
あれは着替えもせずにベッドに触れた瞬間に倒れ寝るくらいだろう。
それとほぼ同時に、窓のほうからノックが聞こえる。
エレナは手筈通りに窓を開けてその者を招き入れる。
「だりーー」
ジェスがテオと同じことを言うもので思わず苦笑する。
ここはジェスたちにこの連合国について色々話した時に使った応接間である。知っている場所ならば外からでも充分場所は分かるからここを空けてくれと言っていたが、そもそも分かる分からない以前にここは地上三百メートルくらいの高さはある。
「テオは、寝かせたあたりが妥当か」
「ジェスも眠そうですが、睡眠は必要無いとおっしゃっていませんでしたか?」
「あれは肉体的な疲労という意味合いでだ。精神的な疲労感が溜まれば寝たくもなるし物に当たりたくもなる」
いくら強大な力を有していても精神的疲労というのはそう簡単に解消できるものではないそうだ。
「なんでただの鬼ごっこに十時間も掛けないといけないんだ。周辺から進行方向にあらかじめ人をあつめるとか、魔法でも魔導具でも何でも良いから一斉に撃つか交代で断続的に撃ち続けるとかやりようはいくらでもあるだろうが」
うだうだと悪態を吐きながら、背中に背負っていた少し大きめの袋をテーブルの上で開き、中の魔導具を置いていく。
何やら部品を取り出して新しい魔導具を作るようだが、工具の類は一切必要ないようだ。
エレナは少しの間、その工程を観察する。
一つ目の魔導具が、ジェスの両手の中で浮き上がると少しずつ分解されていく。
見るからに魔法的現象。しかし一見して難解にはみえないその属性は、
「……風?」
「そ。風で絡めて部品を一個ずつ退き抜いてるんだ」
軽く言っているが高難易度の御業であることは一目でわかる。
そもそも形状を持たない大気を緻細な工具のように扱っていることが常識外れだ。
一般に魔法には消費魔力や破壊力に応じて階級区分というものに必ず割り当てられる。眼の前でジェスが扱っているものはその中の下の下、最も簡単とされているものだがその常識と比べてしまえば練度に天地の差がある。
ひょっとすると、上級の魔法を覚えるよりも遥かに難しいのではないだろうか。
そこまで考えてわたしが冷や汗をかいているのにようやく気付く。平静を装ってはいるが、相当な化け物を相手にしていることに違いない。
いつの間にかジェスは一つ目の解体を終えていた。
「あったこれこれ。こいつは魔力の通りが良いから遅延が少なくて済む」
たまにマシな部品が混ざってるんだよな、と嬉々として次々と解体しては組み立てるを繰り返す。
知見が広く、頭も切れる。戦闘力をおまけとしていい程に出来ることが多い。
(どちらかと言えば戦闘員よりも職人のようなもののほうが向いている気も……?)
初めて見た時から思っていたもう一つの疑念。
恐ろしい力を持っていると知ってなお、どうしてもただの子供に見えるのだ。
ただ、平穏の中を慎ましく生きたいと思うありふれる子供に。
「どうした?あんまりジロジロ見られても反応しづらいんだけど」
「あら。失礼しました。眠いと言っておきながら楽しそうに見えたので、つい」
「ふっふー。楽しいさ。専門じゃないから人にも期限にも縛られずのびのび没頭できる。『マナグラノス』で独自で工房すら一から作ったんだけど──」
相変わらず手元でさらりとこなしている神業はそのまま、自慢話のようにつらつらと語り始めた。
国を建ち上げるにあたって起こる様々な事件や難題でストレスゲージを貯めているところに、地下工房という浪漫で紛らわすことを思いついたこと。
ついでに乗っかってくれる「クリフ」という人物が部屋を大破させる等のやらかしをするから世話を焼いているが、なんだかんだで優しい友人であること。
何となく色話について聞いてみると恋愛対象として見ている者は今現在誰一人としていないと明かした。加えてそういう情事は本当に暫く勘弁願いたいとトラウマを呼び起こすような早口で。
その後もずっと続き、「後は──、うーん……」と言うことを無くしてしまうほどだった。
繰り返すがこのような会話のやり取りをしている限りでは本当に子供のようにしか見えない。だからこそ、時折りちらつかせる不気味さが際立っている。
「恵まれているんですね。お友達に」
「本当にな。助かりっぱなしで、何を返してあげられるかな」
「だからこそ、あなたが乃亜と奏波をどう捉えているのかが余計に気になってしまいます」
少し大胆に直球に聞いてみることにした。
ジェス自身もいつかここに辿り着くことは分かっていたはずだ。分かっていて退き伸ばそうともしていた。
「えー。本人たちに絶対言わないならいいけど」
「個人が裏に隠す本音を勝手に他人に明かすのは感心しません」
「ならいいや。『大事にしないといけない存在』であることは間違い無いけど、それは人として尊重しているからではない。一言にまとめてしまえばそんなもんだ」
人として尊重していないと言うのなら、希少価値の高い物質としてあの二人を大事にしているという逆説だろう。
こういう容赦の無さがあるから不気味さも同時に拭えないのだ。
「少なくとも今はまだ様子見だな。どちらも未熟が過ぎる。特に奏波はまずい」
「奏波ですか?乃亜ではなく?」
「ああ。自覚が無いだけでな。あれじゃ良くも悪くも、性能が良い乗り物だ」
多少呑み込みづらい喩えだが言いたいことは分かった。
そうか。言われてみれば少々危険かもしれない。
「大丈夫なのですか。奏波をクロードも下に連れて行ってしまって」
「懸念があれど奏波には成長してもらわないといけないからしょうがない。あいつの母親の病気を治しても娘が死にましたじゃ後味悪い。それは余計に人を追い詰める拷問に等しい」
暗に、これくらいは何とかしてもらわないと話にならないと言っているのだろう。こちらの世界で手を焼くことであっても目の前に触る一次元の違う存在からしてみれば些事。
(ここに、クロードが居なくて良かった)
クロードが居なくて悲しんでいるというのに、こういう時だけは居てほしくないと思ってしまう。
あの子がいたら、きっとジェスのように自慢話を始めてしまう。
「俺も一つ聞いていいか?」
「……答えられることであれば」
少し嫌な予感がしたから一言目に詰まった。
「自覚は、あるんだな?」
「っ!?、……はい」
やはりこの人にはバレてしまうものか。
主語が無くてもジェスが何を指して物申したのかは分かる。
それが、クロードを怒らせた理由そのものだから。
「少し前に奏波に才能があるのが少しだけ妬ましいって言ってやったんだが、これに関してはエレナを妬むことは恥だ。自分で考え抜いて、自分なりに芯を持って生き抜いて、漸く出した答えが今のエレナなんだ。誰かを貶めることを誰よりも嫌う性格に向き合って決めたこと対して責めるのはお門違いだろ」
成程。これは乃亜が好くわけだ。
優しい。上辺だけで人を見ずに本質を捉える目を備え、共感力が豊かだからか言葉選びに困っていなさそうだ。
「俺が惹かれるのは大体そういう起因性だ。そういう確かな事情を持つ者に対しては素直に尊敬の念を抱く。まぁ、よく頑張ったな」
「あら。そこまで言うならわたしは今晩このままここで寝てしまおうかしら」
「マっっっジで勘弁して下さい自室にお帰りください。頼むから俺に変な属性生やさないでくれ。誤解を解けずにブチ殺される未来しかみえない」
急務であるはずの手元の作業を中断してまで土下座してきたことから異常な本気具合が伺える。
というか、別の世界で王様をやっている人の頭がこんなに軽いのはあまり良いこととは言えないのではないだろうか。
「さ、流石にそこまでしませんよ……!」
「だとしても倫理的に駄目だから。それ以前に、サプライズ企画があるんだから余計にお前の身体を労るのは必須だろ。無駄話に付き合わせて悪かったな」
うん。これは優しいだけでなく不器用という要素が混じることであの二人は手を焼いているのだろう。
そしてこの先、彼らが仲良くなる未来があるとすればそれはこんな場所などではないない。
仲睦まじいと言えるようになるまでに必要なのはありきたりの日常だ。何も起きず日常を過ごして存在が生活に溶け込むようになるまで、生きていなくてはいけない。
*****
エレナに土下座して帰っていただいてしばらくし、魔導具が完成した。
形状を端的に言うならば箱が二つ。性能も端的に言うなら通信機。
『ネメシス』で哨戒するユラに渡したものとは違い、こちらは文字で伝えることができる。
しかし魔導具というものは一長一短。
隠れて哨戒してもらうユラに渡してあるものと違いこちらは秘匿回線を構築していない。秘匿回線とは通信する物体同士が魔力を発し合う動線を感知されにくくする特殊なオリジナルコードのことだ。これの構築には途方もない時間を要することになるため面倒。なおユラに渡した魔導具の秘匿回線をいつ作ったかというと『ネメシス』で俺が学生生活をしていたときに内職しまくったときだ。
話を戻すと、逆に今作り終えたこちらにはその秘匿回線を設けていない。どうせ気付ける奴いないと思うし。常に曉圏を発動できるような魔力量のお化けなら分からないけれど。
とにかくそれを設けないことで空いた容量を別ベクトルに当てたことで文字表記を可能にした。しかも即興品なので継続的に使用することを見据えておらず、寿命は長くても一ヶ月程度だ。
他に挙げるならば有効距離は断然ユラに渡したもののほうが長い。
総合するとユラに渡したもののほうが格段に質がいい。自信作だし。
「あとは受信用のこっちをルワンダかエレナを経由して渡せばいいか」
そういえば俺が泥棒ごっこをしているときルワンダを見かけなかったが、俺に色々言った後何処に行ったのだろうか。
さておき、この応接間は可能な限り早く空けたほうがいいとエレナに聞いている。なにぶんここは少し豪華な方であるため、次にここを使う人がいるらしい。
姿を見られないように念を重ねて外につながる窓からでる。いくらなんでも地上三百メートルある高さを常に見上げる輩はいるまい。窓から外の出て宙を浮くと外から遠隔魔法を使い内から窓の鍵を締める。
作った魔導具は俺のお馴染み、身体に直接入れ込もうとするが、
「やっべ入らねぇ。〈物質生成〉でいつでも作り直せる外套は棄てよう」
余計に大きいサイズの外套を燃やし尽くす。火炎魔法を苦手とする俺だが魔力抵抗が低いただの物であれば話は違う。
そして残念ながらこの自分の身体に物を収納する能力、ドラ◯もんを彷彿させる四次元ポケットのような便利さはない。最大容量は俺の体積分だ。一見地味だが重量を完全無視して積むことができるため剣や大鎌を帯剣?とは言えないかもしれないが持ち込み自由なのは有り難い。
大鎌は折りたたみ式にしなければならなかったのは不服だが。
「さて、クロードの件には関係ないがこれも調べておかないとな。もしかするとこちらのほうが重要な事かもしれないし」
空間魔法を使うために、俺は王宮から距離を取る。
数時間後に戻れば大丈夫だろう。
数時間後──
用を済ましきれてはいないが、さすがにクロードの件を優先するために王宮に帰ってきた。とはいえ集合する場所は聞いていないのでどうしたものかと悩んでいると、なにやら視線を感じる。
それも温厚ではない視線を向けられている。
「そこの柱に隠れてる人出てきなよ。理由次第では悪いようにしないから」
バレているなら仕方がないと判断したのか、一人の人物が物陰から出てきた。
昨晩にエレナとテオの根回しにより内通者にあたる者たちはあらかた捕獲したはずだから、おそらく連合国の公式機関の何者かだろう。
「失礼しました。こちらは国王直属の斥候とでも言っておきます」
「へぇ。随分と上層部からのお声がけだ。何の用?」
そもそも俺が直接的にエレナたちに手を貸していること自体、知る者は少ないはずだし、『死神』としての俺の正体も隠し通せている自信がある。
つまり公的に言えば、この人はただの一般人を相手にしているような者なのだ。
「報告書のリフトの件で、国王様は貴方を歓迎していないものでして」
あー。『奈落』でリフトの性能を俺が向上させてしまったことはテオでも誤魔化しが効かなかったらしい。あの場に魔導具に精通する面子がいなかったからどうしても他の何者か、要するに俺たちのいづれがやったことになるのは必然。
そしてそれが原因で国王様に歓迎されていないとすれば、
「つまり魔導具の知識を許容以上に蓄えている俺はあまり好ましくないと」
その士官が頷く。
この連合国が魔力にまつわるものを後世に伝えることを嫌っていることはとうに聞き及んでいる。
「んで、今から俺は殺されなくちゃいけないのか?好きにしていいけど、こっちも殺されるというなら全力で抵抗する」
「いえ、貴方は狙いません。ここにいてもらいます」
「俺以外の二人を倒して人質に、とか考えてる?今まさにやってるかもしれないけどさぁ、こっちも一つ提示しておこう……」
言っていることは理解できるしある程度は共感できる。
だが今、お前らに構ってる暇はないんだよ。
頼むからこれ以上無駄に時間を使わせないでくれ。
*****
「まずったな。待ち合わせ場所を指定していなかったからジェスがここまで来られるかどうか」
テオが己のミスによる懸念を唱える。
王宮というだけあって広大な迷路のような構造をしているため、マップを知らずにここまで辿り着くのは至難だ。
ここのようなただの会議室であっても相当に苦労する。
他に協力してくれる部隊の長、といってもそれらはクロードたちの策略によって討たれてしまいここに集まっているのは副といえる者たちだが、この会議で打倒クロードの作戦会議を行う予定だ。
「大丈夫じゃないですか?お師匠様は広い範囲の感知が得意なようですし」
エレナに連れられて乃亜と同行している奏波が問題ないことを指摘しようとするが、さすがに王宮とあって対策があることをテオは冷静に返す。
「一応この建物の壁には攻撃性の無い魔力の動きを阻害させるものが働いていてな、曉圏をある程度制限できる。一本道なら問題無いが壁の向こうまでは見えないから結局はただの迷路になって路頭に迷う。まぁ例外があるとすれば──」
冷静に話していたテオが次の言葉を告げる前に固まる。
しかしそれはテオに限らず、乃亜も奏波もルワンダもエレナもその他の者たちも等しく同様に。
テーブル上のグラスがカタカタと音を立て揺れる。
椅子も同様の動きで揺れる。
──王宮全体が揺れている。
そして嫌な予感というのは、案外一致する。
「ジェス、しかいないよね?一体なにが……」
「チッ、お前たちはこのままここにいろ!」
テオが最も速く駆け、窓を開けて飛び降りた。
「ぅえ!?ちょっと!」
「テオは飛べるので問題ないです。それよりこのタイミングでジェスに接触しようとするものはそう多くないはず。居るとすれば国王直属の情報機関くらいしか……」
その場にいた者はみな、テオの駆け付けが間に合い解決するのを祈るばかりだ。
そして偶然、テオが消えたこのタイミングで、魔の手は忍び寄る。
*****
地響きの主犯は乃亜たちの予想が合っている。
「っ─!?」
「これで分かるよな?俺はいついかなる時でも、何処であってもお前たちの王様を殺せる。阻止したければ今すぐあの二人から手を退け」
魔力の全力解放とは基本形としては効率が悪い。
しかしながら、効率的と言える場面が一つだけある。
それが最大出力を発揮させる瞬間。
体の一部からではなく、全身から放出させる魔力を一点に御すことで貯めの時間をを短くすることが出来る。
もはや基礎知識といえる常識的な話だが、その技術が極限に達するとき魔法を扱う者として圧倒的な優位性を持つという奥が深い技。
「流石にこの世界でも伝わってるだろう?これが風魔法における最上位魔法の一つ〈天地を架ける烈風〉だ。これなら雲まで貫通できるし、うっかり途中に一般人が居れば死ぬぞ」
「……人質交換のつもりか」
「上で動かしている奴等を今すぐ止めろ。交換にこいつを撃つのは止めてやる」
こんなことをしてくる奴らだ。トランシーバー程とは言わずともそれに近い暗号か何かを送れる魔導具くらいはあると考えられる。
「おいジェス何してんだ!……あー、ヤバいな。俺が降りてきちまったのは失敗だったかも」
背後、つまり外からテオが回り込んで来たようだ。
そして周囲の状況を直様把握してからこちら側に着く姿勢をとる。
そして、恐らく上に居る者達に対してこいつらが何かしらで手を出そうとしていることも瞬時に悟る。
「何をしているのですかテオ・ウィンシェル。今のは静かに背後からその者の首を取れたでしょう?」
「俺がいつお前ら役立たずの情報機関に味方をした。身内間で情報封鎖ばかりして、碌に役立つ情報を下ろさないクソどもが」
「口の聞き方には気をつけた方が身のためですよウィンシェル」
この情報機関の人物らしい者とテオの口喧嘩に乗る時間は無い。
「じゃかあしい。さっさと上の奴らを止めさせろ。王様だけじゃなく、テオの前にお前を殺すぞ」
「出来るとでも?」
(発言的に、ユラのような回避特化の権能の所持を疑うべきか)
……だから何だという話だが。
こんなゴミが、同程度の技を持っているはずがない。
「最終警告だ。上の奴らを今すぐ止めろ。でなければ先ずはお前からだ。気が立ってるから判断は急いでくれ」
「……分かった。手を退こう。化け物を相手に真っ向から交渉を持ちかけたのが悪かったんだ。だからその物騒な魔法を解除してもらいたい」
「その十七人は未だにみんなを拘束しているようだが?」
「……貴様。何故その人数を、」
「問答は必要無い。最終警告だと言ってるんだ、とっとと退かせろ!」
「ジェス落ち着け。その前にお前は国王を人質にしてるんだ。あいつも今のところは手を出させないように指示を出してる」
……言われてみればそれもそうか。
『切符』を無くしたらと焦りすぎていたことを遅れて自覚する。
「……ふん、今度こそ手を退いてあげましょう。しかしこちらもこれを生業としているので、いずれまた会うことも承知の上でいてもらいます」
情報機関の者は何かしらの魔導具で信号を発し、それと同時に上の連中も撤退しているのを確認した。
全員が間違いなく手を出さないと判断したところで、空間魔法と〈天地を架ける烈風〉を解除する。
「テオ。悪いけど案内頼めるか?何処に行ったらいいかは分かるんだが、道中の迷路に困ってな」
「その前に、こっちは胃がキリキリ痛ませられる体験させられたんだからな。上にはうちの奴らもいるんだから、いくら何でも天地を架ける烈風はやり過ぎだ」
「ははは。悪い悪い。俺脅す時は結構徹底することにこだわるタイプだから」
天地を架ける烈風は事実上、俺が出せる最大火力とも言える。これでダメージが入らないのであれば完全にお手上げとなるのだ。
なおそんな大技を大して懸念事項を気にもせず使えるのには、ここでは謹んでおくがカラクリがある。
文句は言いながらもテオは駆け足で俺を案内してくれている。
「大体、こっちでは風の最上位魔法なんて殆ど伝説レベルだぞ。オーバーキルにも程がある」
「伝説は盛りすぎだって。頑張ったらテオ単騎でも使えるかもしれないぞ」
理論値とまでいかなくとも、テオほどであればロス魔力と総合出力を高めれば使えなくはない。
そんな一撃必殺、もといハイリスクを好んで使うかは本人次第だが。
「生憎、人を相手にするのが本職だからな。それよか俺は小回りが効くものとか魔力の圧縮法とかのほうが興味ある」
結局のところ、こういう発想に辿り着く者が強い。
大技というのは既に最大チャージ済みの初手で放つ場合を除き、小技があってこそが常だ。
例えるなら、サッカーであればシュートの能力がカンストしてようとも現実的にはドリブルやボール保持を疎かにすればほとんど意味無い能力となる。
決定打があるに越したことではないが、如何にして決定打に繋げるかというのが鉄則。
小回りとか魔力の圧縮という基礎から堅実に積み重ねているテオの実力はやはり伊達ではないのだろう。
ほどなくして俺もその会議室に入れてもらうことができた。
人数の多さから対クロード戦法を練ることは悟ったが、その前に一人言っておきたいことがある。
「さて、ばっちり即拘束されていた不肖の弟子よ。何か言うことは?」
「不甲斐ないです」
こいつ、何気に反応が遅れて乃亜と同じように軽くあしらわれていやがったのだ。
ルワンダは一人の首を絞め落とし、エレナは服に忍ばせていたワイヤーのようなものを駆使してもう一人を拘束し切る僅か手前で二人以外の全員が拘束という事態になり大人しく抵抗を止めざるを得なかった。
「ルワンダより動けないのはまぁ経験則から見過ごしてやるが、いくらなんでも戦闘でエレナの足を引っ張ってるのはどうかと思うぞ。初対人というわけでもあるまいし」
結局はこういうことだ。
まさに力だけ蓄えていようと使わせなければいいという典型例なわけだ。奏波が遭ったのと同じように、能力値において一般人であるはずのエレナがやり方によっては普通に格上を封じていた。
「ま、まぁ不意打ちだったししょうがないんじゃないかな?」
俺が非難していることに対しての仲裁か、今回ばかりは本当に落ち込んでそうな奏波を宥めるためか乃亜が割って入った。
「『不意打ちだったらしょうがない』じゃないんだよ。戦闘中真っ只中の一対一の状況下でも不意打ちってのは成立するんだから」
「なんかジェスが言っても厳しく叱りつけてるだけにしか見えねぇが、一応本当のことだからな。真っ向勝負に相手が付き合ってくれないと強くないというのは結構弱点だと思うぞ」
テオまじでナイス。
現状の奏波の弱さを的確に突いてくれた。
「他の人はこんな会話を聞くために集まってくれてるんじゃないからこの話はここで終わるが、お前ら二人とも俺が頑なに権能の所持を隠していたのが幸を奏したんだからな?ゆめゆめ忘れないように」
そう。この二人はあくまで対俺のための人質として使うために即抹殺を避けられていたのだ。俺だけが虚偽の権能を明かしたり俺だけが表舞台で行動や意見を出したりしたことが理由で『この二人は何も無い』と勘違いしてくれた。
これらも結果論でしかないので今回のは本当に危なかった。
「それで今どんな感じなんだ?俺がいない間に色々と話進めてた?」
「ジェス待ちでしたよ。出発自体は今夜中には可能になるようにしてもらってます。そういえば例の魔導具というのは完成してるのですか?」
エレナが俺の問いの解を出し、不安材料の一つを挙げる。
「ちゃんと完成済みだ。ほら」
そういって手を身体、もっと正確には黒翠闇のモヤの中から魔導具を取り出す。乃亜と奏波以外は初見のためぎょっとされてしまった。
どこからか気持ち悪いという感想も聞こえたがまぁ致し方ない。
「どうなってんだそれ」
「こればかりは企業秘密」
実はこの黒翠闇、実戦投入する運用法も存在するのだが明かすことはできない。
「とにかくこれからどうするか話し合うんだろ。時間かけてる場合じゃないしその他多勢の命を賭けるんだ。俺にできることがあるならその都度挙げていくから」
力の詳細は明かせないから、これが俺からの精一杯の誠意だ。
最上位風魔法一覧、特化役割
〈天地を架ける烈風〉貫通力、破壊力
〈千万咲く斬旋風〉斬撃の手数、巻き込み能力
〈彼方へ駆ける疾風〉 衝撃力、推進力
それぞれギリシャ神話モチーフです。




